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男の子の友達は一人できたものの、女の子の友達はなかなかできないまま大学生活が始まり、今にもりなに話しかけてこようとしている男子を避けつつ初回の講義が始まるのを一人席に座って待っていると、りなの周りの席に突然女の子四人がりなを取り囲むように座ってきた。


「わっ…、びっくりした…。」

「ねえねえ、いつも一緒に居る男の子彼氏?」


…え、いきなりそういうこと聞くんだ。もっと他に声の掛け方あるよね?『はじめましてー』とか。

いきなり人の周り取り囲んで男の事聞くのってどうなの?ってりなはちょっと引き気味で「違いますけど」って答えたら「違うんだ!?」って目を見開かれた。


「お似合いすぎてそうなのかと思った…!」

「てかめっちゃ可愛い〜、名前なに〜?」

「可愛いよね〜、さっき向こうに居た男にも可愛いって言われてたよ。」


第一印象は良くなかったけど褒められるとすぐ機嫌が良くなってしまうりなは、一旦気を取り直して「矢田りなだよー」って自己紹介する。するとみんなも自己紹介してくれて、初めての女の子の友達ができそうな雰囲気ではある。

髪染めてて綺麗に巻いて、メイクも上手で服もおしゃれで、多分同い年なのに大人って感じの人たちだ。大学生になるとやっぱみんな大人っぽい。りなももっと頑張らなきゃ。


そのまま彼女たちと会話を続けていたら、「おー、やだりな友達できてんじゃん」ってやのとまが話しかけてきた。


「あ、やのとまおはよー、今できた。」

「よかったなー!俺も早く友達作ろー。」


どうやらまだりな以外に友達が居ないらしいやのとまは、りなに話しかけながらスーッと目の前を通り過ぎていき、キョロキョロと辺りを見渡しながら座る席を探していた。


やのとまが去って行ったあと、すぐにやのとまを目で追いながら「かっこいい〜」ってやのとまの事を褒めながらうっとりした顔をしているりなの隣に座った女の子。わざわざりなに話しかけるくらいなら直接やのとまに話しかけに行けばいいのに。……あ、彼氏だと思って遠慮してくれてたのかな?良い子そうだったら仲良くなりたいけど、…どうだろ。まだわかんないや。

その子はパッと視線をりなの方に戻して「学校同じなの?」って問いかけてきたから、「ううん、入学式の日たまたま隣の席になって仲良くなった」って答えると、その子は突然スッと真顔になり、「そうだったんだ」って無愛想に頷いた。

え?なにその態度、怖いって。入学式にたまたまやのとまの隣の席になったことずるいとか思った?それともりながわざとやのとまの隣に座ったとか。違うからね、ほんとにたまたまだから。わざとイケメンの隣座ったりなんかしてないよ。

…ってわざわざ主張するのも変だろうからそのまま何も言わずに会話を終えた。彼女たちと自己紹介はし合ったものの、やのとまのように“仲良くなれそう”とはちっとも思えなかった。


けれどそれからというもの、もうすっかり友達になったみたいにその子たちはりなに毎日話しかけてくれるようになったし、自然な流れでりなは彼女たちと行動を共にするようになった。一緒に講義を受けて、一緒にご飯も食べてくれる。

ぼっちよりは良いのかな?と思うものの、なんとなく居心地が悪いと思うのはなんでだろう。会話があんまり合わなくて、りな一人だけついていけてないからかなぁ…。

元カレの話とか、ブランド品の話とか。時には下ネタも言っててまじでついていけない。

さらにこの子たちは周囲の女の子を見て「あの子の服だっさ」とか「あのメイク変じゃない?」とか他人を見てはひそひそと人を蔑むことばかり言って笑っている。


どうしよう、りなこの人たちと一緒に居たくない。


次第にりなは、せっかくできた女の子の友達なのにそう思うようになってしまった。


やのとまはやのとまで男の子の友達がちゃんとできたようで、数名の男の子たちと連んでいる姿を目にした。さすが男子校出身と言うべきか、もうみんなと打ち解けて楽しそうにしている。りなもやのとまの方に行きたいな。


でもりなはりなでこの女の子たちと過ごす時間が増えてしまい、なんとか話を合わせて友達っぽく振る舞っている。性格はあんまり良くなさそうだけど、ファッションの話とかは結構詳しくて勉強にはなったりしている。

