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「永遠、せっかくの休みやからもうちょっと遊んで帰ろか。」
「うんいいで。」
時刻はまだ昼の3時前だったため、侑里に近くにあったカフェを指差しながら誘われた。断る理由も無かったため頷くと、手ぶらでTシャツジャージパンツ姿の見るからに運動着を着たでかい男がおしゃれなカフェ店内へ躊躇いなく入って行く。
「いちごショートケーキと水ください。」
「ぶふっ…ケーキと一緒に水頼んでる人初めて見た。水はセルフやで。ほら、あそこ。」
「あ、ほんまや。」
カウンターで淡々と店員さんに注文している侑里に思わず吹き出してしまった。侑里はカフェが不釣り合いすぎる男だ。
俺はラーメンでお腹が膨れていたから飲み物だけ頼み、席に着く。
「永遠の恋話聞かせてや。」
真ん中に乗っかったいちごをぱくりと一番に食べながら、侑里はいきなりそう促してくる。
「いちご一番に食べるんや。」
「うん。邪魔やん。」
「…うわぁ。」
いちご邪魔扱いしてる人見たのも初めてや。そんないちごの話で話題を逸らしてみたが、すぐに「浅見に告ったりせえへんの?」と問いかけられてしまった。
「そんなんしいひん。」
「なんで?」
「告ってどうするん。」
「付き合ったらええやん。」
パクッとケーキを食べながらあっけらかんとした顔で話す侑里。簡単に言うなぁ…とちょっとムッとしてしまった。
「侑里は仲良い男から告られてそんなすぐ友達と付き合える?男やで?男。」
「好きやったら余裕で付き合える。俺永遠に告られたら付き合ってるかもしれん。」
「なんで!?」
「男女関係なく永遠のこと普通に好きやもん。そんなん断れへんわ。」
「…えぇ、…なんかありがとう。」
侑里が軽いのか、本気で言ってくれてるのかは分からないけど照れ隠しにカップを持って紅茶を啜る。
「浅見も永遠のこと好きそうに見えるで?俺普通に永遠が頑張ったらいけると思うねんけどな。」
「えッ…見える?…俺もな、ぶっちゃけそう思う時はよくあるで。だって光星俺のことかわいいかわいい言うてくれんねん…。」
「うん、わかるわ。永遠はかわいい。」
俺侑里に何を話してんねやろ。自分で言うててなんか恥ずかしくなってきた。顔熱い。
「…でもかわいいからって好きってわけでもないやろ?俺男やねんで?付き合いたいとかはまた別で、やっぱそういう相手は女の子の方が良いかもしれんやん。」
「逆に永遠はもし浅見に告られたらどうする?」
「……俺?……どうしよ。」
「そこ悩む必要ある?」
「……だって俺男やもん…。もっと他に可愛い女の子に出会われたら勝てる自信ない…。」
「…あ〜…そういうことかぁ。」
侑里は俺の言葉に納得するように頷いて、早くもケーキをぺろっと食べ終えていた。口直しするように水をごくごく飲んでいる。
ゴクンと水を飲み込んでから、再び侑里は口を開いた。
「でもそういう心配は付き合ってからすれば良いんちゃうん。」
「…んん〜。せやけど…。俺と光星が付き合ったらおかしない?」
「おかしないよ。俺は永遠と付き合える。」
「…んん〜。…それやったら…、
…俺も付き合いたいなぁ…光星と…。」
自分でも脈ありかも?と思ったりしてみても、いまひとつ自信が持てなかった。でも光星がもしほんとに俺と同じ意味で俺のこと好きだったとしたら、そりゃあやっぱり付き合いたい。
ここで俺の頭の中には、“告白”という二文字がよぎり始める。
「…俺光星にな、ぎゅってされんの好きやねん。シャツに顔埋めてほんまはいっぱいすんすんしたいし、無条件に光星にいっぱい抱きつきにいきたい。…男のくせに、光星の腕とか身体好きやねん。…これ言うたら引かれると思う?」
「ううん、寧ろ喜ぶんちゃう?一回試しにやってみたら?」
ここまできたらもう俺の口からはポロポロと俺の願望が次から次へと溢れてしまい、それを聞いた侑里はふっと吹き出しながらそんな提案をしてきた。
