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「えっ!?お兄ちゃんと航くん今日ここに遊びに来るらしい!」
「え?お兄ちゃん?どっちの?」
「るいお兄ちゃんの方!」
「あ〜、やだりなが懐いてる方?」
「そう!」
お兄ちゃんからの連絡に驚きながら講義が始まる前にやのとまと教室で喋っていたら、少し前まで仲良くしていたけど感じ悪くて関係を切った四人のうちの二人、アヤちゃんとサユちゃんがびくびくと恐れるような態度でりなの元に歩み寄ってきた。
「……え、なに?」
もう関わる気はなかったから、りなはキッと睨みつけながら無愛想にそう口にしたら、彼女たちはしゅんと肩を落とした様子で「りなごめんね」といきなり謝ってくる。
「え?今更なんのごめん?」
「あたしたち感じ悪かったよね…」
「今になって謝るのもズルいかもしれないけど、同じ教室でこれから何度も顔合わすのに気まずいのも嫌だからさ…」
「え?謝罪の理由は“気まずいのが嫌だから”?りなは全然平気なんだけど。その理由で謝んのは自分本位すぎない?」
「…いや、えっと、それだけじゃなくて、りなとまた仲良くなれたら良いなと思って…。」
「え、なんで?男目当て?りなのお兄ちゃんがかっこよかったから?」
「そ、そんなんじゃなくて…っ」
仲良くなりたての頃は良いイメージを持ってもらいたくて必死に猫を被ってたけど、もうそんな必要がなくなった今は、自分本位なことばかり言ってくる彼女たちにズバズバとはっきり言い返した。
すると徐々にアヤちゃんの目には涙が溜まってきてしまい、「そうだよね…、やっぱ今更謝っても遅いよね…」って震える声で口にする。
サユちゃんもシュンと落ち込むように暗い顔をしていた時、横からまったく空気を読めないやのとまが「え?せっかく謝ってくれてんのに仲直りしねえの?」って口を挟んできた。
「あんたはすっこんでな。」
「あ、すませーん。」
「謝ったら良いってもんじゃないからね。謝って仲がすぐ戻るような簡単なもんじゃないんだよ、人間関係ってのは。」
「まあね〜?でもほら、勇気はいったと思うけど?」
やのとまはそう言いながら、お腹あたりで手を握り震えているアヤちゃんのその震えた手を指差す。
…まあ、それはね。確かに、勇気を出して謝ってくれている気持ちは伝わってきた。こういう態度にりなは結構弱いから、ぶっちゃけころっと許して仲直りしてしまいそうにはなる。
でもダメ。そんなにあっさり許しちゃダメ。
この二人は比較的悪口は少ないタイプの子達だったことは分かっている。でも、りなの悪口に同調するように頷いていたのを知っている。あの時はみんなでりなを悪く言っていて、あとからこんなふうに謝ってくるなんて虫が良すぎるとは思わないのか。
あとから謝られるよりも、りなは悪口を言われている最中に一言『そんなことないよ』って否定してくれるような子と仲良くなりたい。だから、今ここで許して、また仲良くする、なんてことそう簡単にはできない。また人の悪口に同調して同じことを繰り返されてしまうかもしれない。
「……謝罪はちゃんと受け取っとくね。でもまた仲良くできるかどうかはわかんないから保留にさせて。」
高校の頃なら間違いなくあっさり許して仲良くなってた。実際、りなは高一の頃に一度は敵対していたこばと今親友になっている。こばは思ったより悪い奴じゃなかった。だからもしかしたら、この子たちも、そこまで悪い子ではないかもしれない。
でも今のりなはそう甘くはない。
人に不快な思いを与えておいて、謝罪一つで許されると思ったら大間違いだ。一度不快な思いをさせられた身からすると、その人のことをもう普通の目では見れない。“そういうことする子なんだ”っていうイメージが付き纏う。
だからもしまたりなと仲良くしたいって本当に思ってくれてるのなら、りなの中にあるそのイメージを変えようと態度で示してくれないと、仲良くなるのは絶対に無理だよ。
……でもまあ、りなは震えながら謝ってくれる子にまではそこまでキツく当たれないから…どうしようかね。
「……もう今更だから本音で話すけど、りな結構無理してたんだよね。アヤちゃんたちと一緒にいる時。みんなおしゃれで大人っぽいし、話もあんまり合わないしさ。りなだけ置いてけぼりって空気めちゃくちゃ感じてたんだよ。」
せっかくだからずっと思ってたことを話したら、アヤちゃんとサユちゃんは静かに相槌を打ちながら話を聞いてくれている。
「大人っぽくて綺麗なみんなの前だから無理して猫被って喋ったりもしてたけど、本当は結構がさつで、中身はあんまり女の子らしくない人間なんだよね。」
「うんうん。確かにな〜。」
横から大きく相槌を打ってくるやのとまが生意気でペシッと頭を叩いたら、さっきまで手を震わせていたアヤちゃんの口元がふっと少しだけ緩んだ。
「だからりな、次は自分を出せる相手と仲良くしたいんだよね。自然でいられて、無理しなくても良い友達。」
そこまで話し、アヤちゃんとサユちゃんはコクコクと頷いてくれていたが、何故か突然ハッとした顔をしながら顔を隠すように俯いた。
どうしたんだろう?と思っていると、彼女たちの間でリーダー格のような存在だった女が教室に入ってきたところだった。
りなはその瞬間、『ははーん、なるほどな。』といろんなことを察する。もしかしたらアヤちゃんとサユちゃんも、今まで無理をしていたのかもしれない。無理してあの女に付き合っていたと考えたら、まだこの子たちには救いようがある。
「もう講義始まっちゃうから今度ご飯でも食べながら話そっか。」
りなは慈悲を与えてやるような気持ちで少しだけ笑みを浮かべながらそう言ったら、彼女たちは慌てて小さく「ありがとう」と礼を口にしながら、サッと席についた。
「はぁ〜、女ってめんどくさそうだな〜。」
横でずっとりなたちの会話を聞いていたやのとまは、会話を終えると呆れたような顔をしながらそんなことを言ってきたから、りなはちょっとムカッときて脇腹をつねってやった。するとやのとまは「うひゃっ!」と恥ずかしい声を出しながら飛び跳ねている。
めんどくさいのは女とか男とかじゃなくて、“面倒な人”がめんどくさいんだよ。りなは面倒な男だって山ほど見たことあるからね。
だから、りなの中で一番めんどくさいのは、間違いなくあの一番りなの悪口吐いてた女だ。プライドが高そうで、りなを小馬鹿にするような目で見ていたあいつ。
ああ!!思い出しただけで腹が立つ!!
りなのこと『あざと女子』とか言いやがったあいつだけは絶対許さないからね。
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