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「で、そのイケメンってのはどこのどいつなんだ?」
りなちゃんがイケメンと手を繋いでいた疑惑も付き合ってんじゃね?とかいう憶測も全てりとくんのいい加減な発言だということは分かったが、まだるいお兄ちゃんの尋問は終わらなかった。
「どこのどいつって、まだ全然知らないよ。仲良くなったばっかだもん。」
「はっ?全然知らないやつと連んでんのかよ?」
「そうだよ?」
「男と二人で?」
「男って言ってもめっちゃ緩い感じの良い奴だからね。」
「そんなのまだ分かんねえよ?個室で二人きりとかになったらいきなり豹変するかもよ?」
妹を心配する兄心からからそんなことを口にするるいだが、りなちゃんは嫌そうな顰め面をるいに向けた。
「そんなのなんないし。お兄ちゃん会ったこともないくせにりなの友達のこと変なふうに言わないでよ。」
「でもまだ全然知らない奴なんだろ?あんま信用しすぎんなよ?」
「う〜!航くん〜!お兄ちゃんがウザい!!」
りなちゃんにくどくどと忠告しまくるるいお兄ちゃんから助けを求めるように俺はりなちゃんに声を掛けられるが、りなちゃんがるいをウザがる気持ちも分かるけど俺はるいがりなちゃんを心配する気持ちの方がよく分かる。
「こればっかりはなぁ…るいの意見に賛成だよ…りなちゃん…。最初は良い顔して近付いてくる男とかゴロゴロ居ると思うからね。」
可哀想だけど俺もるい寄りの意見を言ったところでムッと不機嫌そうな顔をするりなちゃんは、「やのとまはそんな変な男じゃないもん!!」と言って『ダン!』と机を叩いた。
俺もるいもるいママも、大人しくもぐもぐと焼き飯を食ってるりとくんも、その音に釣られて身体をビクッとさせながら驚く。
どうやら俺たちの心配の所為でりなちゃんを怒らせてしまったようだ。しかしはっきり分かったのが“まだ全然知らない”男なのに、もうすっかりりなちゃんはその男を信用してしまっているということ。
大丈夫なのか、りなちゃん…俺は余計に心配になってきてしまったぞ…。かと言って、りなちゃんが言うように会ったこともないやつにとやかく言われるのは嫌だろう。
そう思いながらりなちゃんの顔色を黙って窺っていたら、このピリついた空気の中で一人いつもの調子でゴクゴクとお茶を飲み、「はぁ〜」と息を吐いて『ガン』と音をさせながらコップを置いたりとくんが、ぺらっと口を挟んだ。
「兄貴そんなに心配するならいっぺん会ってくれば?やのとまに。あ、家呼ぶか?」
「は?あんた何言ってんの?」
これもまたりとくんの適当な感じの提案で、りとくんはどうでもよさそうに「クハハ」と笑いながら椅子から立ち上がり、冷蔵庫の中を覗いた。
「なんかまだ腹減ってんなぁ。ラーメンとかねえの?」
「うどんならあるけど。自分で作れば?」
りとくんはママにまだ何かご飯を作って欲しそうだけど追加は自分で作るよう促され、「チッ」と舌打ちをしながら冷蔵庫の中からスライスチーズを取り出して食べ始めた。
そんなので腹の足しになんのかよと思っていたら、ここでるいお兄ちゃんがさっきのりとくんの提案に「それもそうだな」と数秒遅れで頷く。
「りな、そのやのとまとかいう男呼び出せよ。俺もいっぺん会ってみるわ。」
るいお兄ちゃんの目は本気である。自分の可愛い可愛い妹を、変な男に近付かせるわけにはいかないのだ。
るいお兄ちゃんにギラギラとした鋭い目を向けられて、りなちゃんはたじたじになりながらスマホを手に取る。
「いいよ、分かったじゃあ声はかけてみるけど断られたらすぐ諦めてね。」
「うん。」
りなちゃんはよっぽどその男友達のことを信用しているようで、一度会わせたら納得してもらえるだろうとでも思ったのかあっさりるいの頼みに頷き、ぽちぽちとスマホで文字を打ち始めた。
「あ、もう返事返ってきた!暇だから飯行こーだって。りな今飯食べ終わったところなんですけど?どうする?」
「サイゼに呼び出そうぜ。ピザ食お、ピザ。」
「お前腹減ってるだけだろ。コンビニ行ってカップラーメンでも買ってこいよ。」
