4 りとくんを呼び出した@ [ 31/168 ]

【 友岡くんちょっと聞いてー 】

【 なに? 】


俺と仁は、今ではもうすっかり気軽に連絡を取り合う仲だ。今日は一体なんの用だ?と思いながらも全然気にはならず、適当に返信してすぐにスマホを机の上に放ったら、1分も経たずに返信が来た。

「はやっ」と呟きながら再びスマホを手に取り確認すると、【 りとくんが貴哉に飯誘ってきたんだけど 】って、仁が話したいことはまだイマイチ伝わってこない内容。

【 うん 】

それで?と先を促すように返信すると、次に送られてきた内容で俺は仁が俺に話したいことを理解した。


【 いとこも一緒にって。 】

【 おぉ 】

【 これおかしくね? 】


おかしいと言うか、俺はれいちゃんが古澤くんのことが気になってるということをるいから聞いて知ってるから、この場合俺が気になるのはれいちゃんの協力のようなことをしているりとくんが考えている事だ。

りとくんとれいちゃんは究極に仲が悪いはずなのに、そのりとくんがれいちゃんも一緒に古澤くんを飯に誘うという行動は、確かに仁の言う通りかなりおかしい。

しかし続けて仁からメッセージが送られてきたと思ったら、彼は一人でかなりズレた事を考えているようだ。


【 ねえ!!!りとくんって絶対俺のこと嫌ってるよな!?てか絶対俺のことよく思ってねえよな!?だからこれ多分いとこと貴哉を仲良くさせて俺と貴哉を別れさそうとしてるよな!? 】


でもまあ、仁がそう考えてしまう気持ちは分からなくもない。だってりとくん、以前れいちゃんと古澤くんのツーショット写真送ってきたりして喧嘩吹っかけてきたことがあるくらいだからな。…だが恐らく仁のその推測は間違っているだろう。

仮にりとくんが仁のことを嫌いだとしても、自分の友達と嫌いな奴をわざわざ別れさそうなんて面倒なことをするような人間ではないはずだ。

じゃあ何故りとくんがれいちゃんの協力のようなことをしているのか。ここで考えられるのはひとつだけ。


“れいちゃんがりとくんに協力してもらおうと金品を与えているのではないか?”


俺はまるで探偵のようにそう推理しながら一人偉そうに腕を組んだ。俺の勘…、いや、推理は大体当たるのだ…!!


ここで俺のおせっかい精神が久しぶりに登場してしまい、きっと今気が気じゃないであろう仁を助けてやるつもりでひとまず俺のこの推測を確かなものにするために、りとくんにラインを送信した。


【 りとくんに中トロ奢ってやんよ 】

【 なんで? 】


なんでだと?理由が必要か?俺が中トロを無償で奢ってやる太っ腹な人間だとは思わんのか?


【 りとくんに中トロ奢ってあげたい 】

【 最近食の神様俺に優しいな 】

【 は? 】


食の神様俺に優しい?
こいつは何を言っとるんだ。


【 うにも食べたい 】

【 うにも!? 】

【 せっかくだから俺の食べてみたいものリスト送っといてやるよ→フォアグラ、キャビア、アワビ、のどぐろ、黒毛和牛のすき焼き 】

【 せっかくだからの意味がわからん。のどぐろってなんだよ。喉黒いのかよ 】



この時の俺には、何故りとくんがこんなにも高級食材の名を俺に送り付けてくるのかは、当然理解不能だった。


「は〜スッキリスッキリ、おしゃけ飲んじゃお〜。」


…と、ここでバイトから帰ってきてすぐに風呂に入っていたるいが、風呂上がりでサッパリした顔をして肩にタオルをかけながら俺の前に登場した。頗る機嫌が良さそうで、お酒のことをおちゃめに『おしゃけ』とか言っている。まるで幼女。


「おしゃけとか言ってる場合じゃねえぞ、こりゃ一大事だ。」

「なんだなんだ!?」


るいは俺の発言を聞き、大袈裟な反応を見せながら俺の隣の椅子を引いて座ってきた。

仁から送られてきたラインの内容と、俺の勝手な推測をるいに話すと、るいは「なるほど…」と腕を組む。

この話をるいにしたものの、俺はれいちゃんの恋のことはるいにはノータッチでいることをお願いしたから、るいに首を突っ込ませる気はない。


「とりあえずりとくんに話聞こうと呼び出したから。るいは居ても良いけど口出し禁止な。」

「はぁい…。」


お利口るいは、俺の命令に文句も言わずに頷いた。



こうして俺は、なんとか中トロでりとくんを釣り、後日古澤くんがりとくんとれいちゃんと飯に行ってしまう日より先にりとくんを家に呼び出すことに成功する。

スーパーでいつもよりお高めの中トロ入りお造りを買ってきた俺にるいは少々不満げだ。『なんでりとにこんな高い刺身を…』と言いたげな顔をしているが、りとくんから話を聞き出すためにはこうするしか方法が無いから仕方が無いのだ。うにも食べたいとか言ってきたから、ちゃんとうにが入ってる寿司まで買ってきたんだぞ。


