アヤの気持ち [ 140/168 ]

りなからすれば、悪口を言われ、感じ悪い態度を向けてきた四人ともが全員憎く、四人ともが同類のような人間が集まったようなグループだと思っていたが、全員がそうだったわけでもなく、蓋を開けてみればこのグループにいる人間の中にも、実はこのグループに苦しむ人間が、存在していたのだった。





『アヤ髪切ったの?ショートあんま似合ってなくない?ロングの方が似合うよ。』

『リップ変えた?なんかめっちゃ唇赤くない?もうちょっと薄い方が可愛いよ。』

『え?アヤあの男と付き合ったの?絶対やめた方がいいって!!』

『なんかその服地味じゃな〜い?』


口を開けば人のダメ出しばかりするこの女と、私は何故いつも連んでいるのか、正直自分でもよく分からない。

高校で同じクラスになった三人と、何かがきっかけで意気投合し、仲良しグループのように連み出したものの、何故かいつも四人でいるとストレスが溜まっている。仲良しに見えるけど、これは仲良しっていうのか…?ってたまに考えていた。

そう思っていた時、サユも『えっ、ちょっとサユ、今日眉毛変だって!!ウケる、濃すぎなんだけど!』ってバカにするように笑われているのを目の当たりにする。

サユは『朝急いでたから!』って言って手で眉を隠し、恥ずかしそうにしていたから、私は『べつにそんなに変じゃないよ』って言ったら、あの女は不機嫌そうに私をじろっと睨んできた。

その目が凄く怖かったから、そこからはもう逆らわないように大人しくしていようと過ごす日々。でもあの女が居ない時には、サユと二人であの女の悪口を言いまくった。言わずにはいられなかった。私達のストレス発散方法は、陰で悪口を言うことだけだった。


表向きは“仲良しグループ”の私たちは、大学まで同じところに進学した。裏では愚痴を言いまくってるくせに、いつまで仲良しグループでいる気だろう?と自問自答する。でも、仲良しグループで居ることに慣れすぎていて、今更その輪から抜け出せなかった。

いつの間にか人の悪口を言うことが染み付いてしまっており、『あの人ダサい』だの『髪型が変』だの人のことを勝手に見ては評価する。自分が言われるより、他人が言われてる方が自分の心を保てたからだ。


けれど、いつまでも続くうんざりするこのグループの中にりなが加わった日から、私の気は少し楽になった。あの女からダメ出し食ってるのはいつもりな一人。私もサユも、りながいるといつも安全な場所に居られる。『可哀想』と思うことさえ忘れてしまい、私は自分がダメ出しを食らわないように、あの女のりなの悪口に同意した。


でもすぐにりなはこの輪から抜け出した。

グループからあっさりと抜け出し、冬真くんと二人で楽しそうにしている。心底羨ましかった。


それでもまだあの女は、りなの悪口をやめない。ずっと続けている。正直助かった。自分が言われないなら、その方が良いから。

でも、ちょっと執着しすぎなんじゃないの?ってくらい、あの女はりなのことを目の敵にしている。多分、可愛いくてチヤホヤされているのが羨ましくて、憎いのだ。

ついにはりなが喋っていた知り合いらしき男にまで声を掛け、仲良くなり、りなの話を聞き出している。さすがにちょっとそこまでの執着は気持ち悪い。

聞けばその男はりなのお兄さんの友達らしく、りなのお兄さんの事まで探り始める。


『私のお兄ちゃんも陰キャだし服ださいし恥ずかしくてみんなには見せらんない』


私たちの前ではそう言ってたりなだけど、実際に見たりなのお兄さんはりなが言ってることとはまったくの真逆で、見せられないどころか、普通は自慢したくなるくらいのかっこよさだった。

じゃあ何故りながああ言ったのかを、私はなんとなく察する。私達に、興味を持たれるのを避けるためだろうな。

それなのにわざわざりなのお兄さんの友達にお願いまでして、お兄さんに会った私達は、罰が当たったんだろう。


『おめえらりなのこと相当ディスってたらしいじゃん。裏でお兄さんもクソだったとか言われたら癪だからよぉ。先に言っといてやってんだよ。』

『裏でコソコソきっもちわりぃ。圭介とまでわざわざ繋がって、そんなにりなの兄がどんな奴か気になったか?』

『人の悪口ばっか言ってるくせに、表で良い顔してる女って俺いっちばん嫌いなんだよなぁ。』


私達がりなのお兄さんに言われた言葉は、言われて当然の事だった。だってこれは、全部自分たちが蒔いた種だ。

私はさすがに堪えた。このグループでずっと過ごすのは、もう無理だ。私はもうこれ以上、人を傷付ける悪い人間になりたくない。

だからサユと二人で話して、りなに謝ろうって決めた。今更謝られてもりなは困るだけだろうけど、何か行動を起こさないとずっとこのまま自分が嫌な人間になってしまいそうだったから。


