冬真の寂しい大学生活 [ 106/168 ]

大学の入学式帰り、珍しく俺のスマホに幼馴染みの方から電話がかかってきた。イヤホンを耳に付けてから電話に出ると、『もしもーし』と電話越しの聞き慣れない幼馴染み、想(そう)の低い声が聞こえてくる。

今までずっと通話なんてする必要もなく常に隣に居るのが当たり前のような存在だったから、こいつとの通話は変な気分だ。


『友達できたか?』

「一人できた。超可愛い女の子。」

『うわ、女かよ。』

「羨ましいだろ。」

『いや全然。』


冷めた返事をしてくる想の隣からクスッと笑い声も聞こえてくる。今日も恋人と一緒に仲良く過ごしているようだ。つーか二人でアパート借りてそっから大学通うことにしたんだっけ。いいなーあいつ、俺を置いて自分だけ楽しそうな生活送りやがって。俺は想と別々の進路になってちょっと寂しいのに。

でもまあ、べつにあいつらと一緒の大学行っても良かったけどそれもなんだかなーと思って自分で決めた進路だから、この寂しさには早く慣れなきゃいけない。ちなみに俺も大学の近くのアパートを借りて、人生初の一人暮らしを始めたばかりだ。心細くて泣いちゃいそう。


「その女の子と仲良くなるまで俺ずっとぼっちだったから一人寂しかったわー。」


想との通話中、入学初日が終わった後でホッと息を吐きながら口にしたぼやきに『まあお前ならすぐダチできるだろ』って、いつも俺には冷めた態度の幼馴染みがちょっと優しい声で言ってくれたから、なんか余計にしんみり寂しい気持ちになった。


帰宅後もずっと想との通話が続いてたけど、『ご飯できたよ』っていう想の恋人、咲田(さくた)くんの声が聞こえてきたあとに呆気なく『そんじゃまたな』って言われて通話を終えられてしまった。えー…もうちょっと喋ってたかったな。

…いいなぁ、ご飯作ってくれる人が居て。そして家に話し相手も居て羨ましい。あーあ、いいなぁー想いいなぁー!!俺もご飯作ってくれていつでも喋り相手してくれる可愛い恋人欲しいなぁ。



心細くて寂しい俺の大学生活はスタートしたが、唯一仲良くなれた女の子、やだりなのおかげでちょっとだけ楽しい大学生活になりつつある。やだりなは可愛い見た目でありながら気取らない性格をしていて親しみやすい。聞けば兄二人居るらしく、下のお兄さんと喧嘩しながら育ったからがさつで喧嘩っ早い性格になってしまったんだとか。

男女でありながら性別関係なくやだりなとは仲良くなり、大学帰りには二人でファーストフード店に寄り道したりするようにもなった。ポテトLサイズをひたすらもぐもぐ食べながら「バイトしたくないけど遊ぶお金は欲しいよね〜」とかぼやいている。「でも働くのだる〜無理〜」ってぼやく顔はそのぼやき通りだるそうなげんなりした顰め面だ。

この子は俺のことをちょっとでも恋愛対象に見てたりしねえのかな?俺はぶっちゃけちょっとは見てるぞ?

でも友達として仲良くしていきたい気持ちもあるから、あまりそういう目では見ないように我慢している。


「やだりなは気になる男居ねえの?」


モテるだろうし、きっと男に言い寄られる事も多いだろうと思い一度だけそんな話題を振ってみたら、元気良く「居る!」って答えられてしまった。なーんだ、居るんだ。地味にショック。


「お兄ちゃんの先輩なんだけどね、ガチかっこよくてやばい。写真見る?」


興奮気味にそう話すやだりなに、まだ『うん』とも言ってねえのにガチイケメンが写ったスマホ画面を見せられた。

「これお兄ちゃんが送ってくれた写真なんだけどやばくない!?」って喋りながらさらに興奮気味になっている。その写真はやだりなのお兄ちゃんが撮った写真なのか、イケメンが茶碗を持ってカメラ目線でご飯を食っている最中のものだった。まるで芸能人かと思うくらい顔面が整っている。すげえ、レベチじゃん。

…なるほどなぁ、そりゃこんなイケメンが身近に居たら俺の事なんてべつに興味持たねえよなぁ…って納得する。俺も想のように可愛い恋人が早く欲しいけど、しばらくはまだ無理そうだな…。


「お兄ちゃんがりなの二つ上だからこの人はそのもう一つ上で三歳差なんだよね。大人っぽい人だからりなが隣に並んだら自分が子供っぽすぎて嫌になる!」


そう話しながらポテトをもぐもぐと口の中に入れまくっているやだりなの姿は愛らしい。全然恋愛対象として見ていない俺の前でだからこんなにもぐもぐ大食いできるんだろうなぁと思うとかなり微妙な気分だ。でも俺がそんなこと考えてるなんてやだりなは少しも思ってないだろうから、俺が下心ある目でやだりなを見ているということは顔には出さないようにしたい。



こうして俺の大学生活は大体やだりなと過ごすようになったある日、講義が終わったあとにやだりなと一緒に出された課題をパソコンルームで終わらせてから帰ろうとしていた時の事だった。


「うわ、りと発見」


突然やだりなが大学内にあるカフェの前に立っている男を見ながらそんな声を漏らしている。


「おぉ、なんだよお前、友達いねーくせに男は居んのかよ。」

「違う!!普通に友達!!」


…え、…誰だ?友達?先輩?知り合いか?

