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俺は自分が頼んだデザートをさっさと食べ終わってしまったが食べ終わった頃にピザを食べるるいとりとくんを見ていたら美味しそうに見えてしまい、るいのピザを二切れほど貰って食べていた。
そんな時、りなちゃんが「あっ!やのとま来た!」って声を上げるからりなちゃんの視線の先を目で追うと、一人の男がスマホ片手にキョロキョロと辺りを見渡しながら店内を歩いている。
俺くらいか俺よりちょっと高いくらいの身長に、髪は意外と落ち着いた暗めの茶髪で耳が少し隠れる程度のさっぱりした短髪だった。仁をイメージしていたからもっとチャラチャラした奴が来るのかと思いきや、普通にかっこいい、ただのイケメンが来たって感じ。一見するとかなり好青年そうな見た目だけど、話すとどんな感じなんだろう。
「やのとまー!!」とりなちゃんがあだ名を呼ぶと、その人はより一層キョロキョロしながら犬みたいにその場で一回転した。
「「ぶはっ!!!」」
俺とりとくんの吹き出した声がかぶるが、るいお兄ちゃんは静かに頬杖をついて観察するようにその男を眺めている。
そしてやのとまとやらはりなちゃんが座る俺たちのテーブルを見つけると、目をギョッと見開きながらその場で固まった。明らかに驚いているやのとまくんを見て、俺はりなちゃんに「俺らが居る事言ってねえの?」と問いかける。
「うん。言ったら来たがらないと思って。」
そりゃそうだ。なにが楽しくてこんな怖いお兄さん二人が待ち構える場所に飯食いに行かなきゃならんのだ。りとくんはさておきるいはすでに威圧感バチバチ出まくってるし。しかし来てしまったからにはもう諦めてもらわねば。
おいでおいで、と俺もやのとまくんに向かって手招きすると、やのとまくんはキョドキョドしながらヨチヨチと短い歩幅で歩いてきた。まるで震える子鹿のようだ。
俺は一旦自分が座ってた席を立ち、やのとまくんをソファー席の真ん中に座らせた。つまりるいの真正面である。
「え…、と、あの、やだりなさん…?こちらの方々は…、あ、あなたはこの前のお兄さんですね…」
「やのとま急にごめんねー、上のお兄ちゃんもやのとまに会いたがっちゃってさぁ。」
『上のお兄ちゃん』と言ってりなちゃんに指を差されたるいは、ぶっきらぼうに「どうも」と軽く頭を下げた。
「えっ、…あっ!上のお兄さん!?すっげ、レベチ…!あっすませ…、レベチっすね!!」
「はい?」
「あっすんません…っ」
いきなり『レベチ』とか言われたるいは意味がわからなさそうに首を傾げるが、やのとまくんはるいの目が怖かったのかサッと目を逸らしてキョドキョドしながらりとくんの方を向いた。
「えっちょっとお兄さぁん…!なんですかこれ…!」
「腹減ってんだろ、まあまずはなんか頼めよ。」
「食欲どっか行っちゃいましたよ!」
りとくんとは一度会ったことがあるから普通に話せるようで、やのとまくんはグイグイとりとくんの方に詰めて座り、るいからの視線を避けている。
「もう!ほら、お兄ちゃん!!やのとまビビってるじゃん!!」
「はい?まだ何も言ってねえだろ。」
「お兄ちゃんの無表情が怖いんだよ!!」
りなちゃんにそう言われたるいは、わざとらしくニコッと笑ってやのとまくんの顔を見つめた。
「なんすかなんすかなんすか!!え〜!?」
しかしやのとまくんは早くもるいにビビり倒しており、りとくんに縋るようにくっつき始めたから「こっち迫ってくんな」と押し返されている。彼をど真ん中に座らせてしまったのはちょっと可哀想だったかもしれない。
「やのとまくん落ち着いて、今日はこのお兄さんが奢ってくれるからなんでも好きなもの食べるといいよ。」
「ふぇ〜…!?いいんすかぁ〜!?」
るいにビビり倒している所為でやのとまくんの声は震え、俺が差し出したメニュー表も震える手で受け取った。
「えっと、あなたは…?やだりな弟居るとか言ってたっけ…?」
「え、俺りなちゃんの弟に見えんの?まさかの?」
「つーことは俺の弟?やったな〜航。俺のことはりとお兄ちゃんって呼ばせてやるよ。」
まさか俺がりなちゃんの弟に見られるとは思わず軽く驚いていたら、調子良くりとくんも口を挟んでくる。
まあ自己紹介しなければ俺が誰なのかなんて分からなくて当然だから「このお兄ちゃんの友達だよ」ってるいを指差すと、やのとまくんは「あっ失礼しました…」と誤解したことを謝ってくれる。今のところほんとにただの良い奴そうな好青年だ。りなちゃんが彼を信用したがる気持ちも多少は分かるかもしれない。
「やのとまくんもピザ食べる?それともハンバーグ?ドリア?好きなのお食べ。」
「じゃ、じゃあハンバーグいっていいすか…!」
「どうぞー。店員さん呼んじゃうね。」
俺が彼に話しかけている間もずっとるいは頬杖を突きながらジッとやのとまくんの顔を見つめており、この静かに観察されてる感じが怖いんだろうなぁ…とやのとまくんに同情する。
注文したハンバーグを待っている間一瞬シーンと沈黙してしまったが、ここで初めてるいが自分からやのとまくんに声を掛けた。
「やのとまくんってモテそうだよね。」
「へッ…!…いやそれほどでもっ…!」
「女の子が放っておかないでしょ?」
どうやらるいの質問タイムが始まったようだ。このような質問から彼のことを分析してチャラい遊び人かどうかを見極めたいのだろう。
しかしやのとまくんは自分がるいに質問されてるのにキョロキョロと俺やりとくんの方に落ち着きなく視線を向け、「言われてますよ!お兄さんたち!」とトントン、トントンと俺とりとくんの肩を叩き始めた。
『いや、俺はおめえに聞いてんだよ。』って言いたげにちょっと顔を顰めるるいお兄ちゃん。りなちゃんはそんな光景を他人事のように眺めながらパクパクとポテトをつまんでいる。
「話ズラすの上手いね。実は女の子の知り合いいっぱい居るんじゃねえの?」
「えっ!?それ俺に言ってます!?こっちに言ってます!?」
「おめえだよ。」
「「ぶふっ…」」
さっきからずっとるいはキミに聞いてるよ。るいが今更俺とりとくんにそんな質問するわけねえだろ。この子ちょっとおバカさんなのかな?
