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【 航くんと愉快な仲間達 】


「おーっす!みんな久しぶり!」

「久しぶりぃ!なんかモリゾーめちゃくちゃイメチェンしてね?航も前よりかっこよくなってるし。お前ってまだ矢田くんと続いてんの?」

「続いてるどころじゃねえよ、矢田くんの方が航にベタ惚れで相変わらずベッタベタだよ。」

「そうなんだ!やるじゃん、航。」


久しぶりに顔を合わせた高校時代の友人たちが、会っていきなりそんな話題で盛り上がる。メンバーは俺友岡航、なっちくんにモリゾー、クソカベのお馴染みの奴らとそれから、村下、大橋という元Eクラスでそこそこ仲良くしていた友人たちだ。


俺やモリゾーの話には飽き飽きしてそうなクソカベが、初っ端から村下と大橋に「お前ら彼女できた?」って問いかけており、「俺いない」と返事をした大橋にクソカベはホッと安心するような表情を見せている。全員彼女持ちだったらまたクソカベが卑屈になってしまいそうだから俺もちょっとホッとした。


「俺来月で彼女と半年。」

「あ、そういう話は聞く気ないんで。」

「おい!自分から聞いてきたんだろーが!!お前さてはまだ童貞だな!?」


どうやら彼女持ちらしい村下に素っ気ない言葉を返したクソカベが、その所為で自爆している。

『童貞』と言われてしまったあとのクソカベはその後大人しくなり、モリゾーに「元気出せよ、大丈夫、そのうち卒業できるさ。」と慰められていた。

……が。


「うるせー!お前調子乗んなよ!!」

「うぐっ…!」


苛立ったクソカベにモリゾーは腹にグーパンを入れられている。何故クソカベが苛立ったかと言うと、モリゾーが最近童貞卒したばかりだからだった。


皆成人してすっかりお酒を飲むようになった俺たちは、居酒屋に入り六人用の座敷の席に案内される。

奥の席からなっちくん、俺、モリゾーの順で座り、フリーの者同士一緒に座りたいからかクソカベは大橋を真ん中に座らせ、その隣にひっついて座った。


「ところで綾部は彼女居んの?」


大橋にそう問いかけられたなっちくんは、ギクッとしたような表情を見せてからへらっと笑った。


「あれ?お前知らんかった?なっちくん高校ん時から後輩と付き合ってるけど。」

「えぇっ!?後輩?誰?男?」

「雄飛っていうヤンキーみたいな奴。」

「え、知らん知らん。写真ねえの?」


どうやらなっちくんが雄飛と付き合ってたということはあんまり知られてなかったようだ。このメンバーでわざわざ隠されても面倒だから先に俺が勝手に喋れば、なっちくんは恥ずかしそうに無言で顔を赤くしている。

そしてなっちくんはスマホを取り出し、恐らくなっちくんが隠し撮りしたっぽい雄飛が飯食ってる時の写真を大橋と村下に見せてやった。


「うわ、ガチヤンキーじゃん。綾部がこの人と?なんか意外。」

「…怖いのは見た目だけで、すっげえ優しいんだよ。」

「うはは、めっちゃ顔赤くなってるし。さては綾部の方がベタ惚れだな?」

「…当たり。」


今では当時なっちくんが雄飛にビビりまくってたことはすっかり無かったことにのように話しているなっちくんがちょいウケる。どの口が言ってんだ、ってな。

写真を見て、「かっこいいじゃん、ヤンキーだけど。」とか言われている雄飛に照れまくるなっちくんの話で暫く盛り上がりながら、飲み物や食べ物も注文して、俺たちの飲み会は始まった。


「俺ら高二ん時矢田くんにクッソ怒られたりしたけどさ、あれからもう三年近く経つんだぜ?早くね?」

「早い。」

「航はもうすっかり矢田くんに抱かれてるんだろ?高校の時にはすでに噂されてたよな。」

「…いいって、俺の話は…。モリゾーの童貞卒業話聞こうぜ…。」

「聞きたかねえよ、んな話!航と矢田くんのセックス話の方がまだ聞いてておもろいわ!」


平然と俺に下ネタを振ってきた村下から躱すためにモリゾーの名を持ち出したら、クソカベが全力で嫌がってくる。こいつは堂々とモリゾーに嫉妬しすぎだ。


「じゃあ多数決。モリゾーの童貞卒話聞きたい人〜」

「「はい。」」


手を挙げたのは俺となっちくん。


「航と矢田くんのセックス話聞きたい人〜」

「「「は〜い」」」


手を挙げたのはクソカベ、村下、大橋。


「お前どっちなんだよ。」

「俺?聞きたいし喋りたい。」

「じゃあとりあえずモリゾーの話はあとな。」


村下はニヤリと笑いながらそう言って、俺に視線を送ってきた。そんな興味津々そうな顔で俺を見るな…!


「いや〜そういや矢田くんって当時いろんな噂されてたよな。」

「…いろんな噂?」

「抱き方が鬼畜とか絶倫とかあの矢田くんが夜は航に嫌がられてるとか。」

「…だいたい当たりじゃね?」


村下の話に横からなっちくんがそう口を挟んでくる。うん。だいたい当たりだ。噂通りすぎて俺はちょっと恥ずかしいぞ。


「『友岡航で満足できないなら僕が相手になります!』って矢田くんに頼み込んでる奴も居たらしいな。」

「は?まじかよ?」

「あ、俺もその話聞いたことある。矢田くん空き教室に呼び出されて迫られてたらしいけど『一瞬でも俺に触れたら張っ倒す』っつって何事もなかったような顔して教室から出てきたらしい。」

「そんな話初耳だわ。」


初耳だけど、るいならその通りに相手を張っ倒してそうな姿が目に浮かぶ。


「矢田くん噂話で溢れてたもんな〜。矢田くんが浮気してる噂流して友岡航と別れさせようって企んでる奴も居たよな。」

「居た居た。でも矢田くん浮気どころかだんだん航にべったりになってったから無理だったんだろ?」

「そうそう、結局それで矢田くんのこと諦める人続出。友岡航手強すぎってお前めちゃくちゃ恨まれてたぞ?」

「それはなんとなく知ってる。俺体育祭とかで野次られまくってたし。」

「あ〜野次られてた野次られてた。懐かしいなぁ。」


続々と届く酒や料理を口にしながら、今度は俺とるいの高校時代の話で暫くの間盛り上がった。

初耳の話やなんとなく覚えのあるような話など、村下と大橋から聞く話がちょっと新鮮で、俺の隣に座ったなっちくんも「えぇっ!」と驚きの反応を見せたりする。


当時はるいもいろんな人に迫られたりしてたのを、俺には内緒にしてたんだなぁ…と今更知ったが、まあいちいち『今日男に迫られてさぁ』とか報告しねえか。って一人で納得したりもした。

俺は知らないるいの話が、まだまだたくさん有りそうだなぁ。


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