5 りとくんを呼び出したA [ 32/168 ]

脱線した話を戻すために、隙を見て俺は口を挟み、りとくんに問いかけた。


「じゃありとくんがれいちゃんの協力するってことは、りとくんは古澤くんが仁と別れてれいちゃんと付き合っても良いって思ってるってことだよな?」


何故俺がこんなことを聞いたかと言うと、仁がるいの友達で、古澤くんはるいの後輩で、れいちゃんはるいのいとこだから。万が一、仁と古澤くんが別れるとなったら、るいが気まずい思いをするのは目に見えているから。自分の兄がそんな思いをする可能性があるのに、りとくんは目先の利益だけでれいちゃんの協力をするのか?と、単純に俺が疑問に思って聞きたいだけである。


「べつに良いんじゃねえの?」

「……ふぅん。」


まあ大体予想していた返事だ。でも俺が仁寄りの立場で話を聞いているだけあって、正直れいちゃんに協力するりとくんが憎たらしい。それも、美味い飯を奢って貰ったお礼のために協力しているなんて。

そんな気持ちが顔に出ていたのか、りとくんも少し顔を顰めて「不満そうだな」と口にする。


「俺のこと無慈悲な奴だと思ってんだろ。」

「うん、ちょっと。」

「まあ仁は自分らのダチだもんな?」

「りとくんのお兄ちゃんのダチだぞ。」

「へえ、だからなに?」

「ちょっとは遠慮するだろ。」

「は?しねえよ。」


思ってることをそのまま口に出していけば、だんだん俺とりとくんとの間には不穏な空気が流れ始めてしまい、俺が喋っている間は大人しく黙ってくれているるいは俺とりとくんに交互にチラチラ目を向けてくる。口を挟まず居てくれてる、っていうか、間に挟まれた立場にいるるいはすでに気まずそうで何も言えない様子である。


りとくんと言い合いするつもりなんて無かったものの、やっぱり俺からしてみれば飯のお礼でれいちゃんの協力をするりとくんは憎たらしくて、不満な態度は隠せなかった。

最近俺はずっとりとくんと仲良しだったから忘れがちだったけど、りとくんは敵に回すと怖い。でも今そんな怖いりとくんが、俺の目の前にいる。


そして案の定、りとくんはいつもの調子で、一ミリも自分の信念を曲げない強気な態度で、俺を諭すように口を開き、あっさりと俺はりとくんに言い負かされた。


「航、あのな?俺からしたら誰が誰のダチとかまじで関係ねえから。れいが古澤と飯行きたいって言うから、俺は飯のお礼にその手助けをしてやるだけ。古澤と仲良くなれるかもしれない僅かなチャンスを与えてやるだけ。こっから結果がどう転んだって言っとくけど俺は関係ねえよ?あとはれいの努力次第だし。その敵の努力に焦るなら、その分仁も努力すりゃ良いだけの話だろ?つーか現時点ではどう考えても仁の方が有利なんだから、れいとは飯行くなって引き止めたら古澤は多分行かねえよ?…まあ、仁は古澤にそんなこと言える立場じゃねえだろうけど。散々自分も女と飯行ってたみたいだし?」


俺に一言も口を挟ませる隙を与えず話し切ったりとくんに、るいが静かに頷いている。きっとるいは、りとくんの意見に納得したからだ。そして、…俺も。悔しいけど何も言い返せなかった。

『敵の努力に焦るなら、その分仁も努力すりゃ良いだけ』……それもそうだ。周りが協力どうこうの話ではなく、結局は相手に好かれるように、相手が自分から気持ちが離れていかないように、各々が努力することが一番大事だ。


そもそもこれはれいちゃん、古澤くん、仁の三角関係で俺はまったく関係ないのに、仁の気持ちを考えるとすっかり同調するような気分になってしまい、それなのに呆気なく言い負かされて、何も言い返せなくなる自分に俺はだんだん情けなくなってきてしまった。


「……おいおい、そんな泣きそうな顔すんなよ、ごめんて。まだなんか言いたいことあるなら言えよ。」

「……もういい。間違っちゃいねえよ…。れいちゃんにもチャンスくらいあったって良いもんな…。」


りとくんの意見を聞いた後の俺がどんな顔をしていたか、自分では分かるはずもないけど、りとくんに『泣きそうな顔』なんて言われてしまい、俺はそれが恥ずかしくて顔を隠すようにるいの肩に顔面を押し付けた。

仁の気持ちに同調しすぎて、感情的になり過ぎてしまっただけである。でも泣いてねえもん。


「…まありとくんの考えちゃんと聞けて良かったよ。仁のやつ、『りとくんが俺のこと嫌いだから別れさそうとしてる』とか勘違いしてるから訂正しとくね。」

「は?なんだそれ。んなめんどくせえこと誰がするかよ。」

「うん、そう言うと思った。」

「でもべつに訂正しなくていいんじゃね?あいつそっちの方が焦るだろ。」

「うわぁ、この子悪魔のような子だ。」

「焦って仁が必死になった方が古澤は嬉しいと思うけど?」


悪魔のようだが、そんなりとくんの意見にもそれもそうかと納得してしまい、俺とるいは反論せずに相槌を打つ。


「ちなみにだけど、ぶっちゃけお前ってれいと古澤が付き合っても良いと思ってんの?お前れいとあれだけ仲悪かったのに。」


ここで久しぶりにるいお兄ちゃんが口を挟み、りとくんにそう問いかけた。


「え?うん。かなり良いと思う。古澤の隣だとあいつしおらしいから静かで良いんだよなぁ。」


めちゃくちゃ本音っぽいことを話すりとくんに、お兄ちゃんは少し呆然としている。どうやらりとくんの返事が予想外だったようだ。


「残念だなぁ、古澤が二人居たら良かったんだけどな。」


最終的にりとくんは呑気にそんなことを言って「くはは」と笑いながら、残りの刺身を綺麗に食べ尽くした。



「…我が弟ながらに『古澤の隣だとしおらしくて静かで良い』なんて考えはまったく読めなかった。」

「うん、俺も。」

「あぁ…まじで古澤、どっかに二人目居ねえかな?」


その後りとくんが帰った後のるいお兄ちゃんは、本気でそれを望むようにぼやいている。

仁と古澤くんが別れて欲しくはないものの、れいちゃんの恋もできることなら叶って欲しい。そんな感じで複雑な立場にいるるいは、「まあいいや。航くんチューさせて?」って気分転換するように俺に抱きついてきて、考える事を放棄した。


まあ俺らがあれこれ議論したところで、最終的にはりとくんが言うようにれいちゃんと仁、それぞれが努力をして奪い合うのが恋愛なのだから、俺たちは影ながらそれを見守るしかないのだった。


りとくんを呼び出した おわり


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