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この春高校を卒業し、大学に進学したりなと専門学校に進学したこば。会える日はかなり減ってしまったけど、連絡は結構頻繁に取り合っていたから、今でもこばとの仲は健在だ。

今日はそんなこばと一ヶ月ぶりくらい久々に会う約束をしていた。誘ったのはりなからだ。『お兄ちゃんの大学に遊びに行きたいんだけどついてきて』って。まあ、…本音はお兄ちゃんの大学に遊びに行きたいっていうよりは、黒瀬さんが大学生のうちに会うきっかけが欲しかっただけなんだけど…。

事前にお兄ちゃんにこばと遊びに行くかもって話したら、お兄ちゃんはわざわざりなが黒瀬さんに会えるように声を掛けてくれたようだ。だからりなは、ちょっとでも黒瀬さんの目に自分が大人っぽく映れるように、どんな服を着て、どんな髪型をして、どんなメイクをしたら良いかなって、いっぱい考えて準備をしてきたのである。


待ち合わせ場所でこばに会うと、りなたちはお互いの恰好をじろじろと確認し合い、グッと親指を立てながら、「いいじゃん」って互いに褒め合った。りなとこばはいつもこうやって互いに褒め合い、テンションやモチベを高め合うのだ。

りなは大人っぽくなりたいがために、ほんとはばっさり髪を切りたいのを我慢して胸の下くらいの長さまで伸ばし、今日のために寝る前のケアも怠らず、さらに頑張って髪を巻いてきた。りなのゆる巻ヘアーどうかな?似合ってたら嬉しいなぁ。

高校の頃はかなりのギャル女だったこばだけど、今ではすっかり落ち着いたメイクと服装で大人な雰囲気になっている。りなが友達のことをそう思うみたいに、りなもちょっとでも大人っぽく見えてたら嬉しいな。


お兄ちゃんが通う大学に向かうための電車に乗った後、こばは髪型やメイクを気にしながら「りとにぃもるいにぃと同じ大学なんだよね?りとにぃに会えるかな?」って言ってそわそわし始めた。

りなが黒瀬さんに会いたいように、こばもりとに会いたがっているのだけれど、りなはわざわざクソ兄に会おうとは思っていないため、ついつい「どうだろうね〜」って冷めた返事をしてしまう。すると「せっかくついてきてあげてるのにあたしの願いも叶えてよ!」ってこばに軽く怒られてしまった。それもそうか。

期待はまったくできないけどりとに【 この後こばとそっちの大学遊びに行くんだけど軽く挨拶するだけでいいからしてあげて 】ってラインを送ったら、五秒くらいで既読がついたのに返信はなかった。…チッ、既読無視かこのやろう。まありとがりなの頼みに応じてくれないのは想定内の事である。

続けてお兄ちゃんに【 あと30分くらいで着くよ〜 】って送ったけど、お兄ちゃんはりととは違いずっと未読だから真面目に講義受けてるんだろうな。お兄ちゃんは未読の時間の方が長いけどあんまり気にならない。でもりとはすぐ既読がつくのに無視しやがるから苛立ってしょうがない。返事がきても苛立つ内容の方が多いからやっぱりあいつはクソ兄だ。


「あ、そうだ。すっかり忘れてたけどれいちゃんもお兄ちゃんと同じ大学なんだった。久しぶりに連絡してみようかな?」

「れいちゃん?誰?」

「りなのいとこ。」

「いとこ!?まじ!?いとこもるいにぃたちと同じ大学なんだ!何歳?」

「りなの一個上。りとと同い年。」

「えっ…、りとにぃと…?」


ハッと思い出してれいちゃんの話題を口にしたけど、れいちゃんがりとと同い年だと聞いただけでサッと表情を曇らせるこば。なんか変な想像してそう。『りととはまったく仲良く無いから安心して』とかわざわざ言うのもおかしいけど「いとことりと超不仲だよ」って話したら、こばはパァッと一瞬で笑顔になった。考えてること分かりやすいなぁ。恋する女の子はただのいとこでも敵視しちゃうんだな。


「まぁりなもあんまり仲良くないんだけどね、そのいとこと。」

「そうなんだ?りながいとこと仲良くないってなんか意外なんだけど。りな基本誰にでもフレンドリーなタイプじゃん。なんで仲良くないの?」

「んー、基本はね。でもりなのいとこちっちゃい頃からお兄ちゃんにベタ惚れだったから、りなもお兄ちゃん大好きだし、会う度にお兄ちゃんの取り合いみたいなことしてて幼いながらにバチバチだったんだよね。」

「え〜妹vsいとこでお兄ちゃんの取り合い?超可愛い〜!妹はりとにぃの方もいったげてよ〜。」

「いや、そもそもりなといとこがお兄ちゃんを慕う原因りとだからね。あいつがりなたちをいじめるから。」

「あははそうなんだ〜。りとにぃやんちゃ〜。」


懐かしい幼少期の事を思い出しながらこばに昔話をするりなだけど、そういえばあの不仲すぎるりととれいちゃんは大学で喋ったりするのかな?……とか少しばかり気になりながらこばと喋っていたら、電車は気付けばあと少しでお兄ちゃんたちが通う大学の最寄駅まで来ていた。


