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「あれ?あそこに居る人りなと冬真くんじゃない?」

「うわ、ぽい。なにあいつ、先生に用事みたいなこと言ってたくせに実はコソコソとあたしらに内緒で冬真くんと約束してたってわけ?」

「やっば、あの子まじ性格終わってんね。」

「多分あたしたちに隠れて仲良くしてんでしょ?この子ずっと冬真くんと話したいっつってんのに一回も協力してくれなかったもんね。」


りなが教室を出て行った少し後に、冬真と廊下を歩くりなの後ろ姿を実はすでに彼女たちに見られてしまっていた。

昼休みを挟み、その次の講義では冬真の背中に隠れるように座るりなを横目で睨みつけながら教室に入り、りなからは少し離れた席で四人で固まって腰掛ける。


「見た?りな冬真くんの後ろの席座ってたよ。」

「なんか顔隠してる感じだよね。何考えてんのかな?あたしらに見つかったら気まずいとでも思ってんのかな?」

「あとで普通に話しかけに行く?その流れで冬真くんに話しかけなよ。」

「あ、それいいね。」


完全にりなを目の敵にしている彼女たち。最初からりなと親しくするつもりなんてなく、“可愛いこの子を上手く利用して、もしイケメンやタイプの男が寄ってきたらお近付きになろう”という思いしかなかった。


実は彼女たちは、りなのことを『可愛い』とは言いつつもどこか見下したような目で見ている。目も鼻も口も、パーツ全てが整っていて顔が可愛いのは一目瞭然。でもそれだけ。なんとなくまだ幼稚な見た目。胸も小さそう。可愛い顔によく似合うふんわりしたニットのワンピースを着ていたけど、やっぱり幼稚な感じ。私物もキャラクターものを待ってたりして子供っぽい。でも男ウケはかなり良さそう。ムカつく。

染めていなさそうな薄茶色の髪が綺麗。一応軽く巻いているのか毛先がくるっとしていて可愛い。けどやっぱり幼稚。子供っぽい。可愛い〜可愛い〜とは口に出して褒めつつ、心の中では敵視しまくり、常に粗探しをする。


思う存分利用はしたいけど、男にチヤホヤされまくる可愛い顔を持ったりなのことは憎たらしくて、そんな理由からりなは理不尽に敵視されまくっていた。


講義が終わってすぐ、四人のうちの一人がりなの元に駆け寄った。


「りな〜!どこ行ってたの!探してたのに〜!」


りなの顔は分かりやすく引き攣った。その子は冬真に一番興味を示していた女だった。上手くフェードアウトできかけていると思いきや、全然そんなこと無かったなぁと落胆する。

そんなりなの方に冬真が振り返り、やり取りを観察するように無言で眺める。実は冬真は顔はかなり良いものの、中身はそこそこポンコツな男だった。


「あら〜、やだりなフェードアウト失敗だなぁ。」

「ちょっと!なんで今それを言うんだよ!!」


りなは思い切り顰め面を見せながら冬真を怒った。こいつあり得ない、空気読めないの?と言いたい気持ちをなんとか堪えてべしっと冬真の背中を引っ叩く。

すると冬真は今更『あっ言ったらまずかった?』って顔をしながら口を手で押さえるがもう遅い。


「え…?なに、どういうこと?」

「あはは、なんでもないなんでもない。探してくれてたの?ありがと〜。」


りなはとりあえず愛想笑いを浮かべてごまかし、礼を言った。最悪な空気が漂い始めるが、女は冬真に近付けるチャンスを逃すまいとするように「良かったらこのあとみんなで遊びに行かない?」と笑顔で声を掛けた。


