#11 味覚の異常は脳ミソの異常
「ヘイ銀さん、"いつもの"お待ちっ」
"いつもの"と言って定食屋のおじさんが銀さんに手渡したものは、ご飯に小豆がてんこ盛りに盛られた、見ているだけで血糖値が上がりそうなどんぶりだった。
「ちょっと何それ銀さん…どうかしてるの?」
「お前知らねーの?炭水化物と甘いもんは合うように出来てんだよ。おはぎの原理だバカヤロー。」
「いやそうだけど…すごい味覚だね。」
そして私が頼んだのは、普通の生姜焼き定食。
これだけでもすごく美味しそうだけど、私は懐から自分の大好物を取り出す。
「ちょっと何それ夕日ちゃん…」
「ん?粉チーズだよ?」
「粉チーズって何にかけん…おいいいいいいいい!!何してんのそれ!何してんのおおおお!?」
「え?ご飯にかけてるだけだけど?」
「いやおかしいからそれ!どうかしてるの!?どうかしてるの夕日ちゃんんんんんん!?」
そう、私の大好物はチーズ。だからいつでもチーズを摂取出来るように粉チーズを持ち歩いている。
「銀さん知らないの?チーズとご飯は合うように出来てるんだよ。ドリアとかリゾットの原理だバカヤロー。」
「いやちげーだろ!クッセ!チーズクセ!!」
「なんだよ自分だって壊滅的な味覚してるくせグェッホゲホッ」
「口に入れたまましゃべんじゃねーよ!粉チーズ喉に詰まらせてんじゃねぇか汚ねえな!!!」
「ゲッホ!言っとくけどご飯にチーズなんて、チーラー界じゃ至極普通の食べ方だからね?」
「チーラー界って何?つかチーラーって何?聞いたことねーよそんな世界ぃぃ!どこの世界だよ!どこのスモールワールドの話ぃぃ!?」
「マヨラーとかケチャラーとか言うでしょ?だからチーラー。」
「いや冷静に言われてもなんも納得できねーよ。」
お互いの味覚が壊滅していることが分かった定食屋を後にして、また原付に股がる。
もう帰宅コースかな?と思っていると、銀さんに寄りたいところがあると言われ、着いたのはスーパーマーケットだった。
「今日卵の特売なの忘れてたわ。お一人様一点までだからちょっと付き合ってくんね?」
「いいよ。」
この時の私はまだ銀さんはひとり暮らしをしているものだと思っていたから、一人でそんなに卵食べれるのかな…と少し疑問に思った。
でもこの後、「卵痛むから万事屋寄らせて。」と言う銀さんと一緒に万事屋に行って、疑問は解消されたものの、今度は衝撃を受けることになる。
銀さんが"うちの従業員"と言って紹介してきたのはまだ幼さが残る可愛い二人だった。
「私は神楽アル。」
「僕は志村新八です。」
「よろしく。夕日です。ねえ銀さん、従業員って言ってたよね?こんな若い子達働かせてるの?どうなのそれ?労働基準法的にどうなの?」
「別に俺から頼んだ訳じゃねぇし?こいつらが好きで働いてんだからいいだろ。」
「でも給料が貰えないとは思わなかったアル。」
「え!?無給!?」
「コイツはなぁ!ここに居候してる上にとんでもない量の食料を消費すんだよ!お前らの給料出せないのはそのせいだからな!」
「いそ…え、居候!?一緒に住んでるってこと!?三人で!?」
「僕は姉上と住んでます。ここに住んでるのは銀さんと神楽ちゃんです。」
「なっ、え…え…?こんな可愛い子と、二人…で!?ちょ、ちょっと銀さん…それはいくらなんでもまずいよ…タダ働きさせる上にこんな少女に大人の汚い肉欲を
「汚ねえのはお前の頭の中だろ!!」
「それよりお前らどういう関係アルか?いつ知り合ったアルか?昨日の夜アルか?一晩一緒に過ごしてたアルか?」
「ちげえよ!いやちがくねえけど別になんもねえからな!」
「はっっっ!!?!私…私…こんな可愛い子がおうちで待ってるのに朝帰りさせちゃったの…!?」
「別によくあることアル。」
「今日も一日私が連れ回しちゃったし…お昼ご飯ちゃんと食べた?銀さんちゃんと作っておいてあげたの?」
「ご飯なんて三食卵かけご飯ネ。」
「っ、銀さん……私、銀さんにだけ美味しいご飯食べさせて…この子達には留守番させちゃってたってこと…だよね……私スーパー行ってくる!!……ちょっと!銀さん着いてきて!道わかんない!」
銀さんを引きずる私の背で、「アレは汚れた大人の関係に違いないアル。」「そうだね。いい大人が一晩一緒にいるなんてそういうことだね。」という会話が聞こえたけど、聞かなかったことにする。
銀さんを引きずり回しながら急いで買い物を済ませ、万事屋に戻ると、台所の大まかな収納位置を教えてもらい、調理に取りかかることにした。
「台所に立つの久しぶりだ…よっし!」
「お前…ほんとに料理なんてできんのかよ。チーズまみれのもん作るんじゃねぇだろうな。すげぇ不安なんだけど。」
「大丈夫大丈夫!いいから銀さんも座って待ってて!!」
疑いの目を向ける銀さんを無理矢理居間に放り込み、気合いを入れ腕まくりをする。
やれば出来る子夕日!頑張ります!