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矢田家の末っ子、りなもあっという間に大学生になった。ついこの前高校生になったと思っていたらもう自分が大学生になっていてびっくりしている。JKブランドがあっという間に無くなってしまったのがちょっと悲しい。

仲良しな友達と同じ大学に行きたかったけど、仲良しな子は皆それぞれ専門学校や短大へと進み、りなはまったく友達がいない大学へと進学した。ちゃんと大学で友達できるかな?って、りなは入学式の日から一人不安いっぱいだった。

周りを見渡せばもうすでに友達同士で来ているのか、仲良さそうに喋っている人達だらけで早くも挫けそう。りなって中、高どんな感じでみんなと友達になったっけ?……思い返せば中学、高校の頃は何もしなくても『矢田さんだよね?』って話かけてもらえた気がするなぁ…。お兄ちゃんとりとが地元でそこそこ知られていたからかも。全然知らない子でも何故かお兄ちゃんとりとの事知ってる人が多かったから。

でもここにはお兄ちゃんもりとも居なくて、知ってる人すらまったく居ない真新しい環境だ。自分一人の力でなんとかしなきゃ。


誰か話しかけられそうな子…、

誰か話しかけられそうな子…!

自分と同じように一人でポツンと居る女の子を探そうと周囲を見渡してみたが、りなの回りには今にもりなに声をかけて来そうな勢いでじわじわと近付いてくる男ばかりだった。

いやいや、男は後でいいから。とりあえず女の子来て、女の子。女の子と仲良くなりたいんだよ、りなは。男連れて歩いてたらさっそく『なにあの男好き』って目で見られちゃいそうでしょ。そうするとますます女の子の友達ができにくくなってしまいそうだ。りなは女の子の敵を増やしたくはないのである。

…って周囲の男たちを避けまくって歩いていたら結局一人で入学式会場に入ることになってしまった。寂しいなぁ…。こんな経験をするのは初めてだ。


会場に並べられたパイプ椅子に奥から詰めて座らなければいけないため、せめて隣に座った人と仲良くなれないかと思ったが、隣は仲の良さそうな女の子二人組で、りなが口を挟めるような隙などなく二人でずっと喋っている。楽しそうで良いなぁ…。


「はぁ…」と小さくため息を吐いた時、同時に横から「はぁ…」とため息を吐きながらりなの隣のパイプ椅子にガタッと腰掛ける音が聞こえてきた。

音に反応して横を見れば、その隣に座った人もこっちを見ていて、軽く会釈すれば同時に隣の人も会釈してきた。多分、りなと同じぼっちだ。でも残念ながら男の子。それもやたらかっこいい感じの顔面整いまくったイケメン。ここは運良くイケメンの隣になれた事を一応喜んでおくべき?……いやいや、べつに無理に喜ぶ必要もないか。普通にしておこう。


「うわー可愛い子の隣に座っちゃった。」

「え、いやいやそっちこそ。かっこいいですよ。」


『可愛い子の隣に座っちゃった』とか言ってるからもっと嬉しそうな顔してくれても良いのに、その人はテンション低くげっそりした顔で初対面のりなに話しかけてきた。

しかも褒められたから褒め返したのに、その人はりなに「ぼっち?俺もぼっち。」とか言って勝手に話を進めている。全然人の話聞いてなさそうだ。いやまあ確かにぼっちですけれども。りなの返事とりあえず聞けよ。って思っていたら、その人は一人べらべらと勝手に喋り始めた。


「友達一人も居ねえしまじテンション下がるわー。俺小、中、高ずっと幼馴染みと同じ学校通ってたんだけどさ、そいつ高校で彼氏作ってその彼氏と同じ志望校受けて今年から俺抜きで二人で大学通いやがんの。『お前は好きなとこ一人で受けろよ』だと。ひどくねー?まじ薄情ー。腹立って受験勉強ばりばり頑張ってあいつよりレベル高いとこ受かってやったもんね。」


…よく喋る人だなぁ。その幼馴染みの事が好きだったのかな?でも進路は一人で決めるもんだからね。りなも友達と同じ大学行きたかったけど自分で行きたいと思う大学決めたら誰も一緒の子居なくて一人だったし。


「それは残念だったね。でも良かったじゃん、そのカップルよりレベル高いとこ入れたのなら。」

「うん、まあね。その幼馴染みガチでびっくりしながら『お前よく受かったな、落ちるかと思ってた』とか言ってきたからね。俺のこと舐め過ぎ〜、まじ気持ち良かった〜。」

「幼馴染み結構口悪いね。…あれ?てか幼馴染みって女の子だよね?」


あれ?この人さっき『幼馴染みに彼氏できて』って言ったよね?あれ?聞き間違いかな?って考えていたら、その人はあっさりとりなの問いかけに答えた。


「あ、違う違う、男男。男の幼馴染みがー、男の同級生と付き合ったの。俺の通ってた高校全寮制の男子校でさぁ、普通に男に告白されたりするからね。」

「えッ…、そうなんだ。」


なんかこの話すっごい親近感…。りなのお兄ちゃんもだよ、って言いたいけどいきなり身内の話するのはやめた方がいいかな?


「引いた?」

「ううん、実はりなも似たような境遇の人知ってる。」


…あ、初対面の男の子の前で自分のこと『りな』って言っちゃった。大学生になったらちゃんと『私』って言おうとしてたのに。


「あ、りなって言うんだ?俺冬真。」

「とうま?じゃあひとまず自己紹介タイムと言うことで…矢田りなって言います。よろしくね。」

「やだりな?俺矢野とま。なんか苗字似てるねー。よろしくー。」

「やのとま?確かに似てるねー。よろしくー。」


男の子だけど気さくな感じで話しやすい知り合いができたな。喋れる人ができてなんかちょっとだけホッとしたかも。


「てかやだりな絶対モテるよなー。」

「え?まさかのフルネーム呼び?そういうやのとまも絶対モテるでしょ。」

「やだりなって呼びやすいよな。」

「初めて言われたよそんなこと。」


初対面にも関わらず、この人と喋ってたらひたすらベラベラ喋って会話が続きそうだ。会話の途中で周囲を見渡したらすでに後方まで人でぎっしり埋まってきていたから恐らくもうじき入学式が始まるはず。


「やのとまのおかげで緊張だいぶほぐれたわー、ありがとねー。」

「まじー?良かったー。俺も幼馴染みに超可愛い友達できたって自慢できるしよかったわー!」


そう言ってニカッと笑ったやのとまの表情は裏表の無さそうな親しみやすい笑みで、やっぱりモテるんだろうなと思った。


こうして、入学式にたまたま隣の席になったイケメン男子やのとまと仲良くなったりなは、その後も一緒に行動し、連絡先を交換してから大学の初日を終えたのだった。


気の所為でなければやのとまと歩くりなは周囲の人間に遠巻きに見られていて、女の子から『あの子の彼氏かな?』ってヒソヒソと噂されている声が微かに聞こえてきてしまった。

やっぱりイケメンでかっこいいやのとまはすでに女の子たちに注目されているようだ。違う違う、彼氏じゃないよ。…って否定しようにも、直接聞かれているわけではないから否定する事もできず。

なんとなく微妙な心境のまま、りなの大学生活がスタートした。


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