休日にはふたりで朝寝坊



悪魔たちが待ちに待った終末日の休みが始まる。
忙しいバビルスの教師にだって、それなりに長めの休暇があるのだ。





禍々しく澄み渡った空に魔界の太陽が昇り、朝の柔らかな光がカーテンの隙間から寝室に差し込む。
差し込んだ光は寝台まで伸びて、その上ですやすやと眠る夫婦の上にも降り注ぐ。


「んん・・・」

自分を包んでいるのであろう温かい羽毛が頬を撫でる感触がくすぐったくて、なまえの意識はふんわりと浮上する。
寝起き特有の薄ぼんやりと霞む瞼をゆっくりと開ければ、目に飛び込んできたのは、山、だった。
いや、それとも丘とでも形容すべきだろうか。
静かな呼吸と一緒に微かに上下するそれは、健康的で艶やかな肌色をしている。

朝特有のひんやりとした空気にさむけを感じ、なまえは小さく身を震わせると無意識に目の前の温かい丘に顔を摺り寄せた。
さらにぐりぐりと顔をうずめれば、顔を包むふわふわとした柔らかい肉の感触がなんとも心地いい。
胸筋とよばれる鍛え上げられたその丘は、弾性があり見た目に反し柔らかい筋肉なのだった。
腕を伸ばして、むにむにと手のひらで弄びながら反対側の肉の感触を楽しんでいれば、丘の持ち主はそれがこそばゆかったのか、少し身動ぎ、その反動でふるりと丘が震える。

背中にあった逞しい腕が動き、ぎゅっと引き寄せられて抱きしめられると、なまえの目尻にちゅっと可愛らしい音と共に唇が落ちてくる。
リュカはお返しに辛うじて届いた、顎先をちゅっちゅと啄んだ。
頭上から、テノールのくすぐったそうな笑い声が漏れ聞こえてくる。

くちびるをくっつけ、顔を見合わせて朝の挨拶。

「おはよ、なまえちゃん」
「ん、はよ、しちろーちゃん」


こうしてふたりの休日は始まるのだ。



いつまでも寝台の上でふたり、ごろごろと戯れていたい気持ちもあるが、腹の虫の切ない訴えには勝てない・・・。
厨に行くためには服を着なければ・・・と思い、いつもの習慣でバラムはマスクをつけようと手を伸ばしたが、今日ふたりはのんびりと一日家で過ごす予定なので、トレードマークになっている白銀のマスクは付けずに、寝台のサイドボードで静かに留守番させることにした。

バラムは愛しい番を抱えたまま腹筋を使ってぬっと起き上がると、昨晩散らかしてしまったふたり分の衣服を魔術で引き寄せて手元に集めていく。
自分は簡単に下着とジャージとタンクトップだけを身につければ、次はなまえの番だ。

「はい、腕いれて〜次は首だよ」
「・・・ん〜」

なまえが半分寝ぼけ眼のままバラムの指示に従えば、彼の部屋着でもあるTシャツを着せられていく。
小柄な彼女にはオーバーサイズすぎるそれは、リュカの膝までも優に隠していて最早ワンピースのようだった。
番を自分の匂いで物理的にも包み込むことが出来てバラムも機嫌も朝から上々だ。


「じゃあ、ごはんにしようか」
「うん、おなかすいたね」

休みの日にはバラムがご飯を作ってくれる。
それはなまえの休日の楽しみでもあった。


片腕でひょいとなまえを抱えると、厨に移動する。
抱っこしたままで家の中を移動するだなんて今日も甘やかされているなぁとなまえは思った。
心地よい体温と揺れに釣られて出てしまったあくびをひとつかみ殺した。




「シチロウちゃん、今日はなにを作ってくれるの?」
「フレンチトーストだよ」
「やった!フレンチトーストだいすき!」

蜂蜜をたくさんかけようね、とバラムは蜂蜜にも負けないくらいとろけた顔と甘い声色で囁く。

厨に到着すると、リュカは優しく床に降ろされた。
ふたりで厨に立てば、楽しさも二倍感じるから不思議だ。

昨晩のうちに下準備を済ませていたのか、バラムは冷蔵庫からつるりとした大きなホーローのバットを取り出す。
なまえが爪先立ちで背伸びして中を覗けば、バットの中には牛乳と卵の混ざったアパレイユの中を食パンが気持ちよさそうにゆらゆらと泳いでいた。
たぷたぷと楽しそうに揺れている食パンはなまえの口に入るように可愛く一口大の大きさにカットされており、バラムの優しさを感じずにはいられなかった。


「さ、焼いていこうか」
「うん!」

熱したフライパンにバターをいれて溶かしていく。
しゅわしゅわと大きく泡立つほどにバターが溶ければ、食パンを入れる合図だ。
火加減を少し弱火に調節してから、バッドからアパレイユを鱈腹吸って太った食パンを取り出してフライパンに並べて行く。

「ねぇ、わたしこの匂い好きよ」
「ふふ、僕も」

溶けてその身を焦がすバターの香りはふたりの幸せの匂いに違いない。
フライ返しを使って焼き目を確認したら、ひとつづつひっくり返して、またバターを投入して裏面も焼いていく。
フライパンに蓋をして中まで蒸らせば、表面はカリカリ、中はふわふわの魅惑のフレンチトーストの出来上がりだ。

なまえが食器棚から出してきたお気に入りの大皿を差し出すと、そこに次々とフレンチトースト盛りつけていく。
仕上げに蜂蜜をたっぷりとまわしかけて、ブルーベリーを散らせばお化粧も完璧だ。
もう待ちきれないとばかりに、身体は口の中にじゅわと唾液を溜めていく。

ダイニングテーブルにしている円形の木のテーブルに冷蔵から出した牛乳を注いだグラスを並べて、ナイフとフォークをランチョンマットの上にセッティングしていく。
最後にメインが乗った大皿を置けば休日のスペシャルなブランチの始まりだ。

「頂こう」
「はーい!」

バラムが椅子に腰かけると、太腿の上にリュカを乗せる。
休みの日の食卓ではバラムの膝の上がなまえの定位置となるのだ。

バラムはフレンチトーストのひとつを半分に切り分けると、期待で目を輝かせて待っている番の口に運び入れる。

「ん〜〜!おいしい!!」

膝の上の番は脚をぱたぱたと動かして全身でフレンチトーストの出来栄えを教えてくれる。

「よかった。ほら、次はベリーと一緒にいれてあげる」

はい、あーんして?と自分が食べることも置いて、次々となまえの口に食事を与えるこの一連の行動はいわゆる求愛給仕といわれるものだろう。
ちょうど食パン一枚と半分程食べる頃には、リュカの胃袋はくちくなった。

「ごちそうさまでした!」
「お粗末様でした。あ、なまえちゃん蜂蜜が・・・」
「え?」

リュカが場所を聞く前に、口の端からこぼれた蜂蜜をバラムの肉厚な舌が伸びてきてぺろっと蜂蜜を舐めとった。

「ん、甘いね」
「もう、シチロウちゃんたらっ」


今度は私が食べさせてあげる番ね、とバラムからシルバーを奪えば目尻を下げて彼は微笑んだ。
なまえはフレンチトーストをフォークに差し、たっぷりとと蜂蜜を纏わせてからバラムの口に差し入れた。


「お味はどうですか?」
「最高だね」


バターの匂いに包まれた番のふたりは蜂蜜よりも甘い時間を過ごしていく。
(これが悪魔夫婦の甘い甘い休日)




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