71 [ 72/99 ]




俺にとってこの学校で初めてのテストが終わり、その後の授業で続々とテストが返却された。どの教科もそこそこ良い点数が取れて、良いスタートを切れたなとわりと満足している。

ちなみに侑里はと言うと、全教科赤点回避できたらしい。当てずっぽうで書いた答えも結構当たってて点が取れたと感謝されたから、テストに出そうな単語を片っ端から侑里に教え込んだ甲斐があった。


無事侑里の補習も免れ、今日は日曜日で侑里の部活が終わった後に侑里に奢ってもらう約束をしていたラーメンを食べに行く予定だ。

部活が終わるのがだいたい12時か13時くらいだという曖昧な時間を言われたから、間を取って12時半頃に学校へ着くくらいの時刻に家を出た。


校門付近で侑里が出てくるのを待っていたら、丁度中からサッカー部と書かれた鞄を持った生徒たちがぞろぞろと出てきたところだった。

背が高い侑里の姿はすぐに見つかり、名前を呼びかけると俺に気付いた侑里が一緒に居た部員と別れて俺の方へ駆け足でやって来る。


「ごめん永遠、おまたせー。」

「うんいいよ。練習おつかれ。」

「おう。あ〜むっちゃ腹減った。」


練習後で腹が減るのも当然で、侑里はさすさすと腹を摩っている。しかし、鞄だけ寮に置いてきていいかと言われたため頷くと、侑里はダッシュで寮の方へ走って行った。勉強はできなくても、運動はめちゃくちゃ得意なんだろうなぁと思いながら、侑里が戻ってくるのをそのまま校門付近で待っていた。

昼からは野球部の練習があるのか、今度は野球部らしき生徒が学校へ入って行く姿をチラホラ見かけ始める。こんなところでまたあいつに出会したくないなぁ…と、顔を隠すよう下を向いてスマホをいじりながら早く侑里戻って来い、と願っていた。

その後凄まじい速さで侑里が戻ってきてくれたから、俺はホッとしながら二人で駅に向かって歩く。姉がトッピング無料券やクーポンを山盛りくれたから、行く先は姉のバイト先のラーメン屋だ。

今朝姉に『今日侑里と昼食べに行くわ』と話したら、『おぉ、噂の変態?楽しみやなぁ』と言っていた。


「今日浅見も誘わんで良かったん?」

「うん、光星とはまた二人で行くから。侑里光星の前でわざとらしい態度取るもん。光星に怪しまれてしまう。」

「えぇ?わざとらしい態度?取ってる?」

「取ってる。光星の方見てふって笑ったやろ。絶対俺が光星のこと好きって話したからやん。」

「え〜?俺そんなんしてた?無意識に笑ってもうたんかな?」

「せやからその無意識が怖いねん!」


ビシッと侑里の腕を叩きながら言えば、侑里はへらへらと笑いながら「ごめんごめん」と謝ってきた。まったく悪いとは思っていなさそうだから今後も侑里が不自然な行動を取らないかヒヤヒヤしそうだ。


駅にはすぐに到着し、lCカードをかざして改札を通り抜けると、電車が行ってしまった後なのか人がぞろぞろと改札に向かって歩いてきてしまった。人の波に流されそうになっていると、侑里の腕がグイッと俺の肩に回され、侑里にグイグイ押されて前へ進む。

ホームへ続く階段を登ろうとしていると、上からデカい野球部の鞄を持った男が降りてきた。なんとなく見覚えがある顔だ。その人は、ジーッとこっちを見ながら横を通り過ぎていく。

野球部を見るだけで、なんかちょっとだけ嫌な予感がした。


「…今野球部っぽい人通り過ぎてかへんかった?」

「ん?知らん、見てへんかったわ。あ〜…電車今行ってもうたみたいやなぁ。」


タイミング悪く行ってしまった電車に侑里はガックリしていたが、俺はそんなことよりも見覚えのある野球部らしき人と出会してしまったことにガックリした。陰で変なことを言われてなきゃ良いんだけど。…俺と侑里が付き合ってる…とか。


そんなこんなでラーメン屋にたどり着いた頃にはもうお昼時は過ぎており、空腹で野球部の人のことなどすっかりどうでもよくなっていた。


店に入ると「いらっしゃいませ〜!!」と姉のデカイ声で迎え入れられる。元気があってよろしいですな。


「あっ永遠!遅かったやん!さっきまでお店混んでてんで。よかったな。好きなとこ座って。」

「うん。姉ちゃんこれ新しい友達。」


レジ横に立っていた姉に侑里を指差しながら紹介すると、姉は愛想良く笑いながら「あっサッカー部の?こんにちは〜」と侑里に挨拶してくれた。良かった、『あ、変態の?』とか言わなくて。家で侑里のことを変態呼ばわりしていることがバレてしまうところだった。


「…うわ、永遠の姉ちゃんばり可愛いやん…」


侑里は姉に向かってぺこっと軽く頭を下げたあと、小声でボソッと俺にそう言ってくる。もっと関西弁丸出しで挨拶するかと思ったら意外とシャイな反応を見せてきた侑里に「そうか?」と返事しながら適当に空いてる席に腰掛けた。


「…姉ちゃん彼氏おる?」

「おらんと思うけど。…え、興味持つんやめてくれへん?」

「姉ちゃん名前なに?ライン聞いていい?」

「興味津々やな!やめてください。」


ヒソヒソヒソヒソと侑里は小声で俺に姉のことを聞いてきた。光星のお兄さんと恋愛されるのも嫌だけど、自分の友達と姉に恋愛されるのはもっと勘弁してほしい。


「ご注文お決まりでしょうか〜?」

「決まったら呼ぶからあっち行っといて。」

「…はぁい。」

「おい、なんで追い払うねん!せっかく来てくれはったのに!」


店に客が居らず暇なのか、呼んでも居ないのに俺が座るテーブルにやって来た姉をシッシと追い払うと姉はトボトボとレジ横に戻っていった。そんな姉のことを侑里がチラチラ視線を向けながらぶちぶち小声で俺に文句を言っている。

姉がまたレジ横に立つと、奥から出てきた光星のお兄さんが隣に並び、会話を始めた。今日は二人とも出勤だったようだ。お兄さんの方を見ていたら目が合って、軽く頭を下げたらお兄さんも会釈を返してくれた。


「は?なんやねんあのイケメンあっち行けや。」

「あの人光星のお兄さんやで。」

「……まじで?」


めちゃくちゃ顔を顰めながら光星のお兄さんを見る侑里は、『光星のお兄さん』と聞くとちょっと顰めっ面がマシになる。『あっち行け』とか言ったあとだから失言だった、というように侑里は口を手で押さえた。


「まじで姉ちゃんクソ可愛いな。もっと早よ教えてくれよ。」

「なんでそんなん言わなあかんねん。」

「永遠ずるいぞ、家帰ったらあの可愛い姉ちゃんおるんやろ?今度遊びに行っていい?」

「あかん。」


侑里の言葉に間髪入れずに拒否したら、侑里にジトーとした目で睨み付けられた。はいはいもう姉ちゃんの話は良いからはよメニュー決め。ってメニュー表を侑里の方へ押し付ける。


ラーメンの他にもチャーハンや餃子やからあげもあってかなり迷っている様子の侑里の元に、また姉がスススと現れた。決まったら呼ぶって言ってたのに。よっぽど店が暇のようだ。


メニュー選びで真剣な顔をしている侑里の手元に、姉はスッと餃子一皿無料券を数枚置いてくる。


「えっ!?」


びっくりしながら顔を上げる侑里に、姉はコソッと侑里の耳元で口を開いた。


「よければまたサッカー部のお友達連れて食べに来てください。」


ちゃっかり営業トークをしにきた姉に、侑里は元気に「行きます!!!」と即返事していた。


[*prev] [next#]

bookmarktop

- ナノ -