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テストが終わればさっさと家に帰る生徒が多いため、食堂を利用している生徒はまばらで、テーブルは空席が多かった。

そんな食堂で俺と向かい合って冷麺を食べていた永遠くんが突然、食堂の入り口をちらっと見た後にボソッと口を開き、俯く。


「…うわ、最悪…。あいつら来よった。」

「ん?あいつら?」


俺は入り口に背を向けて食べていたから振り向いてその人物の姿を確認すると、佐久間を含む野球部の奴らが数人で食堂へ入ってきたところだった。そして、振り向かなければ良かったとすぐに後悔する。

すでに佐久間がこっちを見ながら連れとコソコソ何か喋りながら笑っていたからだ。俺はいつまであいつのネタにされ続けなければならないんだろう。自意識過剰かもしれないが、声が聞こえてこなくてもどうしても俺のことを話されている気がしてしまう。


「…もう俺あいつ嫌や。いちいち顔合わせたら絡んでこられるし…。俺のこと嫌いなんやったらほっとけばいいのに感じ悪すぎる。」

「…えっ、…永遠くん絡まれんの?」


永遠くんがいつもスポクラの教室を苦手そうにしていたのは知ってたけど、しゅんと肩を窄めて姿を隠したがるようにボソボソと佐久間への不満を口にする永遠くんに少し驚いた。佐久間の感じ悪さを向けられているのは俺にだけだと思っていた。

もしかしてあいつ、俺の気持ちを永遠くんに勝手にチクってたりしていないだろうな…?と嫌に心臓がドキドキする。永遠くんにはいずれ告白したいと思っているのに、佐久間の口から面白おかしく喋られたらたまったもんじゃない。


「……先週侑里と教室で勉強してた時邪魔された。なんか変なことも言われたし…。」

「……変なこと?」


ドクドクとうるさい心臓の音を落ち着かせようと呼吸しながら永遠くんに問いかけるが、永遠くんは黙り込んでしまい、『変なこと』が何かは言ってくれなかった。

こんな嫌な感じにドキドキするくらいなら、もういっそのこと俺の口からさっさと永遠くんに告白してしまう方がまだマシかもしれない。


永遠くんはその後黙ったままズルズルと冷麺を啜り始めてしまったから、あんまり無理に問い詰めるのも良くないと思い、諦めて口を閉じた。


佐久間たちは注文カウンターの方へ向かい、昼食が出来上がるのを待っていたから、俺と永遠くんはその間にさっさご飯を食べ進めた。多分永遠くんは早く食堂から立ち去りたいのだろう。せっかくの永遠くんとの時間をこんなふうにあいつに邪魔されるなんて。


こんなことになるなら、上辺だけでもあいつと仲良くしておくべきだっただろうか。なんて、今更考えても仕方のないことまで考えてしまった。

自分からあいつとの縁を切ったくせに、こうなることをまったく考えなかった俺がバカだった。


「…ごめんな、永遠くんに嫌な思いさせて。俺の責任だわ。」

「なんで?謝らんといて。光星はなんも悪ないで。あいつの性格が悪いねん。あいつ人のこと言えへんやん、俺より絶対あいつの方が性悪や。人の顔見てニヤニヤニヤニヤしてなにがおもろいねん。お前の顔の方がおもろいわ。」


むすっとした顔で佐久間のことを話す永遠くんは、普段はあまり聞いたことがなかった分、話し始めたら止まらないくらいに佐久間の愚痴がぽろぽろと永遠くんの口から溢れてくる。


「光星の前でこんなぐちぐち人の悪口言いたくないのに…。」


ムッと唇を尖らせて、上目遣いで俺を見てくる永遠くんがあまりに可愛かった。こんな空気の中でこんな感情を抱くのは場違いだと思いつつも、可愛い永遠くんの頭に手を伸ばしてくしゃっと髪を撫でてしまった。


「永遠くんは何しててもかわいい。」

「…なに言うてんの、かわいないやろ…。今俺人の悪口言うててめっちゃ性格悪い顔になってるわ。」

「ううん、なんか顔赤くなってきた。かわいい、照れてる?」

「えぇ、うそやん…嫌や、もう見んといて。」


じんわりと赤くなってきた永遠くんの顔のことを口に出して言えば、永遠くんはテーブルに顔を伏せてかわいい顔を隠してしまった。

隠されたのは残念だけど耳まで赤くなってきていることに気付いて、その行動もまた可愛くて、再び永遠くんの髪をくしゃっと撫でる。永遠くんを見ていると自然に頬が緩んでくる。


佐久間の存在さえ無ければ、俺の楽しい恋愛の真っ只中なのに、チラッと目線を動かして佐久間の姿を確認すると、やっぱりあいつはニヤニヤと面白いものを見るような目でこっちを見ていたから、心底あいつの存在にうんざりしてくる。


別にそんな面白がるように見なくたっていいのに。ただ単純に俺はこの人のことが好きってだけなのに。俺の恋愛は、他人から見ていてそんなに面白いものなのか?


あいつの存在を気にし始めたらもう居た堪れなくなってしまい、サッと永遠くんの頭から手を離した。


「…じゃあ、飯食い終わったしそろそろ出るか。」

「…うん、そやな。帰ってはよ勉強しな。」


俺がそう声をかけると永遠くんはおぼんを持ってすぐに席から立ち上がった。そして、早くここから立ち去りたそうに早足で食器の返却口へと向かって行く。


迂闊だったな。永遠くんがこんなにも佐久間の存在を気にしているなんて。俺がもっと気にかけるべきだった。


もうあいつとは二度と話すこともないだろうと思っていたけど、永遠くんが嫌な思いをしているのならそういうわけにもいかない。


元友人として言いたいことがあるのなら永遠くんではなく俺に直接言ってくれって、俺はこの時再びあいつと話してみることを決意した。


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