思い出がぽろっと



悪魔学校・バビルスの収穫祭一日目、夜。
ここ収穫祭本部テントにはダンタリオン・ダリ、ストラス・スージー、バラム・シチロウが夜通し詰めて生徒たちの動向を面白おかしく見守っていた。
テントの入り口の幕が少し持ちあがると、勝手知ったるといった様子で小柄な女悪魔が入室してきた。
バラムの番、伴侶のなまえである。

「おっじゃましまーす!」

元気に入室の挨拶したかと思うと、目の前の大きな悪魔の腰に勢いよく飛びついた。
彼女の夫、バラムである。

「シチロウちゃんっ!」
「・・あれ?なまえちゃん?」
「えへへ、来ちゃった!」

腰に縋り付く自分を目を見開いて見下ろす優しい夫になまえは悪戯が成功したような気持ちになって、にこにこと無邪気に笑った。
ぎゅーっと腰に巻き付けた腕に力をいれる。

数時間ぶりの再会に夫婦がじゃれあっていると、笑い声でなまえの存在に気付いたのか前方から声をかけられる。
同じテントに詰めているダリとスージーだ。


「おや、みょうじさんじゃないか!久しぶりだね」
「あらあら、いらっしゃい!ふぃ」
「ダリ先生も、スージー先生もお久しぶりです!」
「今年も回収組のお手伝い?」
「はい!」

学生時代と変わらずに元気に返事を返すなまえに懐かしさを覚える2人だった。
あ、そうだった、と呟いたなまえはどうやらテントに来た本来の目的を思い出したようだ。

「シチロウちゃんにお弁当持ってきたの!お二人にはお菓子の差し入れもありますよ」

そう言ってなまえは片手に持っていた大きな風呂敷包みを誇らしげに掲げた。
その中身は彼女が夫への愛情を込めた料理をこれでもかと詰め込んだ弁当箱と差し入れのお茶菓子だ。


「ありがとうなまえちゃん、大事に食べるね」
「うん!お仕事頑張ってね!小鳥ちゃん!」


じゃあ、私は集合場所に行くね!と風呂敷包みを夫に手渡すとなまえはテントを後にした。
そんな忙しない姿の伴侶をバラムはまたね、と手を振って見送った。
一連の仲睦まじいやり取りに、にやにやとした表情を隠しもせずスージーが言う。

「んふふ、バラム先生〜愛妻弁当ですねぇ!らぶらぶ〜」
「2人は学生の頃からもうあんな感じだったもんね〜」

同じくにやにやした顔のダリが当時を補足した。

「ふぃ〜そうなんですかぁ?」
「仲の良い番がいる〜って有名だったよ!」

「え、僕知りませんでした・・照れるなぁ」
「あはは、まぁ当事者は知らないだろうねっ!」


照れた様子で指で頬を掻くバラムの姿に満足したのか、ダリとスージーは御馳走様ですと、むふふと含み笑いした。
その後合間の合間にバラムは弁当に、ダリとスージーはお茶菓子にそれぞれ舌鼓を打った。


こうして収穫祭・一日目の夜は(一部を除いて)静かに静かに更けていった。








本部のテントを出て、リタイヤした生徒の回収組の集合場所に到着した私は想い出を引っ張り出していた。
懐かしき自分の収穫祭の想い出を。

収穫祭の丁度あの頃、オペラ先輩の指導により芽吹いた若芽の如くぐんぐんと才能を伸ばすシチロウちゃんに、このままでは置いていかれるような気がして、私はどこか焦りを感じていた。
自分ひとりの力で、乗り越えて頑張ってみせると意気込んでいたのよね・・・。
結果としてリタイヤせずにボーダーラインのまずまずの成績を納めることが出来たんだけど。


夜、ざわめく暗い森で独り過ごすのが寂しくて、シチロウちゃんが恋しくて、ぽろぽろと泣いていた私をシチロウちゃんは見つけて励ましてくれた。

「・・・ぅ、ぐすっ・・」
「・・・なまえちゃん、どうしたの?泣いてるの?」
「し、しちろうちゃん・・・なんでここに・・・」
「それはナイショ・・・よしよし、もう怖くないからね?」

私を強い力でぎゅっと抱きしめてくれた。
あのあったかい手で頭を撫でて、優しく涙を拭ってくれた。
穏やかで優しくて太陽みたいに温かい、誰よりも大切な、ただひとりの愛しい私の小鳥。

そしてシチロウちゃんは見事にその才能を開花させて若王に輝いた。
若王の王冠とマントを身に着けて、玉座で照れくさそうにはにかむシチロウちゃん・・・可愛かったな・・・。


ほわわ、と想い出に浸っていると、ぽこん、と頭に何かがあたった。
大した痛みはなかったが、イラっとして目を開ければ、上等そうな黒光りする革靴がある。
そのまま靴から繋がった身体、顔を見上げれば、そこには陰気な不機嫌顔の同級生の姿が完成する。

どうやら私は彼が手に持っていた画板で頭をはたかれたようだ。
人が折角温かい気持ちに浸ってる時に!なんて空気が読めないヤツなんだろう!

私がジロリと下から睨み付ければ、陰気な同級生―ナベリウス・カルエゴは溜息をついた。


「点呼中だぞ、呼ばれたら返事をしろ」
「・・・番犬め・・」
「シチロウがいないと本当に態度が悪いな、お前は」
「フンっ、アンタにふりまく愛想なんて、これぽっちもないからね」
「・・・ちゃんと仕事はしろよ」
「言われるまでもないわよ」




カルエゴとリュカの間にバチバチと火花が散る幻覚が見えた。
どうやら(一方的に)相性が悪いようだ。
2人のいる場所だけ寒気がするほど冷たい空気が漂っていた、とはそこにいたマルバス・マーチの証言である。





prevnext


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -