72 [ 73/99 ]

「ええっとぉ、チャーシュー豚骨ラーメンとぉ、チャーハンとぉ、あとお姉さんのライン聞いていいですか?」

「…ん?ふふっ…ライン?」


注文するメニューが決まると、姉に注文する流れでサラッとラインを聞いている侑里の足を思わずテーブルの下で蹴りつけるが、侑里はヘラヘラした顔で笑っていた。

釣られるように姉もクスッと笑うが、その後困惑するように姉は俺に視線を向けてくる。


「な?言うたやろ?こいつ変態やねん。」

「おまっ、なんてこと言うんや!俺のどこが変態やねん、めちゃくちゃ紳士やろ。あっお姉さん、俺めっちゃ紳士っすからね?」

「紳士って言うんは光星みたいな人のことを言うんやで。」

「はーん、光星さんね。さよか。」


光星の名前を出した瞬間に、ニタニタと笑って頷く侑里。その顔やめろ、とまた侑里の足を蹴ったりしていると姉は「仲良いなぁ〜」と笑いながら厨房の方へ下がっていった。


「まじで可愛いな。ほんまにライン教えてほしい。姉ちゃん紹介してってよく言われん?」

「あっ、そうや、姉ちゃんの先輩のバイトくんどんな人か気になってるんやった。今日は休みなんかなぁ。」

「おい無視すんなよ。」


侑里が姉の話をしている最中、俺は姉が言ってた高校生のバイトくんの存在を思い出して厨房の方を見ていたら侑里に軽く怒られる。

どうやら侑里は真面目に姉のことが気になっているようなので、俺は親切に先日姉が言っていた話を侑里に教えてあげることにした。


「あ、そうそう姉ちゃんな、歳下より歳上が良いって言うてたわ。残念やったなぁ。せやし弟の友達は論外やと思うで。」

「は?恋愛に歳なんか関係ないで?たかだか1年、2年、生まれた年が違うだけの話やぞ?そんなん気にしてたら負けや。」

「うわぁ…侑里強気やなぁ。」

「永遠ももっと強気でいけよ。ほんまは浅見と付き合いたいんやろ?」

「…ちょっと、…ここでそんな話しんといて。お兄さんも居てはんのに…。」

「べつに聞こえへんやろ。」

「ひそひそ話してたら怪しいやろ!」


チラッと厨房の方に目を向けたらまさかの光星のお兄さんがこっちに目を向けており、俺と侑里は同時に厨房から目を逸らして口を閉じた。



「はぁ〜い、おまたせしましたぁ〜、チャーシュー豚骨ラーメンと味玉ラーメンでーす!餃子とチャーハンはもう少々お待ちくださいね〜!」

「はぁ〜い。ありがとぉございます〜。」


数分後にラーメンを運んできた姉に、侑里はにこにこと愛想の良い笑みを向ける。そして、姉が立ち去る背を見送りながらへらへらした顔で「あ〜…ほんま可愛いなぁ。」と呟いていた。


「侑里ほかに知り合いの女の子とかおらんの?やっぱ男子校やから出会いとかないん?」

「出会い?普通にある。他校のサッカー部のマネに告られたことあるで。」

「あるんかい。てっきり無いんかと思ったわ。」

「でもちょっとラインしてみたけどダルなってすぐやめたけどな。」

「うわ、最低や。」

「休み全然無い言うてんのに遊ぼ遊ぼ言われて鬱陶しかってん。」

「あぁ…それはちょっとだるいな。」

「せやろ?俺は人から好かれるより自分から好いた人を追いかける方が向いてると思うわ。」

「……なぁ、姉ちゃんの方ずっと見ながら喋らんといてくれる?」

「永遠の姉ちゃんほんまに可愛いな?」


俺の話が聞こえてないのか、パッと俺の方を見た侑里はまたそんなことを言っていた。前の学校の友達何人かに同じことを言われたことがあるにはあるが、ここまで食い付いてきたのは侑里が初めてだ。


「餃子とチャーハンおまたせしました〜!」

「はぁ〜い。ありがとぉございます〜。」

「ご注文全てお揃いでしょうか〜?」

「あっ、お姉さんのラインがまだっすねぇ。」

「えぇ!?」

「はいはい揃った揃った。姉ちゃん、こいつの言うことは全部スルーしていいからな。」

「あかんて!俺真剣やねん!」

「もうええから!早よラーメン食べ!!!」


侑里は本気で姉からラインを聞く気だったのか、姉を前にして真面目な顔をして言ってくる侑里に一喝すると、姉は困惑しながらまたレジ横へ戻っていった。


そしてズルズルズル、と無言でラーメンを啜り始めた侑里は、モグモグと口を動かしながら姉の方に視線を向けては、次に俺の方を見て、「弟のガードが硬いなぁ。」とぼやかれてしまった。

別に硬くないやろ。普通やろ。侑里の方がタチの悪いナンパ男なだけやと思う。


それから暫くは二人で黙々とご飯に箸を付ける。ラーメンにチャーハン、そして姉に貰った無料券の餃子で結構な量があったのに、空腹だった侑里はバクバクと全て綺麗に食べ切った。


「あ〜美味かった。お姉さーん、むっちゃ美味しかったでーす。」

「おい、アピールやめろ。」


レジ横に立つ姉に向かって侑里がでかい声で感想を告げると、姉は一瞬ビクッとしたものの侑里を見て笑っている。『永遠クセのある友達連れてきたな』とでも思われていそうだ。


今日は侑里に奢ってもらう約束で来たからお会計は侑里に任せていたら、レジ前に立つ姉に伝票を渡そうとしながら侑里が一言。


「お姉さん、俺と友達からお願いします。」


……口説き方がガチすぎる。

もう俺は呆れてしまい、黙ってその光景を見ていると、厨房から出てきた光星のお兄さんが姉の背後でギョッとした顔をしながら侑里のことをガン見していた。


「あははっ、友達からね、うんいいよ。永遠のこともよろしくね。」

「勿論。永遠とはもう親友っすよ。」

「はやっ。まだ最近仲良くなったとこやん。」

「そんなん関係ない関係ない。」


まあ親友と言われて悪い気はしない。
光星以外にも仲良い友達ができて良かった。

侑里が財布からお金を取り出している間、姉はクスッと笑いながら俺に視線を送ってくる。


「良かったなぁ永遠、仲良い友達他にもできて。」

「…うん、まあ。」


そんな俺の友達は今、ギラギラした目で姉ちゃんのこと狙ってるぞ。と思いながら姉の言葉に頷いたら、お金を出し終えた侑里が「お姉さんとも仲良くなりたいっす。」と隙あらばまだ口説き始める。いい加減にしろ。


「お姉さんとも?うーん、じゃあまたいつでも永遠とラーメン食べに来て!」

「はい!毎日来ます。」

「あほ、部活あって行けへんやろ。」

「気持ちは毎日でも行く気でいます。」

「もうお金払ったならさっさと帰るで。姉ちゃんほなな。ごちそうさん。」

「は〜い、二人ともありがと〜。」


手を振る姉に見送られながら、なかなか店から出たがらない侑里の腕をグイッと引っ張りながら店を出た。


帰りの電車に乗ったあとも、侑里はずっと姉のことを聞いてくる。名前は?歳は?趣味は?好きな食べ物は?

これだけあれこれ聞いてくるくせに、一番に聞いてきそうな“好きな男のタイプ”を一切聞いてこなかったから、俺は密かに侑里のことを凄いなと思った。

『恋愛に歳なんか関係ない』って言っていた侑里のことだから、“好きなタイプ”なんて情報は侑里の中では一切不要なのだろう。

このポジティブすぎる侑里の性格を、俺も少し見習いたいものだ。


[*prev] [next#]

bookmarktop

- ナノ -