問題児をさがせ!



鈴木入間14歳、いま見知らぬ女性の惚気話に付き合わされている。




―終末テストも無事に終わり、終末日開始まで秒読みのある日。
悪魔学校も授業も終わり、放課後入間は恒例の用務員さんのお手伝いの帰り道、黄昏るようにベンチ座っている人物を見かけた。
細い首から続く頭には悪魔特有の2本の角があり、下を向いているその表情は分からない。
華奢な見た目のせいもあり、少し寂しげな背中が心配になって思わず声をかけてしまったのが、今思えば運の尽きだった。


「あの〜、こんな所で何してるんですか?」
「・・・え?」

振り向いたのは、自分とそう背丈の変わらない小柄な女悪魔だった。

声をかけたら、私の話を聞いて!と“お願い”されてお人良しの入間少年はあれよあれよという間にベンチで相席していた。
隣りに座ったはいいもの、先程の勢いはどこに行ったのか・・・相手はしょんぼりと肩を落としたまま一向に話しかけてはこない。
ええい!自分が首を突っ込んだのだ!と沈黙に耐えきれず、入間は話しかけた。


「えっと、お悩み事ですか?」
「えぇ・・・ええ、そうね・・・私のかわいい小鳥ちゃんのことでちょっと悩んでいて・・・」
(・・・小鳥ちゃん?ペットの話かなぁ?)


真剣に悩む様子に口を挟むことは止め入間はこくこく、と静かに相槌を打つことにした。


「えっと、私の小鳥ちゃんはね、それはもう大きくて強くて前は長かった毛も今は短くてもふわふわで、逞しくって、優しくて、頭も良くって・・・」
(うーん、大きい?強い?使い魔かな・・・?)

入間は思わず自分の使い魔のモフエゴのことを思い浮かべた。

「とっても可愛くて、大好きなのに・・・ここ最近、口を開けばイルマくん、イルマくんってそればっかりで・・・」
(え!?なんで僕の名前が?)
「さすがの私もちょっとカチンと来ちゃって・・・少し喧嘩をしちゃって・・・」
(これペットの話じゃない!恋人の話かー!)


鈴木入間14歳、まだ恋も知らないお年頃である。
気付いたら惚気に巻き込まれていた、この状況についていけるはずもなく口をぽかんと開けるしかなかった。
そして女悪魔の話しは入間を置いてけぼりにして、まだまだ続く。


「小鳥ちゃんはね、バビルスで教師してるんだけどね、そりゃテストの時はいつも以上に忙しそうにしてるけど、今回は“イルマくん”のせいで全然構ってくれなくて・・・」
(しかも、先生の誰かの恋人だったー!)
「それで私ね、イルマって子に一言言ってやらなきゃ気がすまない!と思ってここで張り込んでいれば現れるかと思ったんだけど・・・」
「は、はぁ・・・(ひぃ〜〜!!見つかったらやばい!!)」

でもよく考えたら私、イルマくんって子の姿かたちも知らなかったわ!とそういうと、女悪魔は最初の気鬱さを思い出せないほど豪快に笑った。
雰囲気につられて入間もアハハと愛想笑いしていると、突然自分たちが頭上が暗くなり影が出来た。


「まったく・・・気配はするのに、準備室に来ないから心配になって迎えに来てみれば・・・」
「ば、バラム先生!?」
「・・・・・」

ベンチの背後から現れたのは、バビルスの教諭・バラムだった。







「やぁ」
「こんにちは!用事ですか?」
「うん、ちょっと人を迎えに、ね」
「・・・・迎え?」

入間との挨拶もそこそこにバラムは目線を入間の隣にいた人物にスライドさせた。
見られているであろう、女悪魔は無視を決め込むらしく明後日の方向を向いている。

「もう、こんなところで何をしてたんだい?ほら、帰るよ。なまえちゃん」
「ふんっ」
「あ、お2人はお知り合いだったんですね!」
「まあね」

どうやらバラムはこの女悪魔のことを迎えにきたらしい。
胸の前で腕を組み、唇を尖らせ、拗ねたようにツンと顔を反らすなまえを背後から脇に手を差し入れて持ち上げると、手慣れた様子で自分の二の腕に乗せ、逃げられないようにぎゅっと脚を腕の間に挟んだ。
このくすぐったいようなやり取りに、イルマは懐いてない猫と飼い主を連想した。


「イルマくん、僕の奥さんが迷惑かけたみたいでごめんね?」
「え、い、いえ〜(奥さん!?いま奥さんっていった!?)」


「シチロウちゃんのばかばか!」
「なまえちゃん、暴れないのー」


伴侶を抱きかかえたまま、ずんずんと校舎の方に戻っていくバラムを入間は小さくなるまで見送った。




「もう、他の雄に目移りしてちょっかい出すなんて、どういうことだい?」
「え!?目移り?ちょっかい?」

思いもよらない言葉の連続に、疑問符が乱立して漸くなまえは気付いた。
これは誤解されている!


「悪い雌は帰ったらお仕置きしないと、ね・・・」
「えええ!?!?」


言うが早いか、バラムはそのまま漆黒の羽毛を広げると、羽ばたかせ飛び上がる。
なまえは腕に抱えられたまま一緒に飛んで自宅に帰るしかなかった。






(ハッ、小鳥ちゃん、ってバラム先生のことだったんだ・・・)と眠りにつく直前にピンときた入間であった。
隣りでうとうと寝ていたアリさんがおいおいイル坊やっとかよ〜とツッコんでいたとかいなかったとか。





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