3 晃 [ 118/168 ]

大学内にあるテーブルと椅子が置かれた休憩場所で、空き時間の暇でも潰しているのか航となっちくんがお菓子を食べながらだらだらと二人で過ごしている姿を発見した。

僕はなっちくんの背後から忍び寄り、脅かそうとしたが、なっちくんの呟きが聞こえてしまいすんでのところで足を止める。


「あぁ〜……えっちしたい。」


なっちくんは僕の存在にまったく気付くことはないものの、航は僕に気付き、無言でチラッと目線だけ動かして僕を見上げてきた。


「すっげ〜激しいやつ。奥ガンガン突かれまくって精液全部出し切るくらいの激しいやつヤられたい。」

「おい、後ろで可愛い子が聞いてるぞ。」

「えっ…!?」


なっちくんの聞いちゃいけないようなぼやきを聞いてしまった僕はなんとも言えない表情でなっちくんの背後に立っていたが、航の一言でなっちくんは焦りながら振り向いてきた。

え?可愛い子って僕の事?やったー!航やっぱり大好き!…あ、でももう深い意味はないけどね。


「あっ…、なんだ焦った〜晃か。……いや、よくは無い。俺今なんて言ってた?」

「奥ガンガン突かれまくって精液全部出し切るくらい激しいやつヤられたい。」

「おい〜、全部リピートすんなよ、恥ずいだろ。」

「自分が聞いてきたんだろ。お前えぐいぼやきすんのは良いけど周り気ぃつけろよ。」

「誰も居ないのかと思ってたからつい…。」

「聞かれたのがアキちゃんで良かったな。」

「うん。」


なっちくんが二つ年下の高校時代の後輩と付き合ってることは知っている。僕も何度か会ったことあって知ってる人だ。なっちくんからあんまり深い話までは聞いたことはなかったけど、このぼやきから考えるとその後輩とは普通にセックスしているんだろう。僕は恋人とそういうことできるのが羨ましくてしょうがない。

せっかくの機会だからと、僕は暇そうなこの二人の会話に加わろうとなっちくんの横にある空席に腰掛けた。


「アキちゃん一人?慎くんは?」

「慎くん今日はもうバイトあるから帰ったよ。」

「あ、そうなんだ。」

「航となっちくんは何やってんの?まだ講義残ってるの?」

「ううん、帰るのなんか面倒だし暇だから駄弁ってた。このあと飯食いに行くかって話してたけどアキちゃんも来る?」

「え?いいの?行きたい。」

「いいよ。当たり前だろ。そのかわりなっちくんの惚気話が結構えぐいけどな。」


大学が終わった後にただこの場でのんびりだらだらと過ごしていただけらしい航は、そう話しながら席から立ち上がり、ゴミ箱にお菓子のゴミを捨てに行く。航の発言に対してなっちくんは、「えぐくねえし」って言いながらちょっと恥ずかしそうにしている。


「なっちくんってあんまり下ネタ言うイメージ無かったからなんか意外。」

「…え、…そう?結構言ってるけど…。」

「なっちくん最近ドスケベが隠しきれなくなってるからな。まさかなっちくんがあの肉食系雄飛を超える肉食系だとは思わなかったわ。」


航のその発言にはもう何も言い返せなくなったのか、なっちくんは真っ赤な顔をしてチョコ菓子をもぐもぐと食べていた。


「いいなぁ…、僕もそろそろしてみたいんだよね…。」


航となっちくんの会話が途切れた時、僕は自分の話を口にした。勿論したい相手は僕の恋人の慎くんだ。この二人もそれは知っている。


僕のぼやきを聞いた航はジッと無言で僕を見つめてきたあとに、「誘えば?」って徐に口を開いた。


「結構それらしい空気は出してるんだけどね。お酒とか飲んでキスしたりして。…でもどう頑張ってもキス止まりなんだよ。」


そろそろ我慢の限界で、航には申し訳ないけど矢田くんにでも相談してみようかな?って考えていたところだった。だってこんな話をこの二人に聞いてもらうのはちょっと恥ずかしい。

しかし話の流れで僕の悩みを口にすると、航が「慎くんさては奥手だな」って言い当ててきた。その通りだ。

僕の人生初めての恋人、慎くんは思った以上に奥手で、恥ずかしがりやで、キスしててもしかして今勃起してるんじゃ…?って思ってそういう雰囲気になるのを狙った時でも、しれっと立ち上がってトイレに逃げられたりする。

