11 [ 107/168 ]

今年のゴールデンウィークは俺もるいもお互いバイトが入ってたりで入れ違いが多く、二人でどこかに出掛けたりすることはなかったが、五月に入ってからのゴールデンウィーク終盤、るいが実家に帰りたいと言い出して久しぶりに俺も一緒に矢田家にお邪魔することになった。

ちなみにるいお兄ちゃんには大学生になった可愛い妹に会いに行くためと、拓也ちゃんとの同居を始めて以降めんどくさがってなかなか実家に帰ろうとしない弟を連れて帰るという目的があるようだ。


当日の朝9時頃にりとくんを迎えに行くために拓也ちゃん宅の呼び鈴を鳴らすと、頭に寝癖をつけてオフモードの拓也ちゃんがドアを開けに来てくれた。完璧人間拓也ちゃんのこういう姿はかなりレアである。


「会長朝からお邪魔してすみません。りと起きてます?」

「あいつがこの時間起きてると思うか?」

「ですよねー知ってました。昨日俺が迎えに来るまでには起きとけってラインしといたんすけどね、あのあんぽんたんめ。……って、え!?……うわっ!りとが起きてる!!」


当然るいはりとくんがまだ布団ですやすや眠ってると思ってたんだろうけど、家の中に上がらせてもらって廊下を進むと、そこには台所にあるダイニングテーブルの椅子に腰掛けて食パンを齧ってるりとくんの姿があり、その姿を見て驚きまくるるいお兄ちゃん。

るいの発言に「あんぽんたん?」と寝起きの不機嫌そうな顔をしながら聞き返しているりとくんに拓也ちゃんは「ククッ」と笑っている。


「会長どういう技使ったんすか?休みのこの時間にりとが起きてるなんて…!」

「どういう技って、大袈裟だな。10分以内に起きたらパン焼いてやるとか言ったらこいつ割とすぐ起きるぞ?」

「それじゃあ会長のお手を煩わせてるじゃないですか!!お前会長がパン焼いてくれるからって甘えてんなよ!!」


拓也ちゃんの話を聞き、さっそくりとくんに小言を言い始めたるいにりとくんはかなり鬱陶しそうな顔をして無言で顔を顰めている。


「……あ、やべ。俺余計なこと言ったな。」


俺はそんな拓也ちゃんの独り言を耳にし、横から「相変わらず世話焼きですなぁ〜」と口を挟んだら、拓也ちゃんは何も言わずにちょっと苦笑いしていた。多分、自分でも世話焼きの自覚がかなりあるからだろう。


パンを食べ、コーヒーを飲み、だらだらと服を着替えて出掛ける支度をするりとくんを待っていたら早くも10時を過ぎてしまい、「お前ちんたらしてんなよ!」と言って弟をどつき回しているるいお兄ちゃん。りとくんはまだ眠いのかお兄ちゃんに殴られても嫌そうな顔をしているだけで何も言わずに大人しくしている。

そしてようやく出発の準備が整うと拓也ちゃんに「いってらっしゃい」と見送られ、俺とるいとりとくんは三人で家を出て、最寄駅から電車に乗って矢田家方面に向かった。


電車の中ではるいが「りなあれからずっと女の子の友達できてないらしい」と話し始め、りなちゃん話が始まった。るいからちらっと話は聞いていたが、大学に入学してすぐのりなちゃんは女子数人との関係に悩まされていたようだ。

あるよな〜人間関係うまくいかないこと。…って、俺も自分の大学入学直後のことを思い出す。もう縁切ったからどうでも良いけど、元同級生で友人だった昇に敵視されたり俺の事べらべら人に話されたりしててだるかったな。ああいう人間とは二度と出会いたくないものだ。今後は親しくできそうな人間をしっかり見極めて人間関係を築き上げていきたい。

俺が一人心ん中でそんなことを考えていた時、「でもあいつイケメン連れて楽しそうにやってたけどな」って唐突にりとくんがニヤッとしながら口を開き、そのりとくんの発言にるいが目を丸くしながら「は?」って素っ頓狂な声を上げた。


「なにそれ?俺初耳だぞ?」

「そういや兄貴に言おうと思ってたけどまだ言ってなかったっけ。俺のダチがりなと同じ大学行ってるから一回遊びに行った時に偶然見かけたんだけどよぉ。」

「は?聞いてねえよ。イケメンって誰だよ?」

「なんつってたっけ、…やのとま?すっげー親しそうだったしもうちゃっかり付き合ってたりしてな〜。俺が見た時もそういや手繋いでたかも。」

「はぁ!?お前嘘つくなよ、俺りなからそんなこと一言も聞いてねえから!!」

「兄貴に言ったらあれこれ聞かれて鬱陶しいから隠してるんじゃね?」

「鬱陶しい?何で鬱陶しいんだよ、俺べつにそんなあれこれ聞かねえよ。」


りとくんからりなちゃんに関する驚きの話を聞いてしまい、興奮気味になりちょっと早口になってるお兄ちゃん。

るいはもう今となっては『りなとの交際は会長しか認めません!』ってくらい、可愛い妹のお相手には口うるさそうだから、俺もりとくんの発言にはちょっと頷ける。


「ちなみにそいつどんな奴だった?チャラチャラしてる?」

「んー、どうだろうな。知人に例えるなら仁って感じ。」

「はっ!?仁!?おまっ…、それ一番ダメじゃねえか!!」

「ぶふっ…お前かなり酷いこと言ってるぞ。」


自分の親しい友人に例えられて『一番ダメ』だなんて。さすがに笑えてしまい、吹き出しながら横から口を挟んだら、るいは言い訳がましく「語弊!語弊!」と言ってきた。


「なにが語弊なんだよ。」

「仁のことをダメって言ってるんじゃなくてな?仁っぽい男ってダメじゃね?」


ふふっ……それもまだ結構酷いこと言ってるけどな。


「まあお前の言いたいことはなんとなく分かる気もするけど。あいつ古澤くんいるくせに『最近モテなくなった』とか嘆いてた事とかあったからな。……あ。」


…やべ、こんな話古澤くんと仲良いりとくんが聞いてるところでしない方がよかったかな。と言った後にもう遅いけどりとくんの方をチラ見しながら口を手で塞いだら、りとくんは俺の反応に何か察したのか「ククッ」と小さく笑っていた。


いきなり仁の話になってちょっと話が脱線しそうになったが、つまりるいが何を言いたいのかっていうと、可愛い可愛い妹にチャラい彼氏はお断りってことである。俺たちの友人仁くんはチャラい見た目をしていても決してチャラチャラ女遊びしたりしてるような男ではないけど、もしりなちゃんと親しくしてるその男がチャラい雰囲気の奴だったら、その見た目を裏切らずに遊びまくってるかもしんねえしな。

りなちゃんがチャラ男に引っかかってたら俺ですらなんかちょっと嫌だから、るいお兄ちゃんがりなちゃんを心配するのなんて当然だよな。


[*prev] [next#]

bookmarktop

- ナノ -