6 るい [ 121/168 ]

ここ最近、グループワークのプレゼン資料の作成や準備のためにかなりの時間をもってかれる。幸いグループは仁とも同じだが、まったく接点の無かった女の子三人とも組むことになり、いろいろと気を使うことが多い。

グループに一台パソコンが必要だが、仁は重いからと言ってパソコンを持ち歩かないし、女の子たちはパワーポイントがそこまで得意では無いと言うし、本来ならみんなが手分けしてやるべき事かもしれないが面倒なのでさっさと自分のパソコンで大体のプレゼン資料を一人で作ってしまった。

大学終わりにグループで集まり、プレゼン資料を見せて変更箇所などがないか一応確認してもらうが、まあ多分ないだろうな。資料の出来は完璧だと内心自画自賛している。


『矢田くんすご〜い!』なんてグループの人たちからやたら褒められてしまったが、俺はべつに褒められたいから一人でさっさと資料を作成したのではない。単にみんなで分担しながら進めていたら逆になかなか終わりそうになくて焦ったからだ。

グループが決まってすぐの頃、『ねえねえ、明日あたしの家に集まって話し合いしない?』なんて提案されてしまい、こりゃイカンと思ってしまったのが始まりだ。俺はグループの人たちと“馴れ合い”をする気はまったくない。何故わざわざ家に集まる必要がある、大学のカフェとかで十分だろ。

しかし話し合いを避けることはどうしてもできないため、大学帰りにグループの人たちとファミレスに寄って発表の打ち合わせなどをする事もしばしば。

そんな打ち合わせの最中、俺の隣に座っていた仁がツンツンとスマホで俺の腕を突いてきた。横を向くと仁が俺にスマホ画面を見せてきており、そこには仁宛の航からのラインが表示されている。


【 俺のダーリン今なにしてる? 】


仁は俺に航からのメッセージを見せてきたあと、クスッと笑いながら【 真面目に話し合いしてますよ 】と送り返していた。

俺にはなんにも送ってこないくせに、仁にはそんな確認してるなんて。…って、なんかちょっと微妙な気持ち。心配しなくても俺はグループの女の子たちと馴れ合いをする気はないのにな。

でもその日俺が家に帰ると航の方から妙に積極的にセックスのお誘いをしてくれるから、俺が女の子と関わりを持つことでこんなに分かりやすく女の子に嫉妬するような態度を見せてくれるんだったら、グループワークも案外悪くないな。なんて思ってしまった。

ちょっと前までは週に一回できていたらまだ良い方だったセックス頻度が、今週はすでに二回目だ。おかげさまで身も心も絶好調。

いつも俺の方から航を求めてばかりだったけど、やっぱり好きな人には自分と同じくらい求められたい。だからこれは良い機会だな、と思い、航の方から誘ってくれることが増えた今、俺はできるだけ自分からは航に触れないように我慢してみることにした。



休日の朝ではあったが日曜日、いつも通りの時間に目が覚めて起床すると、航はまだすやすやと眠っている。寝顔が可愛い。ちょっとよだれ垂れてる。親指でグイッと航の口元についたよだれを拭ったら、航は「んぅ…」と声を漏らし、起こしかけてしまったようだ。しかし構わず俺は布団から抜け出して洗面所へ向かった。

背後から「るい…?」って俺を呼ぶ航の声が聞こえてきたが、聞こえていないフリをしてしまった。振り向いたらすぐ航を抱きしめに戻っちゃいそうな気がしたから。


顔を洗い、歯磨きを済ませてから再び寝室を覗いてみると、一応目覚めているらしい航は暑そうに布団を身体から剥がして、ポリポリと腹を掻きながらスマホを見ている。

俺がこの前買ってきた甚平パジャマがよく似合っている。でも腹の部分の生地が捲れ上がっていて細い腰が丸見えなので、早くもその細い腰に触れて抱き寄せたくなってきてしまったので目に毒だ。…いや、毒っていう言い方はよくない。蜜とでも言っておこう。目に蜜だ。


俺の視線に気付いた航はムッと顔を顰めて「まだ7時じゃねえか」って不満そうに口を開いた。そうだよ、まだ7時だよ。もうちょっと寝てたかった?でも俺は航くんと朝活したいんだけどな。できれば航くんからのお誘いで。

でも航はなんとなくそんな気分じゃなさそうだし、諦めて「ごめんごめん」って起こしたことを謝ってから寝室のドアを閉めた。

せっかく早起きしたし、コーヒーでも飲みながら来週末提出の課題でもやろうかな、とパソコンを用意してコーヒーを淹れる準備をしていたら、洗面所の方から扉を開け閉めする音や水が流れる音が聞こえてきた。……ん?航も起きたのかな?


それから五分後くらいにまだかなり眠そうな航が大あくびをしながらリビングに姿を見せる。やっぱり甚平パジャマがよく似合っている。可愛いなぁ。早く航くんに浴衣も着せてえっちしたい。

可愛い航くんを見ているだけで顔がにやけて、にやにやしながら「おはよう」って声を掛けるが、航に触れるのと、キスは我慢。するとそんな俺に航はムッとした顔を向けてくるだけで、挨拶は返してくれなかった。

え?朝早くに起こしちゃったから機嫌悪い?
放っておいたらそのうち機嫌戻るかな?

