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学食でりなちゃんを待っているあいだ、るいがりなちゃんの事を悪く言っていた相手をボロクソ言っていた気がする…。いや、るいだけじゃなく、俺も『性悪女あれからどうなった?』とか言ったかも…。


るいは『りとが会ったんなら俺も面くらい拝んでやりたい』だの『俺がりとだったらコーヒーぶっかけてた』だのなかなか本気か冗談か分かんねえような鬼畜なことも言ってた気がする…。勿論、隣にその相手が座っているなんて思ってもいないから言えることだ。

でもるいが隣に座ってた子がその相手だったと知った時、一体どんな反応をするのかと……、想像したら怖くなって、やのとまくんからそれを聞いた時、咄嗟にるいをあの場から遠ざけるように学食を飛び出してしまった。だって『俺の妹を傷付ける奴はてめえらかぁあ!!!』ってブチギレるかもしんねえじゃん…!!


そういえば、思い返したら俺たちがここへ来て学食を探していた時すぐに声をかけてくれた女の子は、初めから俺たちに気があるような態度で近づいて来たような気がする。るいがりなちゃんから聞いたことは確か、その感じ悪い奴らは合コンとかしまくってて、合コン相手の悪口も半端ないだとかだったか。

そんな子がるいを見つけたら、当然近付いてくるに決まってるし、実際学食の隣の席まで座って近付いてきた。あのまま会話を続けて俺たちと仲良くなろうとしてたのかも。

でも途中から隣のテーブルの二人はすげえ大人しくなった気がする。全然会話はなくて、気まずそうに顔を見合わせていた時があったかもしれない。

だからあの子達は今、顔目当てで近付いた男がまさかのりなちゃんの兄で、しかもその顔目当てで近付いた男がまさかの自分たちのことをボロクソ言ってるんだから、かなり複雑な心境だろうな…。



俺まで複雑な気持ちになりながらカフェに入り、みんなでコーヒーを頼み席に着くと、るいが「航、なんなんだよ」って気になってしょうがない様子で聞いてきた。

ここで俺はりなちゃんにチラッと視線を向けると、りなちゃんは「りなが言ってた感じ悪い子たち、さっきお兄ちゃんたちの隣のテーブルに座ってた子たちだよ」ってクスクスとおかしそうに笑いながら答える。

そのりなちゃんの発言に、るいは「はっ?」て眉間に深い皺を作りながら聞き返した。


「え、……ガチで言ってる?」

「……どうやらかなりガチっぽいぞ。」


最初は顰め面をしていたるいだが、徐々にその顔は引き攣るような笑みに変わり、「……え、俺やば、」って最後には口を手で塞いだ。


「うん、やばいな。」

「何がやばいの?」

「こいつりなちゃん待ってる間あの場所でモロにりなちゃんのこと悪く言ってた子たちのことボロクソ言ってたんだよ。」

「あ〜、そういうこと?ま〜いいんじゃない?知らずに言っちゃっただけなんだし。まさか隣に座ってるとか思うわけないしね。」

「クックックックッ……」

「うわっ!こいつ開き直って笑い出しやがったぞ…!」

「お兄ちゃん、ありがとうグッジョブだよ。」


りなちゃんが全然気にしてなさそうだから、途中からるいも開き直って「いえ〜い」とか言って兄妹でハイタッチしてるし、まあこれでるいの気が済んだなら良しとしておこうと俺は少しだけホッとする。


「ところで二人、あの子らになんか話しかけられたりした?」

「うん、学食探してたら声掛けられて案内してくれたけどなんかその流れで席も隣座られたんだよな。航が無駄に愛想良く接するから。」

「いや、そんな愛想良くしてはいねえよ?俺は普通に接してただけだぞ?」

「いや、甘いな。航が愛想良く受け答えしてたから良い気になって隣の席まで来られたんだよ。隣座られてガチで鬱陶しかったわ。」

「……まあ、お前が鬱陶しがってるのは態度見て気付いてたけど…。」


そもそもあんなに広い学食で、ガラ空き状態なのに真横のテーブルに座ってくる時点で『すげーグイグイ来る子だな』とは思ってたけど、その子がまさかの噂の子だったとはな。


「オムライス半分残ってたし、実は昼飯食うの二回目なんじゃねえの?もう一人の連れはデザート食ってたし。」

「それ俺もちょっと思った。あれ絶対無理して食ってたよな。男に近付きたいだけでそこまですんの?」

「そりゃ相手がるいならそこまでして仲良くなろうと思ってたんじゃねえの?残念ながら盛大な悪口の所為で性格はクソだなって思われたかもしんねえけど。」

「クソにクソって思われても何とも思わねえけどな。」


場所を変えたことでさらにボロカス言ってる俺とるいの会話を聞きながら、りなちゃんはクスクスと笑った。


「なんかお兄ちゃんのおかげでスッキリしたかも。因果応報ってやつだね。」

「ははっ、まあ向こうが勝手に俺らの隣に座ってきただけで俺はなんも知らずにただ航と喋ってただけなんだけどな。」

「これからはあのカピカピになったオムライスを前にして苦しそうな顔してたあの子の姿思い出したら、今までのムカつきも忘れられそうだよ。」

「それは良かった。」


時には鬼畜でクソ野郎にもなるけど、妹には優しい優しいるいお兄ちゃんは、優しく笑いながらりなちゃんの頭をくしゃくしゃと撫でた。


……まあ、さっきは一瞬ヒヤッとしたけど、

こうして矢田兄妹が今平和に穏やかに笑ってるから、良かった良かった……(?)

いや、良かったのか…?

ま、いっか。……良かったということで。


17. るいお兄ちゃん参上! おわり

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