似て似つ番外編 | ナノ




海行ったら坂田が変態化した話



「あっいた!かぐらちぇ"ぶっ!」


海の家を出て、砂浜を見渡すと左奥に神楽ちゃん達の姿を見つけて、そっちへ向かおうとしたら後ろから思いっきり口を塞がれた。


「待て夕日、アレを見ろ。お前アレがただのビーチバレーに見えるか?」


口を塞いだのは他でもなく銀さんで、私が持っていた大きな浮き輪を取り上げるとその影に隠れて何やら解説を始める。


「アレはただのビーチバレーじゃねぇ。地獄のデスマッチだ。見ろ、男性陣が血塗れすぎてほぼ殺人現場だろ。あの辺だけ人気なくなってんだろ。」

「ホントだ…デスマッチっていうか…リンチだよねアレ…。」


浜辺に作られた簡易的なビーチバレーのコートはもはや血の海と化している。
片側に女子チーム。片側に男性チーム。
しかし近藤さんと山崎さんはもはや生きているのかすら危うい。真選組の隊士らしき人が代わる代わる相手をしてるけど、皆数秒で流血している。


「……そよ姫様あそこにいて大丈夫なの?」

「あの子意外とSっ気あるからな。楽しんでんじゃねぇ?あっちはあっちで凄いことになってるしな…。」


そう言って反対側を向いた銀さんの目線を追ってみると、ブリーフ姿で波に乗る将軍様の姿。
ただ、上空にはヘリ。板はヘリに繋がっているらしい。
そして浜辺でトランシーバーを持つ土方さんが「B地点波立てろぉお!!」と叫ぶと、ヘリから身を乗り出した総悟が海に向けてバズーカをブッ放つ。
その波に乗って1回転した将軍様は何故か板を放り出して、自らが板になったかの如く勢いよくそのまま波に乗り浜辺まで一直線に突っ込んでいく。
あまりの変態スタイルと、ところ構わず放たれるバズーカのせいでそちらも人気はない。

ドン引きしている私を覗き込んで来たのは、銀さんのニヤケ面。


「あそこに混じって死ぬ思いすんのと、銀さんと平和にイチャイ…プカプカすんのどっちがいい?」


さっきのセクハラを思うとこっちも安全ではない気がするけど…あの中に混じって無事でいられる程の運動能力もない。


「……イチャイチャしようか。」

「え」

「間違えた、プカプカしようか。」


結論を出したところで波打ち際まで行ってみると、意外と水は綺麗でその冷たさに少しテンションが上がる。


「なんか砂がくすぐったい。」

「よし、行くぞ。とりあえずお前コレに入っとけ。」


浮き輪を私に通すと、浮き輪に付いた紐を引きながら、銀さんはズイズイ沖へと進んでいく。


「ちょっ、ちょっと待って!!私泳げないからね!?何度でも言うけど、泳げないからね!?」

「分かってるっつーの。お前な、海で一番危険な場所知ってるか?」

「…知らない。」

「それはなぁ、この波打ち際なんだよ。浮き輪なんか付けてこの辺でボサッと浮かんでてみろ。即行波にひっくり返されてスケキヨスタイルになんぞ。平和に浮かぶためにはこの波を越えてある程度沖まで行かなきゃならねぇ。」

「なるほど。」

「浮き輪さえありゃ溺れることはまずねぇだろ。」


また繰り出された銀さんの解説に納得しながら進んでいるうちに、いつの間にか腰の辺りまで水に浸かっていた。
規則的に来る波に浮き輪が拐われそうになるけど、銀さんが紐を引いてくれてるおかげでなんとか進んでいける。


「冷たい!冷たい!!待って冷たい!!う"ぇ!!」

「お前もうちょっと色気のある声出せねぇの?キャッとか言えねぇの?」

「ちょ!!何!?なんで入ってくんの!!?」


私のリアクションにダメ出しながら、銀さんがナチュラルに浮き輪に入ってきた。
大きな浮き輪だから、それほど密着してるわけでもないけど…。格好が格好なだけに、この至近距離は何て言うか…ハレンチでしょ!!?


「自分の浮き輪持ってくれば良かったじゃん!!」

「いいだろデカいんだから!!それにお前、浮き輪同士で来て浮いてるうちに離れ離れになったら一人で浜辺まで戻れんのか!?」

「……セクハラしないでよ。」

「しねぇよ。」

「うわわわわわ待って!!足つかない足つかない!!」

「お前浮き輪に乗っかってるからだろ。まだそんな深くねぇよ。」


私は浮き輪に腕をかけて乗っかっている分、早くも海底に足が付かなくなった。
一方銀さんは浮き輪の中に立った体制のまま海底を蹴りながら浮き輪を押しているらしい。


「銀さんは結構海で安全に遊ぶ術をよく知ってるんだね。毎年来てるの?」

「毎年じゃねぇよ。安全に遊ぶためっつーか…銀さんも泳げないからね。」

「…え、今何て言った?」

「だから、銀さんも泳げないの。」

「はぁ!?え!?嘘でしょ!?戻ろう!!今すぐ戻ろう!!」

「まぁまぁ、浮き輪あれば大丈夫だから落ち着けって。」

「え、もしかして銀さんももう足付かないの?死ぬ!!絶対死ぬ!!」

「うるせぇな落ち着け!平和にプカプカすんだろ!!?」


テンパる私を他所に、ズイズイ沖へと進む銀さんに仕方なく身を任せていたら、すぐ側に浮かぶ浮き輪から、何やら男女の声が聞こえてくる。


「ちょっとぉ、まぁくんどこ触ってるのっ!」

「そんな可愛い格好してるみぃちゃんが悪い。」

「あっ、ちょっとダメっホラ、人が見てるよぉ。」


気付けば周りの浮き輪の中には頭が2つ収まっていてどこもかしこもハレンチな空気に包まれている。
理不尽にイチャイチャを見せ付けられてふと隣を見たら、こめかみに青筋を浮かべた銀さんと目が合った。
たぶん私も同じ顔してた。

