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【 圭介 】
唐突にスマホが振動し、画面に名前が表示されて圭介からの着信を知らせた。
「……はぁ。…なに?」
『あー!やっと電話出た。お前ライン見ろよ!いつ大学遊びに来んの?来るっつったよな?』
面倒だったがまあ暇だったから電話に出てやったものの、ギンギン騒がしい声が耳に突き刺さり、さっさと通話を切りたくなる。
「気が向いたらっつったよな。いつとかねえよ、俺の気が向いたらだよ。」
『だからいつ向くんだよ!!お前久しぶりにダチに会いたいとか思わねえの!?』
「うん。べつに。」
『ひっど!!!』
友人であるとは思っているが、“会いたい”とかいう気持ちは皆無で面倒だと思う気持ちの方がでかい。そもそも雄飛くらいしかわざわざ自分から友人に会いに行こうと思わねえから、そもそもそれ以外の奴って俺にとって“友人”って呼べんの?ってふと思ったりする。
今のところ大学の友人である歩夢と慎太郎も俺の中ではかなり関係が浅いから、ぶっちゃけ大学卒業したらもう会わなくなるかも。
…とか心ん中で冷めた事を考えながら「だから気が向いたら行くって」って再び返事をしていたら、『いや、りとの気が向いたらはあてにできない』と言われてしまった。
『日付け決めたとこ、日付け。みっつくらい予備日も決めとこ。お前に合わせるから。』
「じゃあ金曜。」
『え?金曜?よし、じゃあ金曜な!言ったからな?忘れんなよ!』
何か俺が返答しない限りずっと続きそうな会話に諦めて適当に返事をして通話を切った。電話をぶち切りしないだけ俺性格かなりマシになったよな。と自分の性格に自画自賛しながらスマホをテーブルに置く。
ちなみに大学が終わってからバイトの時間までの間、古澤に暇潰しに付き合ってもらいファーストフード店に来ているところだった。
スマホを置くと古澤に「友達?」と聞かれ、まあ実際友達なんだけど「んー」と首を傾げる。
「なんかわかんなくなってきたな。友達って。」
「え?どういうこと?」
「友達ってだるい奴多くね?」
「え?…そ、…そう…?」
あー…古澤は俺と違って人付き合いも良さそうだから友達からの誘いも喜んで頷きそうだし共感し難いことを聞いてしまったかもしれない。
「俺のライン見たら分かる。だるいのばっか。」
何がだるいのか古澤に一発で分かってもらうために、溜まりまくっている友人からのラインを適当に開き、古澤に見せると、「りとくんがモテるからだよ」っていう感想を口にされる。
【 りとと会いがってる女居るんだけど今度会わねえ? 】
【 あとその子にライン教えていい? 】
まあ確かにこの内容を見たら古澤がそんな感想を口にする気持ちも理解はできるが、『女に紹介したいから会わねえ?』って、俺はべつに会いたくもない女に会うっていうかなり面倒な頼みをされてるわけだよな。普通にだるくね?