喋りながら歩み寄ってきたその人も、先日やだりなに見せられた写真の人同様にかなりのイケメンで若干のショックを受ける。やだりなイケメンの知り合い多過ぎだろ…。自分が全然恋愛対象に見られないのも悔しいけど納得だ。こりゃやだりな相当理想高いだろうなぁ…という目で見てしまった。


「お前なにやってんの?」

「いやこっちのセリフだから。」


…ん?でもなんか仲は悪そう。やだりなイケメンのこと睨んでねえか?しかもちょっとキツめのヤンキーっぽい男なのにすげえな…と思いながらやだりなの横でボケーとしながらしばらく黙って会話を聞いていたら、突然そのキツめイケメンの視線が俺に突き刺さった。


「で、お前誰だよ。」

「え!あ、俺?俺は…、」

「ちょっとりと、あんたその態度失礼だからね。普通に友達だっつってるでしょ。やのとま、こいつはりなの二人居るうちの二番目のクソい方の兄。」


えっ!?兄!?やだりなの!?
このキツめイケメンが!?


「あっ、そうなんだ!はじめまして〜!」


おぉ…!なんだそっか、お兄さんだったんだ!!言われてみれば目元がかなり似ている。

この前レベチなイケメンの写真を見せられたばかりなのにまたレベチなイケメンを前にしてしまい、やだりなの知り合いイケメンばっかじゃねえか!と思っていたけど、兄と聞いて納得したと同時になんかちょっとホッとした。


この人がやだりなのお兄さんだと聞いて俺はすぐに挨拶をしたが、やだりなのお兄さんは俺を見ながら何故かニヤニヤし始める。


「はじめまして〜。…りなお前面食いだなぁ。」

「はぁ!?なにが!!」


……え!“面食い”!?それってつまり、このお兄さん俺のことかっこいいって言ってくれてる!?

俺はやだりなのお兄さんの言葉に急にテンションが上がってきた。そうだよ、レベチなイケメンの写真を見せられた後から自信を失ってたけど、俺だって一応今まで『イケメン』って言われながら生きてきたんだからな!自信持てよ俺!!


「兄貴に言っとこ〜、りながイケメンのダチ作って仲良さそうにしてた〜って。」


おお!!またお兄さん俺のこと『イケメン』って言ってくれたぞ!!嬉しい、レベチなお兄さんに言ってもらえるの超嬉しい。


「べつにイケメンだから仲良くなったわけではないけど!?ちょっと!そのムカつく顔やめろ!!」


お兄さんにそう言い返すやだりなの表情はちょっと赤くなっている。やだりなちょっと照れてる?お兄さんナイス過ぎる、もっと俺のことやだりなの前で褒めて。

しかしやだりなの反論に対し、お兄さんはずっとニヤニヤニヤニヤした目でやだりなのことを見ていたから、やだりなはそんなお兄さんの態度に怒り狂ったように「ムカつく!その顔やめろっつってんだろ!」と罵りまくっていてその後のやだりなの機嫌は最悪だった。そういや下の兄と喧嘩しまくりって言ってたもんなぁ…下の兄ってこの人かぁ。上の兄はどんな人なんだろ。


ふぅん、でもそっか、あの人がやだりなのお兄さんだったら、そりゃ恋愛対象もレベチなイケメンになっちゃうよなぁ〜…と思いながら、その日俺は帰宅中想に電話をかけた。


「あ、もしもし想〜?さっき可愛い友達のお兄さんに会ったんだけどさ、ガチなイケメンだったわ〜。あの子絶対イケメンの知り合いばっかだから俺のことまじでなんとも思ってなさそう。」

『へ〜ドンマイ。』

「おい!もうちょい俺の話を興味持ちながら聞けよ!!」

『そもそもその子気になる人すでに居るんだろ?だったら無理じゃん。』

「そっ、そうだけど…!!まだ分かんねえじゃん!?」


大学生活はやだりなが居るから寂しくはなくなったものの、一人暮らしでの寂しさは毎日想との通話で気を紛らわせている。話題はやだりなのことが実はちょっとだけ気になってるって話ばっか振ってみるけど、想は相変わらず冷めた態度で俺の恋愛話になんか興味を持ちやがらない。

それでも話し相手が欲しくて想に通話しまくる俺だけど、『想〜ご飯できたよ!』って咲田くんの声が聞こえてくると、寂しさと羨ましさがより一層増してしまうのだった。


クッソぉ…!!俺も可愛い恋人に『ご飯できたよ〜』って言ってもらいてえ!!!想ずるい、ああ羨ましい!

俺もご飯作ってくれる恋人欲しい!!!!!


…そういややだりなって料理できんのかな?

今度さりげなく聞いてみよっと。


番外編 冬真の寂しい大学生活 おわり

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