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「偉い偉い、あんたはよく頑張ってるよ。」

「ううっ…!うん…っ!頑張ってるよね!あたし超頑張ってるよね!!」


航と普通にこれからも友達として接し続けられるように頑張る、と泣きながらあたしたちに話してくれたあかり。そんなあかりの髪をぐしゃぐしゃに撫でながらちょっと酔っ払い気味で慰める沙希。


「っしゃー!!あたしらも早く彼氏つくっぞ!!」


ビールが入ったジョッキを掲げたあとに、一気に飲み干す勢いでグビグビとビールを飲み始めた沙希に釣られるようにあかりもチューハイが入ったグラスを持ち、「絶対作る!推しじゃなくて彼氏作るっ!!」って意気込みを口にしまくっている。


「あかりもう日下部くんでよくない!?話聞いてくれんの超優しいじゃん!」

「え〜、でも春樹は普通に友達って感じ〜。」

「向こうはそうは思ってないかもよ?」

「ん〜、確かに優しいけどぉ〜…。」

「じゃあ逆に日下部くんのどこがダメ!?」


酔っ払い沙希は火照って顔を少し赤くしながら日下部くんについてあかりにグイグイ質問攻めし始める。


「え〜…べつにどこがダメとかじゃない…。」

「ダメじゃないの!?ならいいじゃん!!」


すごい勢いで日下部くんを勧めまくる沙希に、あかりはぽそっと小声で返した。「航への好きが無くなってくれたら、春樹も全然有りなんだけどね」って。


それを聞いた沙希はちょっと大人しくなり、「…そりゃそうだ。まずはそこだよね。」って言って、しんみりしながらおつまみを口に入れる。


「…春樹が何回も言ってたよ。あいつは魔性の男だ、って。顔を見て話すな、顔見て話してたら取り込まれる、ってまるで魔物みたいな言い方してたよ。」

「ふふっ…日下部くんウケる、きっと自分の好きな子が何人も航のこと好きだったんだね。」


沙希がサラッとあかりの話にそう返した途端に、あかりがジッと沙希の方を見ながら黙り込んだ。

『きっと自分の好きな子が何人も航のこと好きだったんだね』……それはつまり、自分も含まれてる?って思ったのかな?

でもすぐに「まあ言えてるけどね…あたし無意識に航の顔じっと見ながら喋っちゃうし。」って呟くあかり。どうやらとっくに航に取り込まれてしまっている後だから、そこから抜け出すのはなかなかに難しそうだ。


「由香は?誰か気になる人とかいないの?」


ずっとあかりの話の聞き役に回っていたから、急にあかりから話を変えるように問いかけられ、ギクッとしてしまった。


「えっ!?…あたし?」

「え?なんでそんな驚くの〜?なんか怪しい〜。」

「あっ、いや、いきなり聞かれたから…。」

「なになに?何かあるんでしょ?」

「……ん〜、実はちょっと気になる人が…。」


今まであたしはまったく自分の恋話を二人にしたことがなかったから、このあたしの発言に二人から「えっ誰!?」って興味津々で聞かれてしまった。


「この前成人式の話したでしょ?航と小学生の頃から仲良い友達と航の三人で式に出席したって話。」

「あーはいはい!!」

「聞いた聞いた!!」

「そこからその人と連絡取ったりするようになって、…まあ、なんか、気になってます、…って感じ?」

「キャー!!いいじゃんいいじゃん!!もうそのままいっちゃいなー!!!」


酔っ払い気味の沙希はテーブルにジョッキを置いて、ハイテンションでおしぼりを手に取り頭上で回し始める。応援してもらえるのは嬉しいけど、自分の話をするのは少し恥ずかしい。


「成人式の後はその人と会ったの?」

「うん、一回だけご飯食べに行った。……航と航ダーリンの家で、四人で…。」


その話は春休みの最初の方の事だったから、二人に話すタイミングが無かっただけでべつに隠していたわけではない。でも“航の家”っていうところに反応したのか、あかりが少し真顔になっている。


「え〜、なにちゃっかり楽しそうな会開いてんの〜?あたしも呼んでよ〜、その人どんな人か見てみた〜い!」

「あたしも気になる!!写真ないの〜?」


沙希の言葉に便乗して、そう聞いてきたあかりにあたしは成人式の日に撮った写真があることを思い出して、スマホを取り出した。

二人に見せたものは成人式の帰り際に撮った航と湯浅くんのツーショット写真で、航が湯浅くんの肩に首が絞まる勢いで腕を回しておちゃめにウインク、舌出ししながらピースしており、そんな航に湯浅くんは苦しそうな顔をしながら航を睨み付けている。

この日、式の初めは暗い表情をしていた航だったけど、航ダーリンが来てからの航はいつもの明るい航に戻っていて、湯浅くんとのやり取りも中学の時にあたしが見たことのあるような二人だった。


「うっわ、なにこの航クソガキじゃん。」

「え、航めちゃくちゃ睨みつけられてるけど。」


二人は最初湯浅くんに興味津々だったけど、写真を見た後は湯浅くんよりもはちゃめちゃっぷりを見せている航にコメントしながら少し引いている。


「湯浅くんって言うんだけどね、湯浅くん小学生の頃から航のやんちゃっぷりに散々振り回されてたらしいよ。」

「なっちくんが高校時代の航のクソさやばかったとか言ってたけどこの写真見たらちょっと納得だわ。」

「てかあたしらの前ではかなり大人ぶってない?この写真かなり本性出てるよね?」

「出てる。でも普通に由香も見てる前でやってるんだから自然にこの人の前で出た態度なんだろうね。」

「二人は幼馴染みらしいからきっと久しぶりに会って童心に帰ってるんだよ。」

「童心に帰りすぎでしょ、この人首締まっとるがな。」


湯浅くんを見せるために沙希とあかりに見せた写真が選択ミスだったようで、そんな鋭い突っ込みをしてくる沙希にあかりが爆笑していた。


その後も沙希があたしの話を聞いてくるから、先日航の家で飲み会したことについて、二人に少しだけ話をした。


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