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学食に向かう足を進めながら、あたしはチラッと後ろを振り向き、必死に話題を考え彼らに話しかけた。
「お二人は他の大学の方ですか?」
あたしの問いかけに答えてくれたのはまた黒髪のイケメンで、「あ、はい、まあ。」と愛想笑いを浮かべながら頷いてくれる。
「今日は学食食べに来たんですか?」
なんとか会話を繋げるために、あたしも必死に笑みを浮かべながらまた問いかけると、続けて黒髪のイケメンが「いや〜そういうわけではないんすけど腹減ってるんで」って答えてくれる。
こっちのイケメンは愛想が良いのに、もう一人はめちゃくちゃ無愛想。顔は良いけど、性格はあんまり良くなさそうだな……って勝手に想像していたら、もう学食が見えてきてしまった。
その瞬間、ずっと無表情だったイケメンが「あ、」って声に出し、初めてにこっと愛想良くあたしに笑みを見せてくれながら「学食あそこですね、ありがとうございました」ってお礼を言いながらスタスタと歩いていってしまった。
続けて黒髪イケメンも「あざーっす!」とお礼を言って茶髪イケメンの後を追いかける。
えっ!もう行っちゃうの?ちょっとあっさりしすぎじゃない?もうちょっと話したかったのに!……ってここで引きたくないあたしは、注文メニューを眺めている二人の元に歩み寄った。
「オムライスがおすすめですよ〜!」
再び話しかけたあたしに、「あ、」って振り向いてくれる黒髪イケメン。茶髪イケメンはまた無表情に戻っており、無言であたしに視線を向けてくる。さっきの笑みはどこに行ったの?やっぱり性格良くなさそう?さすが、ここまでのイケメンを落とそうと思うとかなり高難易度だろうなぁ。
「あ、でもカツカレーも美味しいかな〜。すぐお腹膨れちゃうけど。」
続けてそう口にするあたしに、黒髪イケメンが「あ、まじ?」って反応してくれる。付き合うなら断然こっちのイケメンの方が良いのかも。いくら顔が良くても、中身が最悪だったらちょっとね。
そして黒髪イケメンは、注文カウンターであたしがおすすめしたカツカレーを注文してくれていた。これはちょっと脈あるんじゃない?
茶髪イケメンはと言えば、オムライスもカツカレーも頼むことなく普通に日替わり定食を頼み、黒髪イケメンがカツカレーを受け取るのを待ってからさっさとテーブルの方へ歩いていく。
二人が立ち去ったあとに、友人がコソッと「あのイケメン、ペアリングっぽいのつけたネックレスしてたよ」って話しかけてくる。
「普通に彼女いるんじゃない?」
「でも黒髪イケメンの方だったらいけそうじゃない?」
「え、狙うの?」
「うん、いってみる。」
昼食にさっきオムライスを食べたばかりだけど、あたしは黒髪イケメンと親しくなるために、ライスを少なくしてもらってもう一度オムライスを食べることにした。
「さすがにあたしはもう食べれないよ」と言ってる友人にはさらっと食べられそうな杏仁豆腐を奢ってあげて、イケメン二人組が座るテーブルを探す。
隅の方のテーブルで座って食べてるのを見つけたあたしは、「あっ、」ってたまたま向かった席に彼らが居たかのような反応を見せながら、彼らが座る隣のテーブルに腰掛けた。
「チッ…」
……え?今聞き間違いじゃなかったら茶髪イケメン舌打ちしたような気がするんだけど。隣のテーブルに座られるの鬱陶しかった?やっぱこっちのイケメンは彼女持ちなんだろうな。あたしせっかくオムライスまで頼んだのに、この人たちと仲良くなるの厳しそう?
いよいよ鬱陶しがられる感じはしながらも、ダメ元で「お兄さんたちめちゃくちゃかっこいいですよね」って話しかけたら、黒髪イケメンがまた愛想笑いを見せてくれながら「だってよ、良かったな」って茶髪イケメンを見て言いながらパクッとカツを口に入れた。
しかしそんな黒髪イケメンの言葉にも無反応な茶髪イケメンは、横目でじろっとあたしを睨みつけながらパクッとサラダを口に入れる。……ねえ、さすがに無愛想すぎない?あたし学食まで案内してあげたんだからもうちょっと優しくしてくれてもいいのに。
結局少しもあたしの声に反応してくれない茶髪イケメンは、カツカレーをもぐもぐ食べている黒髪イケメンに「美味い?」って話しかけている。
「うん、結構美味い。これ500円ならかなり安いな。」
「カレー俺の大学かどっちが美味い?」
「んー、お前んとこの学食クソうめえしさすがにあそこには負けるかも。」
「おー、やった。」
友達との会話には普通に笑って話している茶髪イケメン。これは彼女持ち確定だなぁ。まあ仕方ない。さすがにレベルが高過ぎる。でもどこの大学なんだろう?
