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翌日の登校中、さっそく俺は昨日姉から聞いた話を光星にも語りかけた。


「姉ちゃんらのバイト先に高校生のバイトくんおるん知ってる?」

「え、ううん。聞いたことねえわ。」

「姉ちゃんの一個下やって。俺らの一個上やな。」

「じゃあ受験生じゃん。バイトやってていいのかよ。」

「知らん、いいんちゃう。」


確かに受験生だけど顔も名前も知らないバイトくんの事情はわりとどうでも良くて、適当にサラッと流して本題に移らせてもらった。


「テスト終わったら今度そのバイトくん見にラーメン屋行かへん?」

「うん良いけど。なんで?気になるんだ?」

「姉ちゃんがキャッキャしながらその人のこと喋ってたからどんな人なんかちょっと気になるねん。」

「えっもしかしてお姉さんそのバイトくんのこと気になってんの?」

「いや、そういうんじゃないけど。俺が気になってるだけ。」


姉の話によると、普段はクール?な感じだけどかわいい…?っていうそのバイトくんがどんな感じの人なのかがただほんとに少しだけ気になっただけだった。

そこまで話したところで、光星は何も言わずにチラッと俺に目を向けてきた。「ん?」って光星を見返したら、光星は徐に口を開く。


「永遠くんってさ、やっぱちょっとシスコンっ気あるよな?」

「えっなんでそうなるん!?ないって!!」


光星に言われたことに顔がカァッと熱くなり、必死になって言い返したら光星はクスッと笑って「そう?ごめんごめん。」と謝ってきた。

シスコンって姉ちゃんのこと好きすぎることやろ?俺光星のこと好きやねんで?って言いたい気持ちで光星のことをじとりと睨みつけたら、それ以上はもう何も言われなかった。でも顔が笑ってるから、まだ全然信じてもらえていなさそうだ。

俺の前の学校の友達にも結構言われてたけど、俺って姉ちゃん姉ちゃん言い過ぎなのかも。でも引っ越してきて知人も減った環境で、光星に話す内容って言ったら家族の話が多めだ。

もしかしたら前以上に姉ちゃんの話してたのかもなぁ…って、今後は少し控えようと思った。



授業では今日も応用問題の解説を早足で行っているが、別にわざわざテスト前に教えなくても良いような応用問題を早足になりながらも解説してくるってことは、テストに出るからやろうなぁ。とぼんやり考えながら解説を聞いていた。

でもテストに出そうな問題やからって侑里に教えたところで絶対解けへんやろなぁ。って結構失礼なことを考えながらふとあることに気付く。


………あ、もしかして特進とスポーツクラスはテストの内容違うんかな。


今更ながらにそんなことに気付き、休み時間に光星に聞いたらまさにそうだった。


「普通科とスポーツクラスが同じテストで、特進のテストは難しくしてあるらしい。」


光星からそう聞いて、俺はもしかしたら侑里に教えなくていいことまで覚えろって言ってしまったかも、って思っていたらそれもまた大当たりだった。


「おい永遠ぁ!!この問題なんやねん、絶対基礎ちゃうやろ。めちゃむずやぞ。」

「あ、やっぱり。」


俺がまとめたプリントを持って、侑里が特進の教室にズカズカと躊躇いなく入ってきた。


「ごめん、テストに絶対出ると思って一応書いといたんやけど特進だけみたいやわ。」

「んもぉ、永遠うっかりさんでかわいいな。」


侑里にからかわれているのか、椅子に座っていた俺の肩にだらんと腕を回して、顔を覗き込むように近づけながらぺしぺしと俺の頬を微力で叩いてきた。


「近い近い、顔近いねん。」

「あ、明日どこで勉強する?俺の家来る?」

「みッ、耳元で囁くなや!ゾワッとしたやろ!なんか言い方やらしかったし!」


『俺の家来る?』って急に俺の耳に口を寄せて言ってきたから、反射的に背筋がゾゾッとした。

咄嗟に手が出て侑里の顔をグイッと向こうに押しやったが、俺の反応に侑里はケラケラと笑っており、完全に遊ばれている。


一度は遠ざけたのにまたサッと顔を近付かれ、頬に息がかかりそうなくらいの近さで「じゃあ明日俺の家で勉強な。」って再び囁いてきた。


「もうわかったわかった。勉強できたらどこでもいいわ。」


シッシと侑里を振り払いながら呆れ気味に言うとようやく侑里は俺から離れ、「うぇい〜、んじゃ永遠ちゃんよろしくな〜」とぐしゃぐしゃに俺の髪を撫でてから去っていった。


「髪の毛ボサボサなったやんか。」


後ろを振り向いて去って行く侑里の背中を眺めながら、髪を手櫛で整え文句を口にしていると、自分の席から頬杖をついてこっちを見ていた光星と目が合う。


「永遠くん香月に触らせすぎ。」


不機嫌そうな声色で言われ、思わず「えっ?」て聞き返してしまったけど、光星はそれ以上何も言わずに俺から目を逸らし、下を向いて手元にあるノートを見ていた。


触らせすぎっていうか、ただ侑里が勝手にべたべたしてきただけやねんけど。っていう言い訳を心の中でしながらも、俺はその後口元を手で隠して、一人でにやにやとにやけてしまった。


光星それもしかして嫉妬ちゃうん。
『触らせすぎ』とか普通言う?
なんか俺の彼氏になったみたい。

『触らせすぎ 』とか言うてるけど光星が一番俺のこと触ってるから、光星も俺に対して独占欲出てきた?

なぁ?なぁ?なぁ?なぁ?

俺のことどう思ってるん?


…好きって言うて欲しいなぁ。


光星のたった一言から、俺は光星の気持ちをあれこれ自分に都合良く考え、授業が始まっても暫く俺のにやけはおさまらず、机に肘をついてずっと自分の口を手で押さえていた。



でも、授業中ずっと浮かれていた俺だったけど、授業が終わるともう光星は元通りの態度に戻っていた。

「最後の問題難しかったー。永遠くん分かった?」とかケロッとした顔で話しかけてくる光星に胸が一気にムカァ!とする。


さっきの嫉妬みたいなのはなんやってん。
すーぐ元に戻って、さっきの