でも、謝ったからってあっさり許してもらえるとは最初から思ってはいない。


『……謝罪はちゃんと受け取っとくね。でもまた仲良くできるかどうかはわかんないから保留にさせて。』


りなが言った言葉は当然で、寧ろその言い方は優しいくらい。もっと突き放されてもおかしくないのに、『謝罪はちゃんと受け取っとくね』って言ってくれたりなの言葉には涙が出そうだった。

嫌なグループに入っても流されず、一人でも堂々としていられるりなに憧れの気持ちを持つ。私も、りなみたいな人になれたら良かったな…。


その日、サユと二人でりなの話をしながら帰った。

『また明日ね』って声を掛けたら、笑顔で『バイバイ』って手を振ってくれたこと。その笑顔が可愛くて、周りにチヤホヤされるのも当然だ、ということ。なんで『保留にさせて』って言われた後なのに、笑顔でバイバイって返してくれたんだろう、って事。

自分が嫌な人間になり過ぎているから、りなの笑顔は眩しすぎた。

今更もう遅いかもしれないけど、もう一度、一からりなと友達をやり直したいって思った。



しかし、現実はそう甘くない。



「あんたらさぁ、りなになに謝ってんの?」


りなに謝罪をした翌日、あの女に高圧的な態度でそう詰め寄られた。この女のこういう気が強そうなところが、高校の頃から苦手だった。だから逆らえないままここまで来てしまった。

何も言えなくなる私とサユに、「あたしらあいつに嘘つかれてたんだよ?」って話を続けてくる。


「……嘘って?」

「あいつ普通に彼氏いるし、それにお兄さんの事もあいつが言ってることと全然違ったし、イケメン彼氏の存在隠して裏で合コンとかしてるあたしたちのこと嘲笑ってんだよ。」


……この女は、なんの話をしているの?

『イケメン彼氏の存在隠して裏で合コンしてる
あたしたちのこと嘲笑ってんだよ』…??


「……彼氏?」

「なんでそんなこと知ってるの?」

「昨日りなが彼氏と会ってるとこに出会した。しかもあいつ彼氏にあたしらの愚痴言いまくってたんだよ。まじで最低!絶対許さない!」


手をぎゅっと握り、顔を真っ赤にしながら怒っている。そんなこと、私たちに言われても…。愚痴を言われるようなことしたからこうなったんでしょ?

私とサユは何も言葉が見つからず、黙っていたら「あんたらも都合良いよね、人のこと利用するだけしてさ」って今度は私とサユに何のことを言っているのかよくわからない不満っぽい言葉をぶつけてきたから、そこで私はぷつっと我慢の限界がきてしまった。


「うん、ごめんね。もう話しかけないでおくね。」


精一杯口に出した言葉は、私なりのこの女と決別を意味する言葉だ。しかしその言葉をどう受け取ったのか、私の言葉選びが下手くそだからか、「分かればいいよ」って言い残して去っていく。

多分、”りなに”もう話しかけないでおくねって意味で捉えたんだろうな…。私はあの女に言ったのに。

でもサユにはちゃんと伝わっていたようで、「アヤ偉い、よく言い返せたね」って私の頭を撫でながら褒めてくれた。


「てかさ、『人のこと利用するだけして』ってどういうこと?べつに利用したことないよね?」

「合コンセッティングとかされたとき私達が無駄にお礼言ってたからありがたがってるって思ってるんじゃない?」

「あ〜…。だってすっごい感謝しなさいよって態度出してくるからお礼言うしかないよね。」

「だよね。……はぁ。もうやだ、……疲れた。」

「私も……。」


人間関係って、難しい……。

私とサユは、もう愚痴を言う元気もないくらい、くたびれてしまったのだった。


アヤの気持ち おわり

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