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航ダーリンが焼いてくれたたこ焼き、その他にもおつまみなどを机に並べてまだ真昼間にも関わらず航は缶ビールを飲み始めた。


「俺ハイボール作るけど由香ちゃんと真紘くんも飲んでみる?」

「あっ…じゃあちょっとだけ飲んでみようかな?」

「じゃあ俺もちょっとだけ…」


航ダーリンに勧められあたしと湯浅くんがそう頷くと、航ダーリンはグラスの中に氷を入れて、お酒と炭酸水をグラスの半分程度注いでくれる。


「まだまだ飲みたかったらいっぱいあるからね」って言いながらグラスを差し出してくれる航ダーリンからグラスを受け取り一口飲んでみたものの、申し訳ないけどあたしにとってはお世辞でも美味しいとは言えない味で、無言で黙り込んでしまった。

けれどそんな反応を見せてしまったのはあたしだけではなく、湯浅くんも苦虫を噛み潰したような顔をして黙り込んでいる。


あたしと湯浅くんの反応を見た航ダーリンは「二人とも分かりやすい顔してるな」と言ってクスッと笑った。


「ごめん…、どんな味か知らなくて…。」

「うん…、あたしも…。」

「コークハイにした方が良かったかな。」


…コークハイ?

せっかくお酒を入れてくれたのに全然飲めなくて申し訳ない気持ちでいたら、航ダーリンは立ち上がり、台所に行き新しいグラスとさらに冷蔵庫からコーラを取り出してきた。

今度はお酒とコーラを割ったものが入ったグラスを差し出され、一口飲んでみる。


「あっ!美味しい!ていうかコーラ!」


咄嗟に感想を言いながら湯浅くんにもあたしが飲んだものと同じグラスを差し出せば、湯浅くんも恐る恐る一口お酒に口を付ける。


「あっほんとだ、美味しい!コーラコーラ!」

「お〜、よかったぁ。じゃあ真紘くんそのままそれ飲んどいてね、由香ちゃんのもっかい入れてくる。」

「あ…、ごめん、あたし口つけたやつ…」


航ダーリンが再び台所に行った後、湯浅くんにコソッと謝ったら、湯浅くんは「いいよいいよ」って首を振ってくれて、そのままそのコークハイを「まじでこれ美味しいな」って美味しそうに飲み続けている。

……優しいなぁ。話も合うし、もしかしたらお酒の好みとかも似てるかも。

中学生時代はまったく関わりが無く、全然知らなかった湯浅くんのことを知れば知るほど、あたしの中で好感度が上がっていく。

特別イケメンとか言われるような、そういう感じの見た目ではないけど、笑うとふにゃっと細くなる目とか、にっこり上がった口角とか、結構好きかもしれない。

こっそりと横目で隣に座る湯浅くんを見ていたら、あたしはふと、あたしの真正面に座って暫く大人しくビールを飲んでいた航が、今もまだ缶ビールを口に付けたままジー…とこっちを見ていることに気付いた。

そして航はあたしと目が合うと、缶ビールの飲み口を口に付けたままの状態でにこっと無言で笑みを見せてくる。


…え、なに…?その微笑み…。

あたしが湯浅くんのこと見てたのバレてた…?

『お前今絶対真紘のこと見てただろ』っていう笑い…?…うわぁ…ちょっと恥ずかしい…。


航もあたしも互いに口は開かず、変な時間が流れていたが、途中で湯浅くんが航に「俺コークハイ結構好きかも」って話しかけたことにとって、航の視線はそこで湯浅くんの方に向けられた。


「まあ半分はコーラだからな。」

「結局はまだジュースが好きなお子ちゃま舌ってわけか。」

「慣れたらそのうち酒も美味しく感じてくるんじゃね?どんどん飲め飲め、飲みまくれ。」

「そうかな?じゃあせっかくだしこれだけ飲んでみよっかな。」


湯浅くんは航との会話の流れで、一口しか飲めなかったハイボールにも再び口を付ける。


「うぇ、やっぱりこれはちょっと大人な味だ。」

「それは炭酸水と割ってるけど、ロックで飲むもっと大人な奴もいるからな。」

「もしやるいきゅんさんロックで飲んでんの?」

「ううん、るいは初めてウイスキーロックで飲んだ時『う"えええええっ!!!!!』って言って炭酸水足してたな。」

「ふっ…すごい声。そんな声お前しか出さないだろ。」

「いやガチ。あの人結構頭おかしいんだよ。」


航ダーリンが台所に行ってる間に航ダーリンをなかなか酷い扱いをしている航。しかし湯浅くんはそんな航に対し、「それ自分だろ、お前平然とした顔で嘘ついてんなよ」って返しながらペシッと軽く頭を引っ叩いている。


