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成人式があった日、みんなで居酒屋に行って解散した後、湯浅くんは夜道は危ないから、と家の近くまであたしを送ってくれた。それがきっかけであたしは少し湯浅くんのことが気になり始め、次会える日を密かに心待ちにしていた。

湯浅くんとの会話は主に航の話が多く、聞いていて楽しい。湯浅くんも『え?あいつるいきゅんさんと一緒に住んでんの?』とか『え?親公認?』とか現在の航に興味津々で話は絶えない。

ラインを交換したものの成人式後はあまり連絡を取ることは無く、けれど突然湯浅くんからラインが届いたと思ったら内容は【 今度の話航から聞いた? 】だった。今度の話?なんだろう。


【 何?聞いてないよ 】

【 今度航とるいきゅんさんと宮原さんで宅飲みしようって話 】


大学の春休みが始まってからあたしは航と一切連絡を取ってなかったから、どうやら航は湯浅くん任せで話を進めているようだ。

日時や待ち合わせ場所など全部湯浅くんから聞き、航には当日、確認のつもりで【 今日湯浅くんとお邪魔するね 】ってラインを送るとグーサインをした動物のスタンプがひとつだけ返される。


ということで、約束した午前11時、湯浅くんとの待ち合わせ場所である駅に行くと、すでにそこには湯浅くんが待ってくれている。


「宮原さんこの前ぶりだな」って笑顔で話しかけてくれる湯浅くんに頷き、「航と航ダーリンは家で待ってるの?」って問いかけると、湯浅くんからは「今二人でスーパー行ってるらしい」って手に持たれたスマホ画面に目を向けながら返ってきた。


「お酒のリクエストある?だって。」

「んー、なんでもいいかな。チューハイとか?」

「だよな、俺も。まだそんなに好きな酒とかないし。」


まだハタチになったばかりで、お酒は不慣れなあたしたち。でももう航はビールを飲みまくっているから、湯浅くんは「あいつ酒飲みになるの早すぎだろ」って言っている。同感だ。航だけじゃなく、沙希ももうビールをグビグビと飲んでいるから、あたしはいつも凄いなぁという目で見ている。


「宮原さんが航の家知ってるから連れてきてもらってって航に言われてるんだけどそうなの?」

「あ、うん!あたし知ってるよ。」


駅から数十分歩き、見えてきたマンションを「あれだよ」って指差すと、湯浅くんは「うわ、大学生のくせに普通に綺麗なマンションじゃん…」って感想をボソッと口にしている。


「家賃いくらなんだろ?一人だと高いだろうけど二人だもんなぁ。」


湯浅くんはまだ家にも着いていないけど、二人の暮らしに興味津々だ。

そしてマンションに近付くと、逆方向からスーパーの袋を手に持った男の子二人組が歩いてくることに気付いた。二人はこっちを見ながらあたしたちのことを指さしており、続けて空いている方の手を大きく振ってくる。

手を振ってきたのは航で、その隣で航ダーリンがぺこっと小さく頭を下げる。そんな航ダーリンにぺこっと頭を下げ返した湯浅くんは二人の元に駆け寄って、航ダーリンが両手に持っていたスーパーの袋一つを受け取った。

優しくて、気が利く。それが、湯浅くんに対してあたしが抱いたイメージだ。


「あ〜重たかったから助かった〜、真紘くんありがと〜。」


航ダーリンはそう話しながら先頭を歩き、マンションの中に入って行く。「お前酒買いすぎなんだよ」と突っ込む航に航ダーリンはヘラヘラとした笑いを返す。


二人の家にお邪魔すると、「おおっ、綺麗だな…」と興味津々で家の中を見渡す湯浅くん。「家賃いくら?」っていきなりそんなことをストレートに聞いている。さすが幼馴染みなだけあってあまり遠慮が無い。


「んー、1人5万くらい?」

「いや、そんなにはいってない。4万弱。」


詳しくは分かってなさそうな航の言葉に訂正する航ダーリン。お金のことは航ダーリンが管理しているのかな?


「折半だよな。どうやって払ってんの?」

「お前興味津々だな。るいパパがこの部屋の契約者だからうちの親がるいパパに払ってると思う。」

「へー、すげー。揉めたりしねえの?」

「今のところないと思うけど親同士で揉めてたら知らん。」

「揉めたことないよ、仲良いよ。お歳暮送り合ってるらしい。母さんが言ってた。」

「ぶはっ!!!俺そんな話聞いたことねえぞ。」


まさかの航が知らない話を今この場で航ダーリンが話し始めるから、航は盛大に吹き出して「お歳暮て!!」と突っ込みを入れている。


「最初は航の両親から送ってきてくれたらしくて俺の母さん大喜びでハムとソーセージの詰め合わせギフト返したとか話してた。」

「すご…、仲良いなぁ…。」

「これは俺が父ちゃんから聞いた話だけどそのうち飲み会も開く気満々らしいぞ。」

「あ、それは俺の両親が航の両親に誘いまくってるからだよ。でもなかなか日が合わなくてまだ実現できてないんだって。」


買ってきた食材やお酒をテーブルの上に並べながら、航と航ダーリンはまさかの両親まで仲が良すぎる話をしており、あたしも湯浅くんもその話を聞きながらひたすら感心しまくっていた。


その後あたしたちはまだ正午にもなっていない時間帯からリビングに置かれたこたつを囲み、腰を下ろす。

机の上には航ダーリンによってたこ焼き器が置かれ、せっせと材料なども運んできてたこ焼きを作ってくれるようだ。


「真紘くん食べられないものある?タコは無くてえびとチーズとウインナー入れるんだけど。」

「いや…、大丈夫だけど…、え?タコ入れないんだ?」

「うん、航がいっつもタコは要らないって言うから。」

「たこ焼きなのに?」

「うん。タコは要らん。」


航の好みの所為でいつもタコ無したこ焼きになる話をしながら航ダーリンはたこ焼き粉をボウルに入れ始め、湯浅くんはせっせとたこ焼きの準備をする航ダーリンを見て「お前いっつもるいきゅんさんにご飯作らせてるんだろ」って航に厳しい言葉をかける。


「ううん、俺が作らせてるんじゃなくてるいが勝手に作ってくれんの。」

「勝手には失礼だろ!お前のために作ってくれてるのに!」

「違う違う、まじで勝手に作ってくれる。」

「そうなんですか?」

「そ、そうなんです…。」


航の言葉に航ダーリンがデレデレと照れながら頷くから、それを見た湯浅くんはもうそれ以上は何も言わなかった。

そんな会話を繰り返しているうちに湯浅くんもすっかり航と航ダーリンの関係性が分かってきたようで、「お前がまさかこんなにイケメンを尻に敷いてるとはな…」ってボソッと小声で呟く。


「びっくりした?」

「寧ろびっくりしないやつ居ないだろ。」

「あたしも航ダーリン初めて見た時すごいびっくりしたな〜。まずイケメンすぎなんだよね。」

「ほんとそれだよね。るいきゅんさん絶対モテるのになんで航?」

「おい、それ何回も聞くな真紘。俺の当時のバカっぷりが可愛かったからだって言ってるだろ。」

「自分で言うな、それ絶対嘘だろ。どうせお前から惚れてグイグイアタックしまくったんだろ。」

「まあそれも間違いではないな。」

「ほら、やっぱり。」


さすが幼馴染み。暫く会わない期間があっても、航のことはかなり理解してそうだ。

航の発言に結構辛口なコメントを返したりする湯浅くんと航の会話を目の前で聞いている航ダーリンは、たこ焼きを焼きながら照れまくっていて、気付けば真っ赤な顔になっていた。


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