電車を降りてからは徒歩数分。徐々に見えてきた綺麗なキャンパス。自分が通う大学と比べたくはないけれど、りなが通う大学より遥かにレベルが高いお兄ちゃんたちが通う大学は、なんか雰囲気からしてかっこいいし、足を踏み入れるのが恐れ多い。


……とか言いつつ、まあ普通に入っちゃうけどね!
「お邪魔しま〜す!」って、りなとこばはハイテンションで大学の正門を通り抜けた。





三時間目の講義が終わった後、さっさと教室を出て歩夢と階段を降りていたら、下からキャピキャピと元気に女の子二人組が歩いてきた。


「…うっっわ、おいっ、歩夢見ろ、下からめっちゃ可愛い子歩いてきたぞっ…!」

「え?なに?」

「下っ…!下見てみ、下!下から歩いてきた子!ガチ可愛い。」


俺は瞬時に一人の女の子に目が釘付けになり、興奮気味に歩夢に知らせるが、そんな最中にも女の子二人は楽しそうに喋りながらスタスタと階段を登ってくる。


「りとにぃどこにいるのぉ〜?ね〜、ライン返ってきてないの?早く会いたいよぉ〜」

「うん、既読無視されたまんま。運良くそのへん歩いてたら会えるかもね。期待はしない方がいいよ。」

「やだぁ〜!大学生してるりとにぃに会いたい〜!!」

「シッ!こばちょっと声うるさい!ほら、そこの人に超見られてんじゃん!」


その可愛い子はさっきから『りとにぃ』『りとにぃ』と口にしまくっている友達に向かって『シッ』と口の前で人差し指を立てながら俺たちの横を通り過ぎていく。


「今あの子、『りとにぃ』っつった?」

「言ってたな。……え、もしかしてりとの妹なんじゃねえの?」

「え、どっちが?」

「………そりゃお前、」


俺は歩夢の問いかけに返事をする前に急いで振り返り、あの可愛い女の子を追いかけた。


「待って!」って声を掛けながらガシッとその子の肩を掴み、引き留めたら、その可愛い子にビクッと驚かれながら「なんですか?」って嫌そうな顔で振り向かれる。うわっ、待って、俺今すげえキモイ奴みたいになってんな。


「違ったらごめんだけど、りとの妹…?」


そう問いかけながら可愛いその子の顔をジロジロと見てしまったが、やっぱめちゃくちゃ可愛い。この子があのイケメン兄弟の妹だと言われたらかなり納得がいく可愛いさだ。

咄嗟に声を掛けてしまったものの、暫く俺を見て顰められていた表情は、俺の問いかけによりキョトンとした表情に変化した。その後サッと取り繕うように笑みを浮かべながら「あっ、そうです!りとの友達ですか?」って聞き返される。やっぱ思った通り、この子がりとの妹ちゃんなんだ…!!


「そうそう!りとのダチ!りと探してんの?」

「あ〜…探してるって言うほどではないんですけど、この子が会いたい会いたいってうるさくて。」


りとの妹は俺の問いかけに若干めんどくさそうにも見える表情で説明してくれるが、隣に居る友達はキラキラした目で俺を見上げてきた。


「りとにぃの友達なの〜!?どこに居るか知ってるんですかっ!?」

「あっ、ごめん、どこにいるかまでは分かんねえけど、多分あいつもどっかで講義受けててそろそろ終わる頃だとは思うよ。ラインしてみようか?」

「お願いしますっ!!!」


妹の友達は口の前でぎゅっと両手を合わせながら必死に頼んでくれるけど、りとの妹はあんまり乗り気では無さそうに「あ、軽く居場所聞く程度でいいんで」って控えめに頼んできた。なんか妹、りとに会うの嫌そうだな。……あ、仲悪いんだっけ。


急にりとの妹に声を掛けた俺に歩夢はちょっとびっくりしながらも後から歩み寄ってきて、「へぇ、まじか〜りとの妹か〜」って興味津々で俺の隣に並んできた。


「えっ、じゃあ矢田るいの妹ってことだよな?やばっ!」


歩夢が矢田るいの名前を出した瞬間に、妹は嬉しそうに口元を綻ばせた。……りと、なんかどんまいだなお前…。妹とれいちゃん、矢田るいとお前に対する反応まんま同じじゃねえか。


俺は歩夢が喋ってる間にりとに【 今どこいる? 】ってラインを送ったら、その直後普通に返信がくる。


「あ、りとから返事返ってきた。このあとカフェで課題やるんだって。行く?」

「行きますっ!!!」


りとは見た目からはあんまり想像できないけど結構真面目な奴で、『課題をやる』と俺が聞いてもべつ「普通の事にしか思わねえけど、妹の友達は何故かキラキラした目で「りとにぃ課題やるんだ〜!」とか言ってうっとりしていた。


そして妹は、「りなのラインは既読無視したくせに…」ってなんかちょっとキレていた。

怒っててもかわいすぎるな。
さすがイケメン矢田兄弟の妹だ。


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