その中の一人の子がやのとまと仲良くなりたそうだからいつも間を取り持って欲しそうにやのとまの話題をりなに振ってくるけど、りなもまだそんなにやのとまのことはよく知らないから、『話しかけてみれば?』とか『話しかけたら普通に仲良くしてくれると思うよ』って適当に返事をしたりするけど、そうしたら何故かちょっとだけ不満そうな顔をされる。

もしかしたらこの子はりなから『話しかけてみれば?』っていう返事を求めてるんじゃなくて、『てめえがここに連れてこい』ってスタンスなのかも。でもりなはわざわざそんなことしないよ。自分の友達作ることで精一杯。それにまだみんな出会って間も無いんだから、仲良くなりたい人には自分から話しかけに行けば良いよね。


りながずっとそんな態度だったからか、そのうち一緒にいてもコソコソと陰口を言われるようになった。『性格まじで悪くない?』とか『絶対りなも冬真くんのこと狙ってるよね?』とか、ヒソヒソと話してる声が聞こえてきてしまった。

いやいや、狙ってませんけど。りなのどこを見てそう思ったの?りなは男の事よりも毎日仲良くできそうな女の子の友達作りたくて女の子の事ばっかり見てるよ。でもなかなか話しかけに行くきっかけがないんだよね、残念なことに。

ていうか君たちが『あの子の服だっさ』って見ていた女の子の方が性格良さそうでにこにこ友達と笑って話してて可愛らしいよ?ていうかべつにださくないから。シンプルなだけじゃない?

心の中でそんなことばっか考えているから、結構顔に出てしまっているかもしれない。りなは結構嘘つけないタイプだから『どこが?全然ダサくなくない?』とか言い返しそうになってしまうけど、この人たちみんななかなかの気の強そうなお姉さんって感じだから、悪口に対して反論しそうになっても袋叩きに合いそうな気がして、怖くてまったく言葉は出なかった。


りなは悶々とするこの嫌な気持ちを誰かに聞いて欲しくて、隙あらばお兄ちゃんに愚痴ラインしまくった。昔からお兄ちゃんはいつもりなの相談を聞いてくれるから、大学生になった今でもお兄ちゃんに縋る事をやめられない。


【 大学で友達になった子たちが感じ悪くて最悪!りなの陰口言ってる 性格悪いとか 】

【 仲良くするのやめようと思ってるけど表向きは超良い顔してりなに話しかけてくるから離れるタイミングがわかんない 】


そんなラインを送るとお兄ちゃんからは【 大丈夫? 】ってすぐに心配してくれる返事が届く。


【 もう無視でよくね? 】

【 適当な理由探してフェードアウトできねえの? 】

【 なかなか上手くいかないんだよね。りなの腕にべたべた抱き付いてきたりしてすっごい仲良さそうな雰囲気出されてる。 】

【 裏で性格悪いとか言ってるくせに? 】

【 うん、めっちゃ怖い、まじ女狐って感じ。】

【 ムカつくな。さっさとフェードアウトできるように願っとく。 】


お兄ちゃんに愚痴っていたら、ちょっとだけ気が楽になった。そうだね、早いとこフェードアウトしよう。りなはこの子たちと四年間仲良くしていくなんて絶対に無理だ。


「りな誰とラインしてんの〜?」


ほらね、ちょっと一人でスマホ触ってただけですぐにぎゅっと腕に抱きつかれながらスマホ画面を覗き込まれた。裏ではりなのことボロクソ言ってるくせに普段はこの態度。あー怖い怖い。


「お兄ちゃんだよ。」

「りなお兄ちゃん居るんだ〜?彼氏かと思った〜。」

「彼氏居ないって言ったじゃん。」

「ふぅ〜ん。お兄ちゃんと仲良いの〜?」

「うん、そこそこ。」


りなはあんまりお兄ちゃんの話をしすぎると『ブラコン』っていう陰口を言われる事も過去に経験済みだから、サラッとお兄ちゃんの話は終わらせて「喉乾いてきた〜」ってどうでも良い呟きを口にした。

りなの呟きなんてどうでもいいその子はスッとりなの腕から手を離し、自然に会話は終了した。


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