さすがにまた口を挟んだら次こそ本気で鬱陶しがられそうで、あたしは大人しく会話に耳を澄ませながら今日二度目のオムライスを食べることにした。
「今三限の時間だよな。あと何分で終わるだろ?」
「さっき一応りなにラインしといたけど三限までとしか聞いてなかったからなぁ。」
「お前がいきなりりなちゃんの大学行くとか言い出すからりなちゃんすげえびっくりしてんじゃねえの?」
「だって今日逃したら航とタイミング合う日もう無いかもしんねえだろ。」
「まあそうだけど。教授が胃腸炎で休講になったんだっけ?胃腸炎ってどんなの?辛いの?」
「胃腸炎辛いだろ。お腹ピーピーのゲロゲロだぞ。」
「うわ、そりゃ辛いわ。お大事に。」
ご飯中に『お腹ピーピーのゲロゲロ』……なんて話をしているイケメン二人の会話だが、そんな会話はどうでもよくて、会話の途中で不意に出てきた女の名前に、あたしと友達は少し目を見開きながらアイコンタクトを取った。
『さっき一応りなにラインしといたけど三限までとしか聞いてなかったからなぁ。』
『お前がいきなりりなちゃんの大学行くとか言い出すからりなちゃんすげえびっくりしてんじゃねえの?』
………さっき『りな』って言ったよね?まさか違うよね?あのりなのことじゃないよね?……え、まさかりながこのイケメンの彼女とか言わないよね?あの子彼氏居ないって言ってたもんね?
さすがに偶然だよね、って友達に話しかけたくて「違うよね」って小声で話しかけると、友達は「さすがにね」って小声で返事をしながら頷く。
あの子の彼氏にしては大人っぽいし、ちょっと釣り合わないでしょ。って自分の中で勝手にそう納得させる。でももしあのりなの彼氏がこの人だったら腹が立ってしょうがない。あたしたちには『彼氏いない』って言ってたくせに、それも嘘だったわけだ。
猫被るし、嘘もつくし、やっぱ性格悪すぎじゃない?
「ところでりなちゃんあれから友達できたんかな?あの噂の性悪女どもとは縁切ったんだろ?」
「うん、やのとまくんがいるからべつに無理して友達作らなくていいやっつってた。でもそしたら今度はやのとまくんの愚痴たまに言ってくるようになったんだけど。なんかデリカシーがないらしい。」
「ぶはっ!!ウケる、どういう話でデリカシーないとか思うわけ?」
「いきなり頭に手置かれて『アホ毛立ちまくってる』って言われたらしい。」
「アホ毛!?ぶはははっ!!!それあの子絶対良かれと思って言ってるって!!」
「うん、俺もそう思って一応やのとまくんの擁護したけど『アホ毛じゃなくて静電気!』ってキレまくってた。」
『ところでりなちゃんあれから友達できたんかな?あの噂の性悪女どもとは縁切ったんだろ?』
『やのとまくんがいるからべつに無理して友達作らなくていいや』
『“性悪女ども”』
『やのとまくん』
………え、やばい。
絶対これあのりなの話で、
………“性悪女”は多分あたしたちのことだ。
あたしは今日二回目のオムライスを満腹で吐きそうになって食べながら友達と目を合わせる。
これは、ひょっとしたら最悪な状況かもしれない。あたしたちは、早くここから立ち去った方が良いのかも。もしかしたらこのイケメンがやっぱりりなの彼氏かもしれなくて、ここで待ち合わせしてるのかも。
けれどオムライスはまだ半分以上残っている。ここで不自然に席を立つことはできない。
どうしよう…、と思いながらも、必死にオムライスを口の中に詰め込んでいたら、あっという間に時間が過ぎていってしまった。
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