似て似つ | ナノ




#10 家電は、高かろうが良いものを選ぶべき



「ちょっと銀さん!帰ってきたと思ったらまた出掛けるんですか?」

「あー…ちょっと依頼でな。俺一人で事足りるからお前ら留守番よろしく。」

「そんなこと言ってどうせパチンコアル。負けたら承知しねーからナ。」

「依頼だっつってんだろ!どんだけ信用ねーんだ俺ァ!」

「今に始まったことじゃないアル。信用されたくば日頃の行動を改めるヨロシ。」

「そうですよ銀さん。」


冷たい目線を投げ掛けてくる従業員どもを背に万事屋を出てバイクに股がる。

奇しくもアイツの家は真選組屯所のすぐ近くということから、酔っ払いの記憶力でもすぐに覚えられた。


屯所前を通りすぎるとすぐアイツの家が見えてくる。

アイツの部屋に向かうため、バイクを停めて階段を上がろうとすると、思わぬ光景が目に入った。


「あっ銀さん。」

「なんだお前、ここにいたの?部屋の中で待ってりゃ良かったのに。」

「うーん、そろそろ来るかなーと思って。」

「………行くか。」

「ねえ今さ、コイツもしかして一刻も早く銀さんに会いたかったんじゃねーの?可愛い奴め。って思った?」

「その言葉がなきゃ思ってたかもな。」


若干図星を突かれ、誤魔化す様にヘルメットを被り、もうひとつのヘルメットを手渡す。


「バイク…これ、原付きじゃないの?」

「原付きだな。」

「違反だよね。」

「違反だな。」

「…バイク乗るの、初めて。」


そう言いながらヘルメットを被るあたり、聞き分けがよくて助かる。

だが、さすがにその次の行動まで予想はできなかった。


「お前さ、こうゆうとき普通はどこ掴まろうか戸惑うもんだろ!で、俺がカッコつけてしっかり捕まってろよって腰に手を引くところだろーが!!これ夢小説だよねえ!?何なんの躊躇もなくしがみついてんだよ!」

「あ、ごめんそういうのご希望だった?乗り方よくわかんないからとりあえずココしがみついとけば落ちないカナって。」

「しかも近ぇんだよ無駄に!コアラかテメーは!乳とかなんなら股までガッツリくっついてんだよテメーに恥じらいっつーもんはねえのか!」

「ごめんなんか銀さんいい匂いしてちょっと興奮した」

「風呂上がりだからな!!お前を女だと認識していた俺が間違ってた!お前はオッサンだ!女の皮を被ったオッサンだ!」

「ねえもういいから早く行こうよ。」


そう半笑いで言われて、俺は確信した。
コイツは人を苛立たせる天才かと思っていたがそうじゃねえ。
コイツは男を翻弄する天才だ。

中身がクソみてぇなオヤジだとしても、いちいちこの容姿とちょっとした態度に騙される。
別に今後コイツとどうこうなりたいとか美味しい展開を望んでる訳じゃねえが、これは男のサガだ。

ほんのわずかな期待を、奈落の底に突き落とす勢いで裏切る能力が、半端じゃねえ。

だからコイツといると腹立つし疲れるんだ…。


そんなことを考えながらいつもより少し丁寧にバイクを発進させ、目的地まで走り出す。


「そういやお前、普段から洋服着てんのか?珍しいな。」

「あぁ、うん。でも銀さんも半分洋服じゃん。」

「まあな。でも女で洋服着てる奴は珍しいだろ。」

「うん、仕事で洋服着るようになってからこっちに慣れちゃって。それに私よく自転車乗るからズボンの方がいいの。」


そう、コイツは女にしては珍しく洋服を着ている。
黒の細身のパンツにブーツ、白いシャツに白いコート。


「私が住んでた田舎町は洋服屋さんってほとんどなくて、売っててもスーツみたいな服ばっかりだったんだけど、歌舞伎町は結構洋服屋さんありそうだね!」

「それなりにな。」

「じゃあ次のデートは洋服探しね!」

「行かねぇよめんどくせえ!」

「ご飯奢るよ。」

「次の休みいつ?」


そんな会話をしているうちに目的地の家電屋に到着する。


「よおジジイ。客連れてきてやったぞ。」

「よー銀さん。なんだ、こんな美人な子連れて!コレか?」


家電屋のジジイがニヤけ面で小指を立ててくる。


「ちげぇよ小指へし折るぞ。黙って炊飯器寄越しやがれ。」

「あの、あと掃除機とトースターとドライヤーもありますか?」

「炊飯器だけじゃなかったのかよ!どんだけ生活力ねぇんだお前!つーかドライヤー無しでどうやって髪乾かすんだよ!」

「…自然乾燥?」

「そういや昨日も風呂上がり髪ビショビショだったな…いいよなサラサラストレートは…天パーがそんなことしたらこの世の終わりみたいに爆発するからねマジで。」

「仲良いねお二人さん!」


最近どうも足腰がキツくなってきたらしいジジイはよく万事屋に手伝いを頼んでくる。
そのおかげで店の商品の配置はだいたい把握している。

ジジイと一緒にワイワイ騒ぎながら目当てのものを選ぶ。


「あとお前テレビ台とテーブルは買えよせめて。」

「そうだね。」

「なんだ、お嬢ちゃんテレビ台探してんのか?だったらコレ。コレで良けりゃ持ってっていいよ。」

「え!いいんですか?」

「長いこと展示品として置いてあるからあんまり綺麗じゃねえが…」

「全然いいです!ありがとうございます!」

「ついでにそこのコタツも持ってっていいよ。それもかなり型落ちの奴だから売れねえんだ。銀さんのよしみと引越し祝いってことでお嬢ちゃんにやるよ。」

「え!!コタツまで!?嬉しすぎる!!ありがとうございます!」


炊飯器だけ買いに来たつもりが、思いの外大荷物になりそうだ。


「ジジイ、トラック借りるぞ。どうせ使わねーだろ。」

「あぁいいよ。ちゃんと返せよ銀さん。」


ジジイに適当に返事をして、トラックに荷物を積み込み、それから夕日の家に全ての荷物を運び込む頃には、とっくに昼飯時を過ぎていた。


「銀さん今日はホントにありがとう!」

「コレで少しは家らしくなったんじゃねぇの。」

「完璧に家だね!もう監獄とは言わせない!」

「まだ飾り気はねーけどな!…つーか銀さん腹減って死にそうなんだけど。今日の報酬は?」

「報酬?今日はただのデートでしょ?炊飯器買えってデートの約束漕ぎ着けたの銀さんじゃん。」

「…お前昨日の記憶ほとんどねえっつってたのにソコはしっかり覚えてんのかよ!詐欺だ!ここまでしてやってその言い草は詐欺だ!つーかお前炊飯器だけの予定がガッツリ大人買いじゃねぇかよ!誰が運んでやったと思ってんだ!」

「ウソウソ!ちゃんとご馳走しますよ!テレビ台とコタツ貰えたのも銀さんのおかげだし、今日はホントに感謝してるからね!」

「そうこなくっちゃ!」

「美味しいお店紹介して!」


それからまたトラックに乗り込み家電屋に戻ってトラックを返し、腹をグーグー鳴らしながらまた原付に乗り定食屋に向かうことにした。

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