「んえ〜〜!マ〜ル〜ゲ〜リ〜タ食〜い〜た〜い〜〜ッ!!」
「ぶふ…っ」
こいつ笑かしに入ってんなぁ…。
まるで駄々っ子のようにマルゲリータマルゲリータと騒ぎ出したりとくんに諦めて、というか呆れて俺たちはるいたちの地元にあるファミレスに、りなちゃんの友達のやのとまとやらを呼び出すことになったのだった。
りなちゃんのその男友達はあっさりと【 オッケ〜!!暇してたからまじありがて〜〜 】と了承してくれたようだ。
そのラインのやり取りだけではそいつがどういう奴かなんてまったく想像もできず、やっぱり一度は会ってみないとどういう奴なのか分からない。
りとくんは家を出ると「久しぶりにチャリ乗ろ」とか言って一人さっさとママチャリに乗ってファミレスに向かっていった。自由人すぎてもう勝手にしとけって感じだ。
俺とるいでりなちゃんを真ん中に挟んで三人で並んで歩くが、今もまだるいとりなちゃんの間に流れている空気はピリついている。
るいはりなちゃんに「やのとまに変に威圧したような態度とか出さないでね」って忠告されているが、その忠告を「相手の出方による」と言って突き返した。
元々シスコンだとは思ってたけど、こりゃなかなか重度のシスコンだなぁ…と思いながら俺は黙って兄妹の会話を聞いていたら、「ね〜〜航くん!!」と俺に助けを求めるようにりなちゃんが俺の腕に抱きついて揺さぶってくる。いつものるいなら俺とりなちゃんの間を割って入ってきそうだけど、るいはツンとした顔をして何も言わずに歩いているだけだった。
るいって結構頑固なとこあるからな。
るいが相手のことを何も知らない今の状況では、るいの頭にあるのはただ“りなちゃんのことが心配”って気持ちだけなんだろう。
ピリついた空気の中数十分歩いてファミレスに到着すると、すでに自転車を停めてりとくんがファミレスの入り口で突っ立っていた。
「おせーよなにちんたら歩いてんだよ。」
「うるせーよ早く中入れよ。」
自分が勝手に先にチャリ乗って行ったくせに文句を言ってきたりとくんは、不機嫌なるいお兄ちゃんに言い返されて『ドン!』と背中を突き飛ばされている。ファミレスで兄弟喧嘩すな。
店内に足を踏み入れると店員さんがすぐにテーブルへ案内してくれるが、るいが「あとから一人来ます」と伝えると店員さんは六人用テーブルに案内してくれた。
奥のソファー席にりとくんがさっさと座ると、るいは顎で俺をりとくんの隣に行くよう促してきた。非常に珍しいパターンだが言われた通りにりとくんの隣に腰を下ろすと、りなちゃんをりとくんの前に、るいが俺の前に腰を下ろす。
さっき焼き飯を食べたばかりだからお腹は全然空いてねえけど、何か頼まないといけないため俺はドリンクバーとデザートを頼む。りとくんは迷うことなくさっき騒がしく食べたがっていたマルゲリータを頼み、りなちゃんはポテト。
るいは何を頼むのかと思ったら、りとくんと同じマルゲリータを頼んでおりちょっと笑えてしまった。兄弟で同じ腹の構造してそうだ。
「兄貴ピザ丸一枚食べれんの?」
「いける。まだ微妙に腹減ってる。」
「お前ら身長でけえけどそろそろ横にもでっかくなんねえように気ぃつけろよ。」
「それ拓也も言ってた。あいつ太るの気にして最近ラジオ体操した後筋トレもちょっとだけしてるらしい。」
「えら。お前も一緒にやらせてもらえよ。」
「俺70キロ超えたらダイエット考えるわ。」
「今何キロ?」
「知らね。」
「は?そこはちゃんと知っとけよ。」
どうでもよすぎる体重の話をする俺たちにりなちゃんはつまらなくなってしまったのか、一人さっさとドリンクバーへジュースを取りに行っていた。
「おいるい、りなちゃん完全にご機嫌ななめじゃねえか。あとでちゃんとご機嫌取りしてやれよ。」
こそっとるいにそう言ってみるものの、今はるいもご機嫌ななめなのでツンとした顔でそっぽ向かれてしまった。
……後でこいつの機嫌取りも必要そうだ。
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