あからさまに苛立った態度を見せ始めたるいに俺とりとくんは同時に吹き出してしまったが、彼は俺たちが一体何に笑っているのかまったく分かっていない様子で吹き出す俺とりとくんにキョロキョロと視線を向け続ける。
「ちなみにお兄さんレベルになると何人くらい居るんです?お兄さんたちの話聞いたあとじゃないと俺の話するのは恥ずかしいっすよ…!」
それはどういう意味で恥ずかしいなのか分からず一同首を傾げていたら、りなちゃんがやれやれ…と呆れ気味の態度で口を挟んだ。
「お兄ちゃん、やのとま男子校でしかもお兄ちゃんと同じ全寮制だったから女の子の知り合い全然居ないっぽいよ。」
え、そうなんだ。りなちゃんそれ先に言えよ。俺は一気に彼に親近感湧いたぞ。
しかしやのとまくんはその事を知られるのが恥ずかしかったのか「シーッ!」とりなちゃんに向かって人差し指を立てている。
「せっかくお兄さんモテそうって言ってくれてんのにそれ言うなよ!」ってなんか謎に悔しそうにしているやのとまくん。そこでるいは、初めてクスッと緩い笑みを見せた。
「……なんだよそれ。……なるほどな、確かに仁っぽいわ。」
クスクスと笑いながら一人そう納得しているるいに、やのとまくんは「うん?」と首を傾げる。
『確かに仁っぽい』……今るいが言うそれは多分、良い意味でだ。その証拠にるいは穏やかに笑ったまま、りなちゃんの頭にポンと手を置く。
「お兄ちゃん納得してくれた?」
「うん、ごめんごめん。」
よしよしと優しくりなちゃんの髪を撫でたるいに、やのとまくんはポカンと口を開けながらるいとりなちゃんを交互に眺めた。
「お〜、やっぱやだりな上のお兄ちゃんには懐いてんだな〜。」
うっかり下のお兄ちゃんの横でそんな言葉を漏らしたやのとまくんを、りとくんが無言でじろっと睨みつける。
「えっ…!あっ!すんません…!決して下のお兄さんと仲悪いんだなぁとか思ってるわけではなく…!」
……うわぁ、なんかこの子アレだな…、余計なこと口走るタイプ?りとくんまだ何も言ってねえのに一人で焦ってベラベラ言い訳しちゃってるよ。
実際やのとまくんと会って喋ってみると、チャラチャラ女遊びとかしてそうな感じはまったく無くて、分かったことは結構親近感のあるおバカな感じの男の子だったってことだ。あとなんか仁っぽい。
それがなによりるいが彼を信頼できる部分ではないだろうか。
その後運ばれてきたハンバーグを美味しそうに食べているやのとまくんを尻目に、るいはボソッと「りなに良い虫除けができたな」とか満足そうに言っている。
「ん?お兄ちゃんなんか言った?」
「ううん。りなデザート食べる?」
「食べる!」
あ、お兄ちゃん妹のご機嫌取り始めたぞ。
心配だったからとは言え、さっきは唯一のりなちゃんの大学の友達を疑うような態度取っちゃったもんなぁ。
俺もごめんねと心の中で謝りつつ、「りなちゃんなんか欲しいものある?俺が大学入学祝いに好きなもの買ってあげる」って、るいに続いてりなちゃんのご機嫌取りに加わった。
「え!?いいの!?」
俺の言葉に嬉しそうな表情を見せてくれるりなちゃん。そんな俺とりなちゃんのやり取りを見ていたやのとまくんが、りとくんにコソコソと話しかける。
「ちょっ…!お兄さん!もしかしてここ二人良い感じだったりします?」
「んぁ?どこ二人?」
「ここ二人ですよ…!!」
俺とりなちゃんのやり取りに、やのとまくんが一人で勝手にそんな勘違いをしていたなんて、俺が気付くことは無かった。
後日談 るいお兄ちゃんの心配 おわり
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