「試しに?何をやってみるん?」
「光星好き〜言いながらおもいっきり抱きつきにいってみたら?すんすんにおい嗅いで、ぎゅっとしてみたったらええやん。俺はそれであいつが赤面したら間違いないと思う。顔をよく見とくんやで?顔を。」
「…真剣に言うてる?侑里ちょっと俺で遊んでへん?」
「は?俺めっちゃ真剣やで?俺ほんまに心から永遠のこと応援してんねんで?」
「そ、そうなん?…ありがとうな。」
提案されたことがなんか冗談っぽかったから聞き返したのに、侑里からは本当に真剣な顔してそう言い返されたからちょっと狼狽えてしまった。
「俺も侑里のこと応援してるわ。」
「おっ!?まじ!?応援してくれる!?」
「あ…うん。…サッカーの応援な。」
「は?…サッカー!?ちがうやろ、他にあるやろ?……とりあえずラインだけ。…な?交換させてくれへん?」
あ…。いらんこと言うてしもた。『応援』という一言でスイッチが入ったかのように姉のラインを求めてくる侑里に呆れた目を向ける。今ちょっと侑里良い奴やなぁって思ってたのに。
「頼むわ弟。お願いやから姉ちゃんとラインさせてくれ。」
「さっきまで俺と付き合えるとか言うてたやつがなんなん?侑里チャラない?」
「嘘はついてへんっ!頼むっ…!永遠の姉ちゃん死ぬほどタイプや…!!」
両肘をテーブルにつきながら、ぐぐっと力を込めて俺に向かって両手を合わせたきた。さすがに本気すぎてどうしようか悩みながらスマホを入れているポケットに手を突っ込む。
「…んん。でもさすがに勝手に教えられへんから帰ったら姉ちゃんに聞いとくわ。」
「おお、永遠ぁ〜!!ありがとう!!」
「聞いてみるだけやで。まだ教えるとは言うてへんで。」
「良い返事待ってるわ!」
『聞いとく』って言っただけなのに、侑里はパッと嬉しそうな表情を浮かべてお礼を言ってきたから、俺はまんまとこの勢いに押されてしまいそうだ。
「でも侑里がもし姉ちゃんの彼氏とかなったら俺が嫌やねんけど。」
「俺言っとくけど一途やで?サッカー8年続けてんねんで?」
「それ関係ある?」
「浮気もしたことないで?サッカー一筋、8年やぞ?」
「それ関係ある?女関係どうなん?」
「女関係?クリーンクリーン!ピュアホワイト!」
「ほんまかいな!!!」
にわかには信じがたい侑里の発言にツッコミを入れると侑里はへらへらと笑っている。
「…怪しいなぁ。俺の知ってるサッカー部の同級生は女の子と遊びまくってたで。」
「永遠、ちゃうで?偏見はあかんぞ。あんな?サッカーしてたら黙っててもわりと向こうから寄ってきてくれんねん。そりゃ好みの子が寄ってきてくれたら誰だって遊ぶやろ?」
「……やっぱ遊んでるやん。」
「ちゃうちゃうちゃうちゃう!!ちゃうて!!!永遠ちゃんと聞いて?」
「聞いてるって。」
必死に弁明したがる侑里の声に俺は耳を傾けるものの、その必死さが逆に怪しく感じるなぁと疑うような目を侑里に向ける。
「俺はほら、言うたやろ?自分から好きになった子を追いかけたいねん。他の子に手ぇ出してる暇無いねん。そんな暇あったらサッカーの練習するわ。ほんまやで?」
「ふぅん。ほなまあそういうことにしといてあげるわ。」
練習頑張ってんのは確かやもんな。と心の中で思いながら返事をすれば、侑里はうんうん。と大きく頷いていた。
俺の話や侑里の話をしていたら結局カフェに長居してしまったが、家に帰って一応姉に「侑里のことどう思う?姉ちゃんのこと気になってるみたいやけど。」って聞いてみたら、姉は「なんかチャラそうやったな」と笑っていた。
「姉ちゃんのライン知りたそうにしてたで。」
「弟の友達となに話すん?気まずいわ〜!断っといて。」
「うん分かった。」
…ということで、侑里ごめんな。
姉も俺と同じ考えのようだった。
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