スーパーで買ってきたそれらを丁度テーブルに並べ始めた頃、『ピーンポーン』とインターホンが鳴らされる音がした。


「はいはいどうぞーお待ちしておりましたよ。」

「はいはいどうもどうもー。航もなんか俺に頼みか?」

「航……“も”!?」


りとくんの発言にすぐに反応したのは俺の隣で大人しくしていたるいである。


「航“も”ってなに?さてはお前、他にも誰かに餌与えられて何か頼まれたな?」


だから今からその話をりとくんからゆっくり聞くからるいお兄ちゃんは大人しくしといて。ってペシッとるいの頭を軽く叩いてシッシとるいを押し退ける。


「まあ好きに食いなさい、ここにある刺身は全てりとくんのものだよ。」

「俺も食うけどな。」

「もう!!るいは黙ってなさい!!!」


ちょいちょい口を挟んでくるるいに叱咤すると、ふっと吹き出して笑うりとくん。


「あー分かった。俺になんか探り入れようとしてるな?あれか?仁になんか聞かれたか?」

「うわ、お前結構鋭いな。自分でいけないことしてる自覚でもあるのか?」

「こら!るい!!お前は黙ってろっつってんだろ!!」


口を挟みたくてしょうがない様子のるいの頭を今度はちょっとキツめにペシッと叩いたら今度こそ口を閉じてくれて、るいはグラスを手に取り大人しくお酒を注ぎ始めた。


「いけないことってなに?俺いけないことなんてしませんけど?」


りとくんはるいの発言にそう反応しながら椅子に腰掛ける。りとくんの目の前にある刺身のパックの蓋をパカッと開けてお箸を差し出せば、「あざ〜」と機嫌良さそうに礼を言ってからさっそく刺身を食べ始めた。


「りとくんれいちゃんになんか奢られただろ?」


俺はもういろいろと察してそうなりとくんに率直にそう問いかけると、りとくんはにっこにこな笑みを見せながら「え〜?」って小首を傾げてくる。その瞬間、りとくんの態度にイラッとしたのか、グラス片手にるいがりとくんの方に迫っていき、無言でりとくんの横腹を膝で攻撃し始める。こらこら、お兄ちゃんやめなさい!


「だってりとくんがれいちゃんと古澤くん誘って飯行くなんておかしいよな?」

「仁がそう言ってたんだ?」

「うん、まあそうだけど。」

「へー。じゃあその通りなんじゃね?」

「うわ、普通に認めた。」


刺身と一緒に食べるために白ご飯をよそった茶碗も置いてやると、遠慮無く茶碗を持ってモグモグご飯を食べるりとくん。この子ほんと清々しい性格してるわ。


「ちなみにりとくんって仁のことどう思ってんの?」

「仁のこと?どうって?能天気そうな奴とか?」

「あ、やっぱいいや。」


うん。これはあれだな。多分嫌いとか以前になんとも思って無さそうだ。ただの“知り合い”って感じ。


「じゃありとくんはこれかられいちゃんの事応援してやるつもりなのか?」

「応援っつーほどのことする気はねえけど。でもまあ場合によってはそれもあるかもなぁ?」

「場合によっては……。」


それがどんな場合かなんて、りとくんの性格をよく理解しているなら聞かなくても分かることだった。


実際、弟の性格を分かりまくっているるいお兄ちゃんは「お前さぁ、もしかして叔父さんにご馳走してもらった?」ってりとくんに少々呆れ気味な様子で問いかける。


「おお、兄貴鋭いな。」

「…はぁ。…当たりか。れいが奢るイコール叔父さんの金だからな。しかもなんかやたられいに協力的だし、お前相当良いもん食わせてもらっただろ。ちゃんと叔父さんにお礼言っただろうな?」

「当たり前だろ、媚び媚びで言ったわ。次はすき焼き連れてってもらうわ。」


…おぉ、さすがるいお兄ちゃん大当たりか。そこで俺は、りとくんが食べてみたいものリストを送ってきた理由がちょっと分かった。さては叔父さんに奢らせる気だな?


「……はぁ。母さんに報告しとこ。…りとが、…叔父さんに、…ご飯ご馳走…してもらったらしい、っと。」

「は?いちいち報告すんなよマザコン!」

「誰がマザコンだ!!お礼言わなきゃなんねえだろ!!」

「だから俺が媚び媚びでお礼言ったっつーの。」

「お前の媚び媚びとか逆にこえーんだよ!叔父さん優しいからお前の餌食になっちまうわ。」

「餌食とかじゃねんだわ、れいの俺への頼みに対しての対価払ってもらってるだけなんだわ。」


矢田兄弟言い合いし始めたらなかなか止まんねえんだよなぁ…。

結局暫くの間りとくんとるいお兄ちゃんのそんな言い合いが続いてしまい、話が脱線しまくった。


[*prev] [next#]

bookmarktop

- ナノ -