無言でソファーの方に行ってしまった航はテレビをつけて、ゴロンとソファーの上に横になる。

まあとりあえず放っておこう…と俺は今自分から航に触れる事を我慢中の身なので、気にせず台所でカップにコーヒーを注いでいたら、航は何故か怒り口調で「るい、そういうの要らねえから」って文句っぽいことを言ってきた。


「…ん?そういうの?」


俺は真面目に航が何に対して怒っているのか分からなかった。休日なのに朝7時に起こしたことは悪かったと思う。だからすでに謝罪済みだ。しかし航は何故かまだ怒っている。俺が航に悪いことをした自覚なんて、それ以外はまったく見当もつかないのに。

慌てて航の元へ向かい、「ごめん俺何かした?」って問いかけたら、航はムッとした顔で「何かした」って答えた。


「えぇ?何?」

「ほんとに何かわかんねえの?」

「うん、ほんとにわかんねえ。」


考えてもまったく思い付かないため、正直にそう返したら、俺はソファーから身体を起こした航にトン、と胸元を押されてリビングの絨毯の上に押し倒された。

そして航が俺の腰に跨がり、絨毯の上に両手をついてキスされる。


「ン…、ッ…!」


これは念願の航からのキスだったが、航は俺の口内に舌をねじ込ませ、巧みに俺の舌を絡め取られてしまった。確かに俺は航からキスされたかったし、触れられたかったけど、これはなんか俺が求めていた感じと違う。

そしてさらに航は俺の顎を掴み、深く、激しいキスを続けてきた。


「ちょ、…っ!…わ、…たるっ!」


俺は航の胸元に触れ、できるだけやんわり航を引き離そうとしたら、航はそこでキスを止め、ペロッと舌で自分の唇を舐めながらニタリと笑って俺を見下ろす。

一瞬航が俺に対して変な気を起こしてしまったのかとドキドキしてしまったが、ひとまず口を解放してもらえて安心する。

しかし航はニタリと笑ったまま俺が着ているシャツの中に手を突っ込んで、直に胸元に触れてきたため、また変にドキドキしてしまい慌てて身体を起こした。


「おい!航くん!?ちょっとなに!?」

「え?いやだってるいが俺から触られ待ちしてそうだったから。」

「いやいや、してたけども!!こういうのじゃねえよ、分かるだろ!」

「え?こういうのじゃない?じゃあどういうの?」


これは多分分かってて聞いてるな。なんかだんだんからかわれてる気がしてきた。


「もっとこう、ほら、『…抱いて?』みたいな。あ、この前のゴム咥えて待っててくれてたの、あれ超良かった。」


さっき航に『そういうの要らねえから』って言われたけど、このやり取りから察すると多分“そういう”のっていうのは俺が航からの触られ待ちしてたことだなって理解した。しかしそうは言っても、俺だって航からもっと求められたい。

だから俺の理想の求められ方を口に出したら、航は「まあお前の考えてることは大体分かってるけど」って言ってクスッと笑ってくる。

そして今度はそっと俺の身体に腕を回して、抱きついてきてくれた航が、俺の耳元で俺のお望みの言葉をくれるように「るい抱いて」って囁いてきた。

なんか航にしてやられた感をかなり感じるものの、俺は甘くて大人な航の声に興奮してしまい、居ても立っても居られなくなる。


「え?真面目に言ってる?それなら今から本気で抱くけど。三回くらい。」

「三回できるかは置いといていいよ、やったげる。その代わり次から分かりやすく触られ待ちみたいな態度取るのやめて。普通に触ってきて。」

「でも航、俺から触りまくったら鬱陶しそうな顔すんじゃん。」

「“触りまくったら”だろ。限度ってもんがあるだろーが。一回や二回チュッチュされる程度だったら俺だって嫌がんねえよ。」


……まあ確かに、しつこいくらいべたべたひっついて、キスしてしまくってしまう自分の行動は自覚している。やや反省しながら「気を付けます」って言ったら、航はまたクスッと笑って、「まあ俺が鬱陶しがったらすぐスパッとやめてくれたらそれでいいよ」って言ってくれた。


航くん優しい。じゃあ航が鬱陶しがらなかったらずっと続けて良いんだな、って今度は張り切って自分から航にキスをしに行く。舌を絡めて、弄るように両手で航の身体に触れる。


「ン…っ、…るい待って、ベッド行こ。」


少し掠れた航の声にそう言われ、航を抱っこして寝室に移動する。またベッドの上でキスをすると、航の方から積極的に舌を絡めてくれる。気持ち良い。……航っていつからこんなにキス上手くなったの?

毎日のようにキスしてたのに、…いや、毎日してたから余計に気付かなかったのか、雰囲気とかだけじゃなく、キスやそれ以外でも、航はどんどん物凄いスピードで大人になっていく。だから俺は、ちょっと焦る。


キスをしながら航は甚平パジャマの紐を解き、はらりと素肌を露わにする。…あぁ、俺が解こうとしてたのにな…なんて考えている暇もなく、航は俺のパンツの中に手を入れ、中のモノに触れてきたため、負けじと俺も両手で航の身体を弄った。


付き合いたての頃の航くんはあんなにウブだったのになぁ…って、俺はふとあの頃を思い出し、懐かしくなる。


確か四年前の今くらいの時期に、航との付き合いが始まった。日付まではっきり覚えていなかったのは、あの頃の俺の失敗だったな。大事な航との記念日なのに。


でもまあ、日付は覚えてなくても思い出が一生俺の心に残り続けてるから良いけどね。来年になってもまたこの時期になると思い出すだろうし。……って、航の身体を抱きながら、俺の心の中には懐かしい航との思い出で溢れていた。


変わりゆく彼らの様子 るい編おわり


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