「平和な場所探すか」と、水中で足をバタつかせて更に沖へと進む。


「アレさぁ、水の中どうなってるんだろうね。」

「さぁな、突っ込まれてんじゃねぇの。」

「海水ってバイ菌たくさんいそうなのに…病気になれーー皆病気になれーー。」

「お前なかなか荒んでるな。」


やっと人気の少ない辺りまで来て、平和な時間が訪れた。

あー、このゆったりした波、気持ちいいかも。


「な?気持ちいいだろ?」


得意気に笑う銀さんが眩しい。
…笑顔が、とかじゃなくてね?銀髪がキラキラしてるから。
濡れてる襟足の髪の透けるような銀色も、やけに綺麗に見える。

泳げないけど、海…悪くないかも。


なんて、呑気に思っていたのも束の間……


「んっん!?ギャァァアア待って待って待って今なんか足に当たった!!なんか触った!!何!?何何何何!?」

「あ?どうせ海藻かなんかだ
「鮫だったらどうしよう!!毒クラゲだったら!!得たいの知れない生物だったら!!怖い!!え!怖い!!」


冷静に足元を見てみると、深さのせいで何も見えない闇に包まれていて不安が押し寄せる。


「怖い怖い怖い!!待って銀さん!怖い!!」

「足を絡めんのやめろ!!セクハラすんなっつったのどこのどいつだよ!!」


だって怖い!!やっぱ海怖い!!無理!!
この闇の中に足を野放しにするなんて自殺行為でしょ!?!?急に何かに噛みつかれたらどうすんの!?!?

なるべく身体を水から出そうと必死に銀さんの腰のあたりに足を巻き付けていたら、必然的に上半身も近付くわけで。銀さんの肩にしがみつく。


「おまっ!!しがみつきすぎだから!!ぶふぇっ銀さん沈むから!!おぇっ!!」

「うわ今なんか見えた!!!なんかそこにいた!!!」

「だから海藻だっつってんだろ!!!」


一体どう動いたのか、テンパりすぎてわからなかったけど、銀さんはいつの間にか片手で浮き輪を掴んで身体を捻らせ、もう片方の手は私の腰に回されている…つまり、真正面に向き合った状態。


「………、」

「………今さぁ、水の中どうなってるか分かってる?」


さっきの私の疑問を思い起こすようなその質問に、身体がカッと熱くなる。

だってコレは…まずい。まずい体制だよ。

だって、落ちないように銀さんの腰に足を絡めてるし、腰は銀さんに抑えられてるから……あの、か、下半身が完全に密着してるし。
銀さんの背中に張り付いていた上半身は、今は向き合っているおかげで銀さんの胸板に張り付いてるし。


「ア、アハハッ、イ…イチャイチャしてみる?」


居たたまれない状況を、敢えて茶化して誤魔化そうとしてみたけど、どうやら逆効果だったらしい。


「へぇ、いいの?」


冷たい水の中で、銀さんの大きな手が腰を撫でて、その体温に思わず肩に力が入る。


「待っ、ちょっと!」

「逃げんなよ、落ちるだろ。」


グッと腰を引き寄せられて水中で交わる体温。
浮き輪の中でトプントプンと響く水音。

どっちも厭らしく感じるのは私の思考がハレンチだから?


「…変態。」

「銀さん何もしてないからね。お前が勝手にテンパってこうなったんだろ。」

「もう、落ち着いた。」

「落ち着いた顔してねぇけど。」


当たり前でしょ。こんな至近距離で、こんな密着してて、落ち着けるわけない。
たぶん今…顔赤いし、間近で目を合わせることすら儘ならなくて、視線は泳ぎまくってる。身体は泳げないのに眼球だけ泳ぎまくってる。

もっとビール飲んどけば良かった!!


「で?足に何が触ったって?」


腰に回していた手で、突然膝の裏の辺りを撫でられて、身体が勝手に反応して肩を揺らせば、銀さんは楽しそうにニヤつく。


「今は…変態が触ってる。そろそろ本当に逮捕させるよ?警察ならその辺にウジャウジャいるんだから。」

「いい反応するお前が悪い。」


ついさっき遭遇したカップルの男を真似たような台詞を耳元で囁かれて、どんどん熱くなる体温に気付かれないように距離を取ろうとすれば、銀さんの手はまた背中に戻ってきて背骨を撫でられる。
背骨から脇腹へ、脇腹から下へと降りた掌が、太ももに触れれば、頭の中が痺れるような感覚に襲われて、漏れそうになる息を隠すように銀さんの肩に顔を埋めた。

誰にでも"いい反応"するわけじゃない。たぶん、こんなに身体が敏感になるのは、相手が銀さんだからだ。


「…ハレンチ。」

「海はそうゆう場所なんだよ。」

「そっか、海だから、…しょうがない、よね。」


顔を上げて目が合って、吸い込まれるようにお互い顔を寄せた…瞬間。

何処からともなく響いてきた何かのエンジン音と、突然容赦なく襲ってきた粗い波に、抗う術もなく……スケキヨ化した私達。


犯人は、たぶん私の予想通りだと思う。


その前に………


溺れる死ぬ助けてぇぇえええええ!!!

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