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自分の横でどんどん仲が良くなっていく永遠くんと香月。ほんの少し前まで俺は確かに焦りや嫉妬の気持ちを抱いていたはずなのに、なんなんだろう、この感じ…こいつは、俺が嫉妬すべき相手なのだろうか?…と、香月と永遠くんのやり取りを観察しているうちに違和感を抱き、俺の胸の中では嫉妬したり変に安心してみたりとコロコロ感情が変化して忙しい。


確かに二人の仲はかなり良くなっている。それはもう長年の友達みたいに。…そう、“友達みたいに”、だ。

永遠くんの髪のにおいを嗅ぐ香月に、それを嫌がる永遠くん。本気で嫌そうな顔をして、『キモい』とストレートな言葉で罵られているのに、香月はケロッとした表情を浮かべてヘラヘラと楽しそうに笑っている。

どっからどうみてもそれは、仲の良い、遠慮が無い“友達同士”のやり取りだった。


俺は永遠くんにキスしても、ハグしても、『嫌じゃない』と言ってもらえた。自分と香月との差は歴然で、俺への永遠くんの態度の方が俺にとっては好ましい。俺の方が多分、香月よりリードしている。

俺にはそんな自信まであるけど、香月は別に永遠くんのことが好きだと言っておきながら俺と永遠くんを取り合う気などまったく無さそうな様子だ。敵視されている気配など皆無で、寧ろ仲間意識を持たれているような気すら感じる。


それは何故かと考えた結果、俺は思った。

恐らく俺と香月では、好きの種類が違うのだ、と。

純粋に、“人として”という意味で、香月は永遠くんのことが好きだと言ってるんじゃねえかな。



「永遠〜おはよう。浅見も。」

「おう、おはよ。」

「おはよう。テストなんとかなりそうか?」

「わからん。覚えたところが出る事を祈るのみや。」


中間テスト初日の朝から、永遠くんの姿を見つけては話しかけに来る香月。紛らわしい奴だなぁと思いながら、香月は律儀に俺にまで挨拶してくれるから俺も香月に挨拶を返す。


「赤点全教科回避できたらなんか奢ってな。」

「おう、飯奢ったるわ。回避できひんかっても奢ったるで。永遠にはお世話になったしな。」

「やった〜。ほなラーメン食べに行きたい。」

「ええで。今度俺の部活オフの日食いに行こ。」

「うん。」


…いや、やっぱり妬ける。

俺の隣で仲良く会話されると妬ける。

テスト終わったら俺に兄貴とお姉さんのバイト先のラーメン屋行こって言ってなかったか?この前行ったカフェのコーヒーも永遠くん飲みたがってたのに結局行けてねえし、テスト期間に入ってから香月に永遠くんとの時間を奪われっぱなしだ。さすがに嫉妬するに決まってる。

でも、それと同時にいちいち仲の良い友達に嫉妬してたらキリがない、とも思う。結局は、香月の永遠くんへの“好き”が恋愛感情では無かったとしても、永遠くんが俺の恋人にでもならない限りは、ずっとこういう気持ちは抱き続けることになるんだろうなぁとしみじみ思う。





3日間に分けての中間テストは午前中のみで終わるため、永遠くんに昼ご飯をどこかで食べてから帰ろうかと声をかけた。俺の誘いに頷いてくれて、今日はもう香月に勉強を教えるとか言い出さなかった永遠くんにホッとする。俺だってもっと永遠くんと一緒に居たい。


テストが終わるとクラスメイトたちはあの問題の答えはなんだとか、この問題が難しかったとか話している中で、永遠くんはお腹をさすって俺の方へ振り向いてきた。


「あ〜…お腹減ったぁ。テスト中お腹鳴りそうになって大変やったわ。」

「テストできた?」

「うん、できた。」


…さすがだな。お腹の心配はしてるけどテストの心配は全然してなさそうな永遠くんに感心する。多分、この学校で特進と言っても、永遠くんの前居た学校に比べたら随分レベルが下がったんだろうなぁと俺は薄々感じている。


「あ〜…今日は冷やし中華の気分やなぁ。」

「食堂で食って帰る?」

「うん、そうしよ。」


帰る支度をして教室を出ると、永遠くんはスポクラの方が気になるのか、俺の身体に隠れるように歩き始めたものの教室の中を気にするようにチラチラ視線を向けていた。


「永遠くん香月が気になんの?」

「うん、侑里ちゃんとできたかなぁ?」

「声掛けてから行くか?」

「…うーん…、ええわ。」


香月と喋りたそうにしているのに、永遠くんはそのままスポクラの教室を素通りしようとした。けれど、「永遠!」と教室の中から香月の永遠くんを呼ぶ声が聞こえてきて、永遠くんは振り向き、足を止める。


「永遠が教えてくれたとこむっちゃテストに出てきたわ!英語今までで一番できた気ぃする!ありがとうな!」

「ほんま?よかったよかった。明日の数学も頑張ってな。」

「おう!」


くしゃくしゃと永遠くんの髪を撫でながらお礼を言う香月に、永遠くんは笑顔で頷く。やっぱり俺は、そんな光景を見てモヤモヤするし嫉妬もする。香月は永遠くんのことどう思っているのかを、はっきりちゃんと聞いてみたい。


黙って二人のやり取りを見ていたら、チラッと香月の目が俺に向けられた。


「あ、ごめん。どっか行くとこやった?」

「うん、食堂でご飯食べて帰んねん。侑里も食べて帰る?」

「え?…あー…ううん、俺はええわ。」


俺の顔を見て一度ふっと笑ってきた香月が、ポンポンと俺の肩に手を置いて何故かにこやかに笑いながら手を振りながら去って行った。


それは何の笑いだよ?と香月の背中を目で追っていたら、「ちょっと侑里!!」と何故か永遠くんが顔を真っ赤にして怒ったように香月の後を追いかける。


「ん?なんやねん?」


永遠くんの声に香月が振り向くと、永遠くんは香月の鞄をバシバシと叩きながらコソコソと会話をし始めた。


「えぇ?不自然やった?ごめんごめん。」

「ちょっと!声でかい!」


『声でかい』と言っている永遠くんの声が一番でかくてこっちにまで聞こえてくるが、何の話をしているのかまでは分からずモヤモヤする。

わざとらしく自分の口を塞ぎながら喋っている香月が再び永遠くんとの会話を終わらせて去って行くと、永遠くんはまだ顔を赤くしながらちょっとツンとした怒ったような態度で俺の横に戻ってきた。


「何話してたんだ?」

「…なんでもない。」

「え〜、気になるんだけど。」

「なん!でも!ないっ!」


この一瞬でなんでこんなにプンスカしてるんだ?と不思議に思うくらい、永遠くんは顔を真っ赤にしている。

俺は二人の会話の内容が気になってしょうがないのに、永遠くんは暫くプンスカしたまま俺には話してくれなかった。

香月は一体、永遠くんに何をしたんだろう。

やっぱりまた俺は永遠くんと香月のやり取りを見ていると胸がモヤモヤして、嫉妬してしまうのだった。


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