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「で?日下部はなんかねえの?」

「グフッ…」


不意打ちで彼女が居ない者同士だと仲間意識していた大橋に話を振られたクソカベは、食べていた最中の焼き鳥を喉に詰まらせた。


「ゲホ、ゴホ…、お前は、っどうなんだよ、ゲホッ」

「俺なんもない。強いて言うならバイト先に気になる子居たけど彼氏持ちだったから萎えてる。」

「…そ、そっか。それは残念だったな…。」


頑なに自分の話はしようとしないクソカベに大橋は本人に聞こうとするのはやめて、俺の方を向きながら「日下部の話なんかねえの?」って聞いてきた。

その問いかけに反応したのはチューハイですでにほろ酔いになっているなっちくんで、へらへらと笑いながら「日下部も恋話あるよな〜」って口を挟む。


「あんのかよ!」

「今ね〜、こいつ航のこと好きな子のこと気になってんだよ。な〜?」


ぺらぺらとクソカベの話を口にしたなっちくんに、クソカベは恨めしそうになっちくんを睨みつける。


「は?まじ?勝算あんの?」

「まったくない。」

「しかもその子めちゃくちゃ面食いだからね〜。」

「どういう関係?」

「俺と航と同じ大学の友達だよ〜、日下部が出会い欲しいっつーから会わせてやったんだよね〜。」


チューハイ片手にほろ酔いのなっちくんは、ベラベラと口が止まらずクソカベの話をしまくっている。


「それで航に惚れてる子のこと気になったって?もっと他居なかったのかよ!」

「だって気になったんだからしょうがねえだろ!!いっつもいっつも俺が好きになる子は何故か航のことが好きでよお!!ほんと嫌んなるわ!!」

「いっつもいっつもって、何人目だ?」


クソカベはやけくそのような態度でグビッと梅酒を飲みながらまるで俺が悪いみたいな言い方で話しているが俺はまったく悪くない。


「その前はぁ〜、矢田くんの妹にベタ惚れしてたんだよなぁ〜。」

「あ、その話は知ってるかも。矢田くんの妹文化祭来てて騒がれてたよな。」

「俺もチラッと見たけどクソ可愛かった〜、日下部無謀な恋しすぎだって。」


今はもう失恋しているにも関わらず、今更村下に『無謀な恋』なんて言われてしまったクソカベは、「言うなクソ〜!!!」って叫び、ぐびぐびと体内に梅酒を流し込んだ。

なんかちょっと可哀想だが、俺が何か慰めの言葉をかけてやったところで舌打ちの一つでもされそうな気がして、俺は空気を読んで何も喋らないことにした。


「バカだね〜日下部、自分から航に惚れてる子好きになっといて。」

「も…、もうやめてくれ、なっちくん…これ以上俺のハートを傷付けないでくれ…っ」


ヘラヘラ笑いながら話すなっちくんに痛いところを突かれてまたクソカベはダメージを受けている。しかしそんなクソカベが面白かったのか村下も大橋もバカ笑いしており、こいつら皆無慈悲だなと思った。

でも、そういや昔から俺らの関係なんてこんなもんだったな。バカ笑いして楽しんで、でも本気でバカにしているわけではなく、「まあ頑張れよ」って応援もしてやる。

だからクソカベもすぐに立ち直ったかのように顔を上げ、「俺もそのうち童貞卒してやるわ!」って声高らかに宣言していた。


話は変わり、今まで聞き役で大人しくしていたモリゾーに村下が目を向け、「で?」ってモリゾーに話を促した。


「彼女年上だっけ?」

「社会人だよ、超美人。」

「航会ったことあるんだ?」

「うん、一回だけ。性格も良さそうでこいつにはもったいなすぎる。」

「まじかよ。」


モリゾーが自分で喋りたいかもしれないが、俺も知ってることを喋りたくて口を挟めば、モリゾーはドヤ顔しながらかっこつけて髪を掻き上げている。クソカベの方から「チッ」と舌打ちが聞こえたのは多分気の所為ではない。


「で、その彼女と最近初エッチしたって?どこで?」

「ラブホ。」

「どうやって誘ったんだ?」

「そろそろどうですか…………って言ってみたらコクン、って。……コクン、って頷いてくれてあああ!!!可愛かった…!!!」


今ではすっかりリーマン風に爽やかになったのに、興奮気味でテンション高く話すモリゾーはやはり気持ち悪い。

聞いてもいないのに「初めて中に入れた時の事は今でも鮮明に…」などと具体的に話してきやがったから、またクソカベの方から舌打ちが聞こえてきた。

話の途中でモリゾーの股間に手を伸ばしてギュッと掴んでみると、「ひぁ…っ!」と気持ち悪い声を出しながら前屈みになっているモリゾー。そんな気してたけど、童貞卒業話をしながら普通に勃起してやがる。


「やだ、航くんったらおスケベ…。」

「どっちがおスケベだ、思い出し勃起してる野郎には言われたくない。」

「あなたの旦那もお前のこと喋りながら勃起してたわよ。」

「適当なこと言うな。」

「矢田くん航のどんなこと喋んの?」

「お前も興味持つんじゃねえ!!!」


せっかくモリゾーの話が始まったと思ったら、またすぐにコロッと村下が俺とるいの話に興味を示してきてしまった。


「そういやこの前会った時はあの人『航くんが好きなプレイ分かっちゃった』とか言ってたな。」

「え?航くんが好きなプレイ?お前どんなプレイ好きなの?」

「うるせえええ!!!!!」

「つーかモリゾーって矢田くんと結構会ってるんだ?」

「うん、大体矢田くんが惚気たい時に誘ってくる。」


なんだよ“俺が好きなプレイ”って!!自分でもさっぱり分かんねえわ!!!

にこにこと機嫌良さそうに『今日モリゾーと飯行って来るね』とかるいはちゃんと報告してくれるけど、これからはモリゾーとの飯禁止にしてやろうか…などとこっそり考える。


「矢田くんどんな惚気すんの?」

「ひたすら航のこと可愛い可愛い言ってる。いつの間にかあの人航の呼び方『航くん』になってるし、もう昔の『友岡ァァア!!!』とか怒鳴ってた矢田くんは見る影もないな。」

「ふふっ…ないね。」


モリゾーの話になっちくんもそこで同意するように口を挟むが、村下と大橋は「それはもうすでに高三の時点でなかったよな?」って言って笑っていた。


その後も俺とるいの話に興味津々な村下と大橋の所為で俺は恥ずかしいエロ話などをモリゾーやなっちくんに暴露されまくり、ええい勝手に喋ってろ!って俺は自棄酒が捗る。


そしていつの間にか俺は、泥酔していたのだった。


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