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昼ご飯を食べ終え、三限の講義が始まるのを待っている間チラッとアヤちゃんとサユちゃんの事を盗み見していたりなは、その時間あのボス女ともう一人仲良くしていた子が居ないことに気付いた。

そのもう一人の子は一番やのとまに興味持ってて、やのとまのことを狙ってて、りなに協力させようとしてきた奴だ。目障りな女二人がアヤちゃんとサユちゃんと一緒に居ないことを、りなは「ハッ」と鼻で笑う。性格悪すぎてとうとう仲の良かった友達にも見捨てられたんじゃないのぉ〜?……ってね。


「なにニヤニヤ笑ってんだ?なんか悪いこと考えてそうな顔してる。」

「まあね。人間誰しも少しくらい悪の心は持ってるもんだよ。」

「やだりなって上のお兄さんより下のお兄さんに結構似てるよな。ニヤニヤしてる顔そっくり…、アウッ!!!」


横からやのとまが聞き捨てならないことを言ってきたからまた横腹をつねってやったらやのとまの恥ずかしい声が教室に響き渡った。


「こらそこー、講義始まるから静かにー。」


先生に注意され、文句を言いたそうな顔をりなに向けてきたやのとまだが、りなはフンとそっぽ向きながら筆記用具を取り出し、真面目に講義を受ける準備をした。



90分といううんざりする長さの講義がようやく終わったあとにスマホを確認すると、お兄ちゃんから【 学食でご飯食べてる 】というラインが送られている。時間は30分ほど前だ。

まだ今も学食に居るかな?と確認ラインを送ろうとしていたら、「りなまた明日ね」って控えめに声をかけてくれるアヤちゃんとサユちゃん。


「あっ、うん!ばいばい!」


べつにまだ仲良くする気とかはあんまりなかったけど、声をかけてくれたからにはりなもちゃんと返したくて手を振りながらそう返したら、二人はパッと笑みを浮かべて嬉しそうに手を振り返しながら去っていった。

あ〜…嫌になっちゃうなぁ。りなってまじ単純。不快な思いさせられた子たちなのに、あんな態度を見せられたらやっぱころっと仲良くしてしまいそうだ。


「やのとまこの後どうする〜?りな今から学食行くけど。」

「俺も暇だから行こっかな〜。ポテト食べる?」

「ポテトいいね。ちょっとつまみたいかも。」


りなの影響で最近よく大盛りポテトを二人で一皿つまむようになったやのとまは、学食に到着すると注文カウンターの方に直行していった。


りなはお兄ちゃんの姿を探すために学食内を見渡すと、隅のテーブル席に腰掛けている航くんの姿を見つけた。お兄ちゃんは背中を向けて座ってる姿が見えたから、りなは背後からそーっとお兄ちゃんに近付く。

その最中、ふと見たくない顔が視界に入った。

こんなにガラガラの学食なのに、お兄ちゃんと航くんが座る隣のテーブル席で何故かこんな時間にオムライスを食べているあの大ボス女の苦しそうな顔面が。なんでこんなとこに居んの?

お皿のオムライスはまだ半分以上残っている。顔色悪くて、かなり苦しそうだけど大丈夫なんだろうか。嫌いな女の心配までしてやるりな超優しい。

しかしそんな女のことは無視だ。もう関わることはない。今も偶然そこに座ってただけだろうしね。気にしない気にしない。


引き続きそーっとお兄ちゃんの背後へ歩み寄ったら、航くんがりなに気付き、ふっと小さく笑ってきた。そしてお兄ちゃんの真後ろまで近付くと、お兄ちゃんの耳元で「わっ」と言って少し驚かせてみる。

その時チラッと横のテーブルに目を向けたら、あからさまにりなから顔を背けている女二人組。え?なに?そんな顔背けてなんか都合悪い事でもあんの?普通にしてたら良いのに。りなたちもうまったくの無関係だからさ。


「うわっ、びっくりした!お〜、りなお疲れ。一人?やのとまくんは?」

「やのとまも居るよ。今ポテト買いに行ってる。」

「お前らポテト好きだな〜。太るぞ。」

「毎日は食べてないから大丈夫。」


そう話しながら、りなはお兄ちゃんの隣の席に腰掛けた。奴らとはお兄ちゃんを挟んでるから少し距離があるし、チラッとチラ見がしやすい。スプーンを持つ手はまったく進んでおらず、もうとっくに冷めてて乾燥してそうなオムライスがかなりまずそうだ。一体あの人たちはここで何をやってるんだろう。