「りとくんのラインすごいなぁ。俺友達少ないから通知一個も溜まってないよ。ほら。」
俺の何十件も溜まっているラインに比べて、通知一つないスッキリしたライン画面を見せてきた古澤を俺は羨ましく思ってしまった。
「いいなぁ。お前は賢い人付き合いの仕方をしてるわ。友達が少ないっつーより、無駄な人付き合いが無い感じ。」
「そうなのかな?」
「そういや兄貴も昔からすっげー友達少なくて、俺はその逆だったからぶっちゃけ心ん中で兄貴の事見下してたけど、今になって思うわ。無駄な人付き合いをしてこなかっただけだなーって。」
「ふぅん。御坂さんもそうだよね。」
「いや、あいつは単に性格に難有りだから友達できにくいだけだと思う。」
「ふふっ、辛辣。」
友達多いとか少ないとかじゃなく、重要なのはやっぱ“質”だよな…って、なんかだんだん“友人”に対して思うようになってきた。例えばこういう本音の話をできる古澤の存在はかなりでかい。
この先大学を卒業して、社会人になっても、古澤には相談事とかしている未来が普通に想像できる。『女に紹介したいから会わねえ?』とか言ってくる友達が百人居るより、相談できる友人が一人いればそれで十分だと思える。
圭介の事はちゃんと友人だと思っていたけど、よくよく考えてみればクラスが同じになり、よく話すようになってから俺に話してくることは昔から女絡みの事ばっかだ。
もし次会って、また俺に話してくる内容が女絡みだったら、その時は関係切ってやろうかな。
そんな事を密かに考えながら、俺は面倒だと思う気持ちを我慢して一度だけ圭介に会いに行ってやる事にした。
*
りとを合コンに誘ったがバッサリ断られてしまった俺、圭介は、連絡先を交換したりなちゃんの友達の一人にりとを誘ったけど無理だったとの連絡を入れた。すると【 え〜!そこをなんとか! 】とお願いされ、可愛い女の子からの頼みを断れない俺、圭介。なんとかりとに会う約束を取り付けるためにメッセージじゃ返事がこないから電話をかける。
そうしてりとと金曜日に会う約束を取り付けることに成功し、俺は金曜日の大学終わりに大学の敷地内にあるカフェで、りとが来るのをりなちゃんの友達四人とおまけに俺の男友達数人で待っていた。
皆可愛い女の子たちを前にするとテンションが高く、『どういう男がタイプ?』とか『前に彼氏居たのいつ?』とか恋愛絡みの質問で盛り上がる。
その場で居合わせば皆友達。すぐに連絡先を交換して、気が合えば今後親しい付き合いが始まってゆく。ずっとそんな感じで交友関係を繰り広げていた俺やその周りの友人たちにとって、この空気は日常だった。
そんな盛り上がっていた空気の中、俺のスマホには【 カフェの前まで来た 】とりとから連絡が入ったためカフェの外を見ると、高校の卒業式ぶりに見るりとらしき男がスマホを見ながら立っている。
黒でもないが茶色でもない、銀に近いような髪色をした一見かなり近付き難い雰囲気を持つイケメンである。分かりきっていることだが、あいつはかなりのイケメンである。
ゆったりとした白のロンTにジーパンというかなりラフな格好だが、文句無しのイケメンである。
「あっ!りと来たっぽいわ!」
俺は一番仲良くなったりなちゃんの友達の一人に報告してから席を立ち、カフェの外に居るりとの元へ向かおうとしていると、背後から「どれどれ?」と女の子たちが騒ぎ始める声が聞こえてきた。
「よお!りと久しぶりだなぁ!中入ろうぜ!」
俺はりとにそう声を掛けながら再びカフェの中へ足を踏み入れると、後ろからついてきたりとが不機嫌そうな低い声で口を開いた。
「なにあの女たち、すっげーこっち見てくるんだけど。知り合い?」
「あ、この前言ってたりなちゃんの友達だよ。りとのことガチで興味津々だったからさぁ、まあ一回挨拶してやってよ。」
俺の返事にりとは黙って俺の後ろをついてくる。「なんか飲むだろ?」って注文カウンターの方を促したが、「すぐ帰るし」と言われてしまった。
「えぇ!せっかく来たのに?つーかせっかくだからこの後チサトにも会ってやれよ!あいつりとにずっと会いたがってんだから。」
そこで高一からずっとりとに片想いしている女友達の名前を出すと、「はぁ。」と突然ため息を吐かれた。
そしてくるっと俺に背を向け、「帰るわ。」って立ち去ろうとする。
「えぇぇっ!?なんでだよ!今来たとこなのに!」
「なんかだるくなったから帰る。」
「なにがだるいんだよ、久しぶりに喋ろうぜ!?あっ!なんか奢るから!!」
昔からりとがかなりの気分屋なことは知っている。だからみんなで遊んでいても急に帰ることとかはわりとよくあった。
でも久しぶりに会ったのにいきなり『帰る』と言われるとは思わなかった。慌ててりとの腕を掴みながら引き止めると、かなり嫌そうな顔をしながら俺の後をついてくるりと。
こいつが何を思ってこんなに嫌そうにするのか、俺には全然分からない。
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