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大学の教室の前方、出入り口に近い席に、周囲から可愛い可愛い、イケメンイケメンとよく騒がれているりなと冬真くんが座っている。二人は大学に入学してから知り合ったらしいのに、今ではもうすっかり仲良く行動を共にしていてムカつく。そんな二人を視界に入れると、いちいちイラついてしょうがない。

少し前まではあたしたちとも仲良くしていたりなは、あっさりとあたしたちから離れていった。知り合った頃から憎たらしく思っていたりなに感じ悪くし過ぎてしまった事を、今更かなり後悔している。もう少し上手く接していれば良かった。

興味本位で見てみたかったりなのお兄さんに会えた時には、ひどく思った。もっとりなと上手く接しておけば良かったと。そしたら、もしかしたらあのお兄さんと今頃仲良くなれてたかもしれないのに。


『だっておめえらりなのこと相当ディスってたらしいじゃん。裏でお兄さんもクソだったとか言われたら癪だからよぉ。先に言っといてやってんだよ。』


お兄さんに会ったあの日、そう言われながら鋭い目付きで睨まれた時、りなの目と少し重なった。あの子はもっと気が弱そうで大人しそうな子かと思ってたけど、とんだ思い違いをしていたのかもしれない。


『…うわ、心当たりあるっちゃあるけど…。え、うわ最悪…、まじでりとなにやってんの?余計なことすんなよ?そいつらりなのこと裏で悪口言いまくってるからもう仲良くしてないし、あんたも話のネタにされるだけだから喋んない方がいいよ。』


お兄さんと電話で話しているりなの声は、普段の話し方と全然違って冷たくて淡々としていた。その時に気付いた。…あ、あの子ずっと猫被ってたんだな、って。

せっかくグループに入れてあげたのに、こんなにあっさり抜けていくタイプだとは思わなかった。もっと胡麻をすってでもあたしたちのグループに馴染もうとしてくると思ってたけど、見た目によらず結構サバサバしてる女のようだ。そうと分かってたら、もっと接し方を変えたのに。

一緒に連んでる子たちは、りなのお兄さんに会った日以来りなの話題を口にしなくなった。


『裏でコソコソきっもちわりぃ。圭介とまでわざわざ繋がって、そんなにりなの兄がどんな奴か気になったか?』

『人の悪口ばっか言ってるくせに、表で良い顔してる女って俺いっちばん嫌いなんだよなぁ。』


あの人に言われた言葉が結構効いたようで、りなの話題を口にしても一切乗ってこなくなり、あたしはモヤモヤする日々。

あたしたちは元々高校の頃から連んでた四人だったけど、あの日からなんとなくあたしたちの仲まで少し微妙な感じになっている。

男友達から合コンの誘いを受けたからいつものように三人に誘ったのに、二人から断られてしまった。その二人は、最近妙に二人でコソコソ喋っている。何を喋ってるのか聞いても『別に』と首を振られ、ちょっと感じ悪い。


「なんか最近アヤとサユ感じ悪くない?」

「うん、そういやこの前『りなに話しかけてみる?』とか喋ってたよ。」

「はぁ?まじ?なに考えてんの?」

「さぁ。お兄さんがタイプだったからまたりなと仲良くしてお兄さんに近付こうとか思ってるんじゃない?」

「うわ〜、うっざ。なにそれ。」


あたしはもう一人の友人とそんな話を口にしてたらだんだんムカムカしてしまい、二人に素っ気なく接しているうちにいつの間にかあたしたち四人は仲間割れしていた。

昼休みになったらアヤとサユは『今日は外で食べてくる』とか言ってそそくさとあたしたちから離れていき、ムカムカやイラつきが治らなくなる。学食でお昼ご飯を食べながら、アヤとサユの愚痴も止まらない。

そういや高校の頃からあの二人は人に合わせて動くタイプだった。あたしが言ったことにはすぐ同意したり、話にも乗っかってくれる。だからりなの事を『顔は可愛いけど雰囲気なんか幼稚っぽいよね』って言ったら、クスクスと笑いながら頷いていた。

よく考えてみたら、高校の時からあたしの言うことに同意はしてくるけど、本音はどう思ってたのかなんてまったく分からない。もしかしたらあたしの男の繋がり目当てで仲良くしていただけなのかもしれない。

そんなことを考え出したらずっとムカムカとイライラと愚痴が止まらなくなってしまい、午後の講義はもうサボることにした。どうせ嫌いな教授の講義だったし。


昼休みはとっくに終わっておりガランとした学食を出て、あたしと友人は二人で外に遊びに行こうと大学構内の出口へと向かうことにする。


「どこ行く?ストレス発散しにカラオケでも行く?買い物も良いかも。」

「そうだね。」


そう話しながら階段を降りていた時だった。前の通路をとんでもないくらいのイケメン二人組が歩いているのを目にする。初めて見る顔だ。……ここの大学の人?


「ねえ見た?今の二人組やばくない?」

「見た…!ここの大学あんなかっこいい人居たんだ?」


あたしたちは無意識に、通路を歩いていったイケメン二人組のあとを追うと、二人は何か探しているのかキョロキョロと辺りを見渡していた。


「大学の案内図とかねえの?」

「あー…。入り口通った時見ときゃ良かったな。」


ここの大学の人ではないのかな?『何かお探しですか?』って話しかけてみようか。こんなイケメンに出会えるチャンスはそう無いから絶対に逃したくない。


あたしは二人の背後から「何かお探しですか?」って声を掛けたら、二人は同時に振り向いてきた。……うわっ、正面から見たらまじでやばくない?二人とも超かっこいいんだけど…。


「ん?…あ、学食ってどこにあります?」


あたしの問いかけに答えてくれたのは黒髪のイケメンだった。同い年くらいかな?歳は近そう。大学生かな?かなりモテそう。でもその隣にいるイケメンはもっとモテそうなくらい顔が整っていて緊張して目も合わせられない。目も鼻も口も、パーツ全部整ってる。

染めているのか地毛なのか、綺麗な焦茶色の髪にスラッとした高身長。それに服もおしゃれでここまで見た目完璧な男の人は出会ったことがない。


名前聞きたい、あと絶対連絡先。何をしてる人なのかとか、どこの学校なのかとか。瞬時に頭の中でそう考えながら、あたしは咄嗟に「学食ならあたしたちも今から行くとこだったんです!」って口にしていた。

横で友人が小さく『えっ』って声に出して驚いてたけど、「案内しますよー」ってあたしは彼らの前を行き、学食へと歩き出す。


「おぉ、案内してくれるって。」


黒髪イケメンはあたしの言葉にそう反応してくれるけど、このとんでもないイケメンは少し無愛想な感じで、黙って頷くだけだった。

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