「りなその後大丈夫か?もう悪口言われてない?」

「へ?…あっ、う、うん、大丈夫だよ!」


やばっ、ここでいきなりその話題きちゃう?りなお兄ちゃんに愚痴言いまくってたのあいつらにバレちゃうじゃん。


「ほんとか?なんかあったらすぐ言えよ。」

「うん、大丈夫。もうまったく関わってないから。」


……って、本人たちがいる隣でこんな話すんのどうなの?これじゃありながなんかちょっと悪いことしてる気分…。

話題を変えようと「なに食べたの?」って二人に聞くと、「俺カツカレーでるいは日替わり定食」って答える航くん。


「あっ、やっぱカツカレー食べたんだ!航くんなら絶対選ぶと思った!どうだった?りなまだ食べたことないんだよね。」

「普通に美味しかったよ。値段も安いな。」


航くんからカレーの感想を聞いていたところで、ポテトのお皿を持ったやのとまがやって来て、お兄ちゃんと航くんに挨拶しながら航くんの隣の席に腰掛ける。


「あっレベチお兄さんたちこんにちは〜!一緒にポテパします?」

「その呼び方なに?しかもポテパって初めて聞いたわ。」

「やのとまくん、この人の事はるいお兄さんって呼んであげて。」

「いや、べつにやのとまくんにお兄さんって呼ばれたくねえんだけど。」


やのとまもお兄ちゃんたちとの会話に加わったところで、再びお兄ちゃんは「やのとまくん、最近りなムカつくクソ野郎に嫌味言われたりしてない?」って聞き始めてしまった。……りなが言うのもなんだけど言い方ひど…。嫌味言ってた本人たちが横に居るんだけどなぁ…。りなが愚痴言いまくってしまったから、かなりお兄ちゃんに心配かけまくってしまっている。


「あ〜、その子たち今日二人やだりなに謝ってましたよ?かなり反省してそうだったんでもう大丈夫なんじゃないですか?あと二人は知りませんけど。」

「おぉ!まじ?良かったなぁりな!」

「え?…あ、うん。」


やのとまめ…、こいつ余計なことを言いやがって…。気付けよ、隣に居るんだよ、一番謝るべき大ボスがな…!!

そのことにはまったく気付いてないやのとまだったが、りなが隣のテーブルをチラ見しながら頷いたら、すぐにその視線に気付いたやのとまも隣のテーブルに座っている人物に気付き、「えっ…!」と小さく声を漏らした。

そして、「え?なんで居んの?」って小声で話しかけてくる。いや、やのとまがちゃんと小声で話せていたかどうかは少し怪しい。

その証拠に、「え?誰が?」って聞き返した航くんに、やのとまはヒソヒソと航くんの耳元で「隣のテーブルに座ってる二人がその残りの二人っすよ」って教えている。


「……え?それまじで言ってる?」

「ん?なに?誰が居るって?」


ヒソヒソ話をする航くんとやのとまにお兄ちゃんも加わろうとした瞬間、航くんがガタッと突然椅子から立ち上がり、「カフェ行かね?」って不自然に話題を変えた。


「え?なんだよいきなり。」

「コーヒー飲みたくなってきた。」

「はぁ?」


鞄と返却するおぼんを持ってさっさと席を立ちそこから去ろうとする航くんに、仕方なくお兄ちゃんも鞄を持って立ち上がり、航くんの後を追う。やのとまも空気を読んでポテトのお皿を持ちながら立ち上がり、りなたちは慌しくその場を離れる。


スタスタと歩く航くんは、学食の入り口で一度だけチラッと振り返り、「やっべえ」って口に出しながら苦笑いする。


「なにがやべえの?」

「…いや、まあ話はひとまずカフェに行ってからにしよう。」


その場では頑なに話そうとしない航くんに、お兄ちゃんは首を傾げて不思議そうにしながら渋々カフェへ向かう航くんの後を追いかけた。

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