似て似つ番外編 | ナノ




海行く話.1


「え?海?」


夜、突然家に来た総悟。
何を言い出すのかと思ったら、海に行かないかってお誘い。お誘いって言っても、これたぶん拒否権ないやつだ。


「なんで、突然海なの?」

「夏だからだろィ。」

「うん、まぁ、そうだけど…。」

「つっても俺達真選組は遊びに行くわけじゃねェ。将軍様と妹のそよ姫の護衛だ。」

「しょ、将軍様!?!?」

「男だけでゾロゾロ行ったってなんの面白味もねェだろ。将軍様にナンパさせる訳にも行かねェし。だから女連れてこうって話になりやした。」

「いや無理だよ!?将軍様の相手なんか出来るわけないじゃん!?雲の上のお方だよ!?」

「案外もっさりブリーフだから心配すんな。」

「ねぇディスるのやめて!!?打ち首されるよ!?!?」

「それに連れてくのはアンタだけじゃねェ。不本意だが万事屋も一緒でさァ。」

「え…あの人達、将軍様に会わせて大丈夫なの?」

「アイツらもう何度か会ってますぜィ。今回アイツら連れてくことになったのも、そよ姫とあのチャイナ娘が友達らしくてねィ。姫様直々のご指名なんでさァ。」

「銀さん達が何度か会った上でまだ生きてるなら…大丈夫なのかな…いやでも…それ以前に問題が…」

「なんでィ。」

「私さ……お、泳げないん、だよね。だから、海もプールも行ったことない…。」


子供の時、川で溺れて以来、泳ごうと思ったことなんて一度もないから。


「……ブッ。」

「笑わないでよ!!しょうがないでしょ山育ちなんだから!!」

「べ、別に、泳げなくても、問題ねェ。」

「ねぇ声震えてるから。笑い堪えきれてないから。」

「とりあえず女連れで海水浴できりゃいいんでィ。来週の木曜な。」

「うわ、奇跡的に休みだ。」

「それから水着ももう買ってある。ホレ。」


総悟が渡してきた紙袋から中身を取り出してみると、ごく普通の白のビキニだった。
絶対変なの入ってると思ったからツッコむ気満々だったのに。


「ちなみにそれ、真選組総員の投票で選ばれたやつな。」

「は!?なにそのプレッシャー!!!逆に着づらい!!」

「それ着なかったら打ち首と思え。」

「うっ…。分かりました…。」

「じゃ、当日7時に迎えに来る。寝坊したら打ち首な。」


総悟が帰ったあと、試しに水着を着てみたら、測ったようにサイズがぴったりで怖かった。

それから毎日不安は募るばかりだったけど、時間を止める術もなく、当日になってしまった。



7時少し前、玄関を出て階段を降りていたら、丁度目の前に2台の車が停まった。
パトカーじゃないんだ。
片方の車の窓が開いて、中から山崎さんが声をかけてくれた。


「おはようございます夕日ちゃん!こっちの車の後ろ乗って下さい。」


もう一台の車には近藤さんと土方さんが乗っていたので、お誘いありがとうございますと挨拶をしてから、山崎さんの乗る車へ乗り込んだ。
助手席には変なアイマスクをして爆睡する総悟。
てゆうか皆アロハシャツなんだけど。すごいノリノリじゃん。


「や、山崎さん、あの…将軍様はいつお見えに…?」

「あぁ、将軍様は現地で合流だよ!お忍びだから、移動はなるべく目立たないようにしなきゃいけないからね。他の隊士もバラけて集まるから、とりあえず海までは俺達だけ。よし、万事屋寄ってあの人達拾うね。忘れ物ない?」

「はい、大丈夫です!」


然り気無く気配りしてくれるあたり、山崎さんといると安心する。


程無くして万事屋に到着すると店から出てきたのは、眠たげに目を擦る銀さんと神楽ちゃん、それから新八くんとお妙さん。

窓を開けて手を降ってみたら、「夕日さんも呼ばれてたんですか!?」と新八くんがリアクションしてくれた。

事情を話すと長くなるので曖昧に返事をすると、今度は誰がどっちの車に乗るかで揉め始めた。

結果、銀さん一人がこちらの車に乗って、あとの3人が土方さんたちの車に乗ることになったらしい。
あー、神楽ちゃんは総悟が嫌なのね。
お妙さんも近藤さんと一緒は嫌がったけど結局バーゲンダッシュ10個で方を付けたみたい。


「おはよう銀さん。」

「よぉ。お前も巻き込まれた口か。」

「まぁ、そんな感じ。銀さんは…意外とノリノリなんだね。」


眠たげな顔とは正反対に、銀さんが着てるのは眩しいくらいの赤いアロハシャツ。
中には"ビーチの侍"と書かれたTシャツ。


「ノリノリなわけねーだろ。海なんか暑いだけだし砂はうっとうしいし。水着ギャル拝むくらいしか楽しみねぇじゃん。」

「ノリノリだね。鼻からノリノリな液体出てるね。」


真っ赤なアロハシャツに負けないくらい真っ赤な鼻血を垂らす銀さん。


「海ってやっぱりそうゆう場所なの?ハレンチな格好した男女が、大自然を前につい開放的な気分になってハレンチなことする場所なの?」

「ちょっと夕日ちゃん何言ってんのぉぉおおお!!?!?」

「え、なにお前、海初めてなの?」

「うん。水着着るのも初めて。」

「まじか。…黒?」

「…白。」

「白か、まぁ悪くねぇな。お前のイメージからすると黒着てきそうなもんだけど敢えてそれを覆す白な。悪くねぇ。」

「鼻血垂らしながら力説するのやめて。ホントやめて。」

「旦那、ちなみにそれ俺達のチョイスです。」

「俺達?」

「真選組で総会議したんですよ。もう近藤さんなんてすごい熱の入れようでしたよ。会議で口論になったんで最終的に投票で決まったんです。」

「暇なのお前ら?」

「俺は水色に投票したんだけどなー。」

「「水色はねェな。」」


いつのまにか目を覚ました総悟が、アイマスクをグイッと上げながら後ろを覗いてきた。


「アレ、おはよう総悟。」

「ちなみに土方さんは白に投票してやしたぜィ。」

「ねぇもうやめて!?どんどん着づらくなる!!重圧が半端ない!!」

「心配すんな、多少体型崩れてるくらいの方が興奮するって言う隊士も結構いやしたぜィ。」

「え、全然慰めになってない。」


その後も車内では白熱したビキニ談義が続いた。

………帰りたい。


つづく
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