僕が勃起してたとしても気付かないフリをされているのか、ちょっと赤い顔をしながら逃げられる。

嫌がられてるわけではなさそうだけど、赤い顔をして逃げられるからもどかしい。でも僕には逃げてしまう慎くんにグイグイ迫る勇気はなかった。

元々ノンケの慎くんが男相手にそういうことをするのは抵抗があるのかもしれない…、とか考えてしまい、僕は慎くんに手を出すことができずにいる。



こんな話を大学でするのも気が引けて、僕たち三人は大学を出てカラオケに行くことにした。

カラオケ店内の個室に入ると、航がマイクを持って「あー、あー」と声を出してくる。


「とりあえず一曲歌っとくかー」って航が適当にお気に入りの曲を入れて歌い始める。航が歌っているあいだなっちくんもマイクを持って合いの手の部分を歌っており、この二人の空気は昔から全然変わらないなーと僕は懐かしい気持ちで二人のことを眺めていた。


二、三曲歌い終えると「腹減ってきたな」って言いながら適当に食べ物を頼み始める。


「酒飲む?」

「酒あんの?」

「うん、ある。」

「じゃあ飲む。ビール。」


緩すぎる雰囲気で航となっちくんはお酒も頼み始めたから僕も一緒に注文してもらい、少し早めの夕飯タイムだ。


「居酒屋行った方がよかったかな。べつにそんな歌う気ねえし。」

「いいじゃん、寝転べるし。」


歌う気もないのにダラダラしたいだけでカラオケに来たようななっちくんは、靴を脱いでソファーの上で寝転び始めた。


「二人は大人になったようで、実はあんまり中身は変わってないねぇ。」

「いやいや、だいぶ大人になったって。俺は。なっちくんはそうでもないけど。」

「はぁ〜?俺だって大人になったわ〜!」


航に『そうでもない』とか言われてるなっちくんはちょっとムッとしながら言い返してるけど、航に「まぁソッチ方面はかなり大人になったけど」って若干からかうようにボソッと言われている。

しかしなっちくんには聞こえていなかったのか「お酒もギリ二杯くらいは飲めるようになったし」って言いながらタッチパネルをいじって遊んでいた。


その後注文した飲み物や食べ物が届き、飲み食いしながら話題は先程中途半端なところで終わった下ネタに移る。


再びその話題が始まったのは、「慎くんが奥手ならアキちゃんが肉食系になるしかねえな」って言ってきた航の発言からだった。


「え?晃が慎くんを抱くの?」

「あほか、違うに決まってんだろ。」

「うわ、航にあほって言われた…。」

「なっちくんのようにガツガツいけってことだよ。」


航に『なっちくんのように』と例えられたなっちくんは、また言い返せなかったようで恥ずかしそうに口を閉ざした。どうやらなっちくんは今恋人相手に相当ガツガツいっているようだ。なっちくんの恋人ってかなりヤンキーっぽくて怖い感じの人だったはずだけどすごいなぁ…という目で僕はなっちくんに目を向ける。

僕がそんなふうにガツガツいって慎くんに嫌がられないだろうか。心配だ。


「……でも慎くんは僕とそういうことしたいとかは思ってないかも。」


ここで僕は今思っていることを口に出すと、航は「ん〜。」と返事を考えてくれているような声を漏らす。

そして、「したくないってことはないんじゃねえの?」って言ってグビッと一口ビールを飲んだ。良い飲みっぷりだなぁ。やっぱり航はここ数年でかなり大人な雰囲気になった。


「そこ心配してんだったらさ、一回はっきり聞いてみれば?『僕とするの嫌?』って。それでもし嫌って言われたらまた俺たちで会議開こう。」

「ふふっ、会議開いてくれるの?」

「おう、次はるいも呼んで考えよう。」

「え?じゃあ雄飛も呼ぶ??」

「いや、遠慮しとくわ。」

「はぁ!?なんでだよ!!」

「お前ただ雄飛といちゃつきたいだけじゃん。」


その日僕は、高一からの友人航となっちくんに、昔から変わらないような雰囲気の中で、随分大人になった彼らに大人な相談話を聞いてもらった。

僕が慎くんにガツガツいったらどう思われてしまうか不安だから、まずは航が言うように、僕とするの嫌じゃないかそれとなく聞いてみようと思う。

僕と慎くんは随分スローペースで進む関係だけど、彼との関係を大事にしていきたいから、焦らず少しずつ頑張るよ。

そしてもしまた困った時には、航たちに相談してみようと思う。


変わりゆく彼らの様子 晃編おわり


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