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「いや〜いい昼休みだったわ。りとが居るだけで黒瀬拓也の方から絡んできてくれんのすごくね?」

「隣の女の人になんか申し訳ないことした感じだったな。ずっと黒瀬拓也と喋りたそうにしてたのに。」

「それな。俺も思った。でも若干横の人の事迷惑そうにも見えなかったか?度々りとに話しかけて会話終わらせてたよな。」

「思った。アピールしつこかったんじゃねえの?まああの女の人の気持ちも分かるけど。あれはかっこよすぎだわ。」


黒瀬先輩とは学食で別れて、教室に向かって歩く歩夢と慎太郎は、ずっと先程の黒瀬先輩の話をしている。特に慎太郎は今日大学に来てからずっと黒瀬先輩の話をしている気がする。

そんな二人の会話には興味無さそうなりとくんだったが、歩夢がいきなり「つーか矢田るいの態度さぁ、かなりガチっぽかったよな?」って矢田先輩の話題を口にした途端、りとくんはクスッと笑みを漏らした。


「最初りとの冗談かと疑ってたけど、なんかめちゃくちゃ顔に好きって書いてある態度で喋ってたよな。あの人すげークールな感じなのに。」

「ククッ…おもろ、どんな顔だそれ。」

「てか彼女じゃなくて良かったとかモロ言ってなかったか?あの二人がもし付き合ったら周りの女阿鼻叫喚だろ。」


結構真面目な顔をして話している歩夢に、りとくんはニタニタ顔が止まらなくなっている。


「いや、でもどっちかっつーとお兄さんよりりとの方が脈ありそうじゃね?」

「あ、それはガチで思った。りとの顔見た瞬間隣の席取ってたし。」

「隙あらばりとに話しかけてたよな。」

「おい、変な方向に話持ってくな。あいつどう見ても女に迫られるのが嫌で俺を利用してただけだぞ。」

「あ、やっぱそうなんだ。」


りとくんのニタニタ顔は自分の名前が出たところで終了し、俺も何度か思った事だったためりとくんの発言に相槌を打つ。


「先輩いろんな人から迫られてそうだもんなぁ。」

「矢田るいからも迫られんのはどういう気持ちなんかな?」

「まさか本気だとは思わねえんじゃねえの?後輩だろ?普通に慕ってくれてるって思ってそう。」


でもまた自分の兄の話題に戻ったところでりとくんのニタニタ顔は復活した。これは歩夢も慎太郎も結構真面目に話してる気がするぞ…?りとくんいい加減にしないと本気にするよこの人たち……って思いながら会話を聞いていたところで、ニタニタ顔のりとくんとバチッと目が合う。

俺はコソッと小声で「本気にしてるよ」って言ったら、りとくんはニタニタしたまましーっと口の前で人差し指を立てた。悪い子だなぁ…。


午後からは二人とは別々の講義を受けるため、結局りとくんは二人がしている勘違いをそのままにして二人とは別れて教室に移動した。


「あれ絶対二人とも本気にしてるけどいいの?」って言ったら、りとくんからはほんとにそのままでも良さそうなケロッとした態度で「いいんじゃねえの?」って返される。


「兄貴に彼女いんの?とか聞かれるのだるいし。」

「あー…まあなぁ。それは確かに…。」


それなら俺も、仁くんのことが気になってる、みたいな態度二人の前で出してみようかな。

二人の矢田先輩のことを噂する態度はあんまり嫌な感じじゃなかったし。ひょっとしたら案外あっさり応援してくれる空気になったりして。


「俺も言ってみようかなー。仁くんのこと気になってるって。」

「いいんじゃねえの?」


俺のその言葉にも、そう返してくれるりとくんに俺は少し勇気が湧いてくる。

まだ友達に全部を話す勇気まではないけど、ずっと隠してるよりは気が楽になれそうだ。


「古澤が思うよりも案外あいつらなら『あ、そうなんだ』で終わりそうな気もするけど。」

「ふふっ…俺もそれちょっと思った。」

「まあ悪いようにはなんねえだろ。気楽に話せば?」

「そうだなぁ。」


りとくんが言うんだから、なんかそんな気がしてきたな。


よし、決めた。次二人に会った時、話せそうなタイミングがあったら仁くんの事話してみよう。


意外にも、そう決めた時の俺の心は、結構ポジティブでわくわくしている。

多分それは、二人の勘違いではあるけど、矢田先輩が黒瀬先輩にアプローチしているように見えている時の二人の態度がなかなかに面白くて、俺が自分の話をした時も同じ反応しそうだなぁ…と想像できたからかもしれない。

あの二人なら、最初はめちゃくちゃ驚くけど、きっとりとくんも言ってくれてるように『あ、そうなんだ』で終わりそうな気もしてきた。



「まぁ間違いなく歩夢はそれ聞いたら喜ぶよ。」

「……ん?なんか言った?」

「ふぁ〜あ、ねむ。」

「あっ!!古澤くん!!…とりと、待ってた〜!一緒に座ろ〜!!」

「……相変わらず騒がしい奴だな。」


りとくんが何か言った気もするけど、午後からの講義の教室に入った瞬間に御坂さんに手招きされながら声をかけられたため、りとくんとの会話はそこで終了した。


御坂さん、午前よりも元気だなぁ。

何か良いことでもあったのかな?


19. 人気者すぎる黒瀬拓也 おわり

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