『え…?“みんなで”?それってりなも…?』


りなは真顔で固まった。正直りなは自分は含めてくれなくていいから勝手に冬真を連れて行ってくれと思っていた。この子たちもりながいない方が楽しいはずだ、と。

しかし冬真が「どうする?行く?」って聞いてくる。

いや、勝手に行ってくれ。りなは行きたくない。

けれどそれを正直に言える空気でもない。

そうしている間にぞろぞろとりなを敵視する残りの女三人が歩み寄ってきて、りなと冬真を取り囲んだ。


「なんの話してんの〜?」

「今みんなで一緒に遊びに行かない?って誘ってたとこ〜!」

「おっ、良いじゃ〜ん行こ行こ〜。」


やばい…、どうしよう…、行きたくない。

心の底からりなはそう思っていたが、この空気の中ではっきりと断る勇気はなかった。


「あ、じゃあ冬真くんの友達も呼びなよ〜、親睦深めよ!」

「それいいね〜!」

「え、あ、うん。じゃあちょっと声掛けてくる。」


女たちから押されまくった冬真もまた断る勇気は無く、近くに固まって喋っていた知人に「この後暇なやついる?」って声をかけた。


「あそこらへんの子が今から遊びに行こうっつってんだけど。」


あそこらへんの子、と冬真が示した指の先にはりなの姿もある。そこで男どもは『待ってました!』というような勢いで冬真からの誘いに乗った。

ゾロゾロと歩み寄ってきた男の数は四人。丁度女五人、男五人で数としてはばっちりである。


結局合計10人で向かった先はカラオケ店で、りなは全然乗り気ではないこのまるで合コンのような雰囲気を醸し出す集いに参加する事になってしまったのだった。





カラオケ店の大部屋にて。

男が居るとあからさまに態度を変えてキャピキャピぶりっ子しながら喋っている女たち四人を尻目に、りなはポテトをパクっと口に入れた。マクドのポテトも美味しいけど、こういうところのポテトも美味しい。ジャンクフード大好き。誰も食べないからナゲットにも手を伸ばした。美味しい。

すると横から「お、食ってる食ってる」って茶々を入れられる。やのとまだ。あんた女子たちと喋ってなさいよと肘で突いて他の方向を向かせた。


そんなりなとやのとまのやり取りを横から見ていた男の子の一人が「矢田さんと冬真仲良いよね。学校は違うんでしょ?」って話しかけてくる。

「うん違うよ」って返事をすると、「高校どこだったの?」って続けて質問され、その後暫く質問攻めに合ってしまった。


カラオケ時間は二時間の設定で延長可能だったけど、飲み食いしてほとんど歌わずに喋ってばっかで時間が過ぎていき、二時間経ったところで意外とあっさりと解散する。

やのとまは男子達と一緒に先に帰っていき、残った女たちがその場で「なんかつまんなかったね」ってさっそく愚痴り始めた。この空気怖すぎ。男の前ではぶりぶりぶりっ子しまくってたくせに。合コンでも毎回こんな感じなんだろうね。

ところでりなはいつ帰って良い?
やのとまが帰る時にりなも帰れば良かった。

そうして帰るタイミングに困っていたら、「つーかりなってまじあざと女子だよね」って、女の一人がいきなりりなの方を見ながらそんなことを言い始めた。


「…え?あざと女子?」

「あ、思った思った〜。男子の前では超良い顔するよね。」

「絶対合コンに来てほしくないタイプ〜。」

「え、…べつに誘われても行かないけど。」

「うん、誘わないけどね。」


そんな会話の流れで女たちは「キャハハ」と手を叩いて笑い始め、あまりの感じ悪さにムカッとして顔に出てしまった。もう完全にこの子たちりなと仲良くするつもりないよね。

りなも無いけどさ。もうフェードアウトとか考える必要なくなったわ。この雰囲気はもう完全に終わってる。


短い間でしたけどお世話になりましたさようなら。って、心の中で呟くのみでりなは何も言わずに彼女たちから背を向けて歩き始めた。

すると背後から「あっれ〜?りなちゃん帰るの〜?」「気を付けて帰んなね〜?」って笑い混じりでなんとなく人をバカにしてるような口調で言われて腹が立つ。


何か言い返したい気持ちはあるものの、何も言い返す言葉は見つからなくて、りなはちょっとだけ涙目になりながら帰宅した。


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