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翌日からりなはもう完全に彼女たちと距離を置いた。いや、そもそももう向こうからりなに話しかけてくることもないだろう。

昨日もお兄ちゃんに愚痴を聞いてもらい、ほんのちょっとだけスッキリすることができた。心配かけちゃったけどもう大丈夫。あの人たちには今後一切関わらないようにするから。

講義が始まるギリギリの時間に到着し、隅っこの席に座り、講義が終わったらすぐに席を立ち、次の教室に移動する。

一人で行動するりなに、やのとまが「ハブられた?」って話しかけてきたが、ハブられたっていう言い方は違う気がする。だってりなだって早く離れたかったから。


「元々そんなに仲良いわけじゃないし。」

「え〜、そうなんだ。ちょっと前まですっげー仲良い空気出してたのに。」

「見せかけだよ。あいつら裏でずっとりなの悪口言ってたもん。」

「うへ〜、こっわぁ。」

「もういい、無視無視。二度と喋んない。」


女の子の友達は欲しかったけど、あんな酷い女たちなら居ない方がいい。それにやのとまが居るから何か困った事があったらやのとまに聞けばいいしべつにいいや。ちょっとズレたようなこと言ってて頼りないとこあるけど、まあ居ないよりはいい。


そうしてこの出だし最悪のまま始まった大学生活は淡々と過ぎていくが、友達が居なくても案外なんとかなっている。

たまにあの感じの悪い女たちの近くの席に座ってしまった時は気分最悪だけど、それ以外はまあ適当に。単位さえちゃんと取れればいいや。って、りなは毎日真面目に講義を受けていた。


そんな、あまり楽しさを感じない大学生活が早くも半月ほど経った頃、真面目学生りなの元に突然チャラい見た目をしたギャル男がりなを訪ねてきた。


「矢田りなちゃんってここにいる〜?」


りなは『誰?』ってギョッとしながら声の持ち主の方を見れば、パァッと嬉しそうな顔をしながらりなの方を見てブンブンと手を振ってくる派手な金髪にピアスを付けたギャル男。

そんな男が「ガチ運命感じるんですけど!」ってデカい声で話しながら歩み寄ってきた。誰だよ、勝手に運命感じられても困るんですけど。


「覚えてる!?俺りとの友達の圭介!!」

「え…、…あっ、なんか覚えてるかも…。」

「うわぁ〜まじかぁ〜。風の噂でりとの妹がこの大学に入学したって聞いたから探してみたらガチだったからびっくりしたよ!!」

「え、なんですか風の噂って。こわ。」


思い出した。この人はりとの高校の頃の友達で、多分一度会ったことがある人だ。なんとなく顔に見覚えがある。ていうか声デカすぎ。もうちょっと声のボリューム下げてくれないかな?目立ってしょうがない。


「人づて…っつーか、ぶっちゃけると女友達がりとに久しぶりに会いたいらしいけどラインの返事まったく返ってこねーからせめて身内と繋がって連絡取ってもらおうとしてりなちゃんの進学先をあーやこーやして聞きまくったらしい。」

「かなりぶっちゃけましたね。そこまでするならもうりとが通う大学行って出待ちでもした方が早くないですか?」

「何回かしてみたらしいけど会えなかったって。」

「あ…、そうなんですね…。ちなみに私りととは仲良く無いので私からライン送ってもあいつスルーすると思いますよ?」

「あ〜なんかそんな噂あったね。じゃあ一回ダメ元で送ってみてくれない?圭介に会ったよ〜りとと久しぶりに会いたがってるよ〜って。」


図々しいな。仲悪いって言ってんのに。

なんでりながこんなことを…って思いながらも、りとにラインを送ってみるまで圭介くんが一向に立ち去る気配がなかったため、りなは諦めて渋々【 圭介くんに会ったよ〜りとと久しぶりに会いたがってるよ〜 】って言われた通りにラインを送った。

するとすぐに既読が付き、【 圭介ってあの圭介? 】って秒で返事が届く。どの圭介だよ。りなに聞かずに本人に直接送ってくれ。


「は!?返事早くね!?」

「あ、すぐ返ってきましたね。」

「妹のラインはやっぱ返すんだな。」


続けて【 写真送って 】って言われたから圭介くんの写真を撮って送ったら【 ウケる 】とだけ返ってきた。


「はっ!?人の写真見て『ウケる』はねえだろ!」

「今ライン送ったらちゃんと返ってくるんじゃないですか?続きはご自分でどうぞ〜。」

「って思うじゃん?まじで返ってこねーのよ。あいつ多分俺のライン通知切ってやがるから。」

「そうですか…。」


【 ウケる 】とだけ返された圭介くんは、「りなちゃんまたりとに連絡頼むわ〜」と言い残して呑気に手を振りながら去って行った。声がうるさすぎて周りの人にジロジロと目を向けられていて最悪だ。