「あいてっ」

「航昔よく口の中に虫入ったとかで『ぶええええっ!!!』って叫んでたもんな。」

「叫んでねえよ。」

「叫んでたし。大量の虫の大群が顔面に向かって飛んできて頭振り回しながら『あばばばば!!!!』とかも言ってたぞ。」

「そんなの俺じゃなくても誰でも言うよ。」

「違う違う、お前の『あばばば』はそれはもうイカれ狂ったような『あばばば』だったんだよ。」

「おい、俺が頭おかしい奴みたいな言い方すんな。」

「だってお前かなり頭おかしかったよ。」


中学時代か、それとももっと昔の幼少期の頃の話か、二人にしか分からない会話をする航と湯浅くんの声を聞きながらグラスを持ってこちらに戻ってきた航ダーリンが、クスッと笑いながらあたしに新しくコークハイを入れたグラスを渡してくれる。


「はい、由香ちゃんお待たせ。」

「あっ!ありがとう!」

「やっぱ幼馴染みは容赦無いなぁ。」


航が湯浅くんに『頭おかしい』とか言われているのを聞いての感想か、航ダーリンはクスクスと笑いながら元の位置に腰を下ろす。


その後も湯浅くんによる航の昔話は続き、航ダーリンは興味津々で時折質問を挟みながら、湯浅くんの話を聞いている。

小学生の頃からずっとバカでやんちゃだったとか、中学に上がってジャイアンみたいな怖い奴に目を付けられても持ち前のバカさで躱してそいつと仲良くなってたとか。


「ジャイアンみたいな奴って誰?」

「大川だよ。」

「大川ぁ〜?それはジャイアンに失礼だろ。」

「航は大川に失礼なことばっか言ってるけどな。」


そんな感じで懐かしい昔のことを喋り始めたら話は絶えず、お昼から集まっていたのに、気付けば一時間、二時間と、時間はどんどん過ぎて行った。


そしていつのまにか結構な本数のビールを飲んでいる航は当然酔っ払っており、大声で「るい〜!!」と叫び始め、べたべたと航ダーリンにくっつきはじめる。


「うわ…、いちゃつき始めた…」

「るい〜、まひろにちゅ〜見せてやろ〜」

「え、見せなくていいから。」


航ダーリンはお酒を控えめに飲んでいたからまだまだ正気で、アヒル唇で航ダーリンに迫る航を笑って受け止めている。


「宮原さんも見てんのにお前恥ずかしくないのか…。」

「べつにゆかちんには見られててもいいもんね〜。」

「ふふっ…、ね〜。」

「いや俺が見てて恥ずかしいわ…。」


いちゃついてる本人たちは全然恥ずかしがってないのに、湯浅くんが一番恥ずかしそうに顔を赤くし始めたから、あたしはそれを見てクスッと笑ってしまった。

湯浅くんも結構照れ屋なところがあるのかな?


結局その後、航は航ダーリンにくっついたままうたた寝し始めてしまった。


「こいつまじか。この状態で寝たぞ。」

「こうなったら暫く起きないかも。」

「るいきゅんさんいつも航の相手大変でしょ。」

「いやいや…俺の方がいつも相手してもらってますよ…。」

「またまた〜。そんなご謙遜しなくても。」

「いやいや…。」


もうすっかり二人は打ち解けていき、暫く航抜きで航の話をしていたが、夕方になり「またいつでも飲み会しましょう」という約束を交わしてから、お開きになった。


あたしは湯浅くんと二人で航の家を出て、帰り道を歩きながら「航とるいきゅんさんめちゃくちゃ仲良いなぁ」っていう湯浅くんの話に相槌を打つ。

駅の方に向かって歩いているが、まだ時刻は5時を少し過ぎた頃。解散するには惜しい時間だ。


…夕飯でも誘ってみようかな?でもまだそんなにお腹減ってないかな。帰る時間も遅くなっちゃうし、迷惑かな…?

そんなふうに考えて声を掛けるのを躊躇ってしまうが、次はいつ会えるか分からないからまだできるだけ一緒に居たい。


「…あの、湯浅くん…、」「ねぇ宮原さん、」

「「あっ、ごめん、どうぞどうぞ!」」


意を決して口を開いたが、まさかの言葉が被ってしまった。お互いに譲り合ったが、クスッと笑った湯浅くんが先に「小腹減ってない?」って声を掛けてくれる。


「うんっ!減ってる!!」

「良かったら夕飯そこのファミレスでもどうかなって…」

「いいね!あたしも夕飯誘おうと思ってた!」

「おお、まじ?よかった〜。」


あたしの返事に、ホッと安心したようにそう言ってくれる湯浅くん。彼との会話に、ドキドキと胸が高鳴っている自分が居る。

ああ、もうこれは決まりだな。

あたし、湯浅くんが好きだ。


自分の中に芽生え始めた恋愛感情に気付いたその日、彼と一緒に過ごす時間はずっとずっと楽しくて、「またね」って別れ際になると寂しくなって、早くまた次、湯浅くんに会いたくなった。





「いいじゃんいいじゃん〜!恋だね〜!次会ったらもう告っちゃいなよ!」

「うんうん!いいじゃん!もう告りなよ!!」


あたしの恋話を聞いた沙希とあかりがそう言ってくるから、あたし自身もそうしようかなって、実は凄く悩み始めたのだった。


5. 彼氏いない女どもの春 おわり


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【 れいは古澤を誘いたい 】


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