その日から圭介くんは度々りなの元を訪ねてくるようになった。たまに友達を連れているが皆チャラいヤンキーのような見た目をしている。類は友を呼ぶって感じだ。


「女友達にりなちゃんに会ったこと話したらそいつも会いたがってたわ〜。」

「え?私にですか?」

「うん、まずは妹から仲良くなりたいってさ。」

「いや…、だから私りとと仲良くないんですけど。」

「チサトって言うんだけどさ、久しぶりにりとと会いたがってるって送ってやってくんねえ?高一ん時から片想いしてんのよ、そいつ。」

「長いですね……。」


チサトさん趣味悪…。って思いつつ、その一途さに免じてりなは一度だけ【 チサトさんって人がりとに会いたがってるらしい 】ってりとに送ってあげた。

秒で既読はついたものの、返事は返ってこなかった。いや、もしかしたら直接チサトさんに何か送ってあげたのかもしれない。そう期待して、りなはそっとスマホをしまった。あとはご自分でなんとかしてください…。





「うわ、誰あれ?あいつめっちゃチャラそうな男に絡まれてんだけど。」

「ほんとだ。え、知り合い?普通に喋ってない?」

「やっぱ男の知り合い多いんじゃん。てか男としか喋ってるとこ見たことなくない?」

「まじそれな。」


圭介に話しかけられているりなにいち早く気付く女たち。相変わらずりなのことを敵視しまくり、今日も元気に悪口を吐きまくっている。


実は朝から必死にメイクをして、髪をセットし、身なりを整えてようやく自信を持てる見た目を作り上げている彼女たち。スッピンなんて人には見せられない。そんな彼女たちからしてみれば、薄化粧でも可愛くて座ってるだけで男が寄ってくるりながやはり憎らしくてしょうがない。


偶然彼女たちは学内で圭介を見つけたため、興味本位で声をかけてみることにした。


「あ!りなのお知り合いの方ですよね?この前教室で話してるところ見てたんですけど!」

「お〜!りなちゃんの友達?みんな可愛い〜!」


女の子大好きな圭介は、性格はさておき見た目が綺麗な女の子たちに話しかけられ、鼻の下を伸ばしながら返事をする。


「りなとはどういうお知り合いなんですか?」

「あー、りなちゃんの兄貴の高校ん時の友達だよ。」

「へぇ〜!お兄さんのお友達でしたか!なんかちょっと意外〜!お友達さんはりなのお兄さんと全然タイプ違うのかな?」

「え?なんで?」

「だってりなお兄ちゃんのこと隠キャとか言ってたから。インスタも知らないようなタイプ〜って。お友達さん明らかに陽キャですよね〜。」


りなから聞いた話をしっかり覚えている女は圭介にそう話すが、圭介はその話に一瞬キョトンとした顔を見せたあと、「あはは!」と声に出して笑った。


「なんだそれ、どういう嘘?隠キャどころかムカつくくらいド生意気なイケメンだよ。…あ、それとも上のお兄さんのこと言ってんのかな?まあどっちにしろ二人ともガチなイケメン兄弟だけど。」

「え……。」


圭介のその発言により、その場の空気が凍り付く。女たちは、そこでりなに嘘をつかれたと気付き、怒りがふつふつと湧いてきたのだった。

なんでそんな嘘をついたのか、と。そんなことくらい、話してくれても良かったんじゃないか、と。


「その上頭もかなり良いからやばいよ、あそこの兄弟。りなちゃんもあの可愛さだしね。」

「へえ…そうなんだ…。」


『なんで嘘ついたの?』

『なんで言ってくれなかったの?』

『知っていたら、もっとりなと親しくしたのに…』


そんなふうに物事を考え、損得勘定で人間関係を築き上げようとする。打算的で、似た者同士の四人組。

そもそも嘘がつけないタイプのまっすぐな性格をしたりなが、仲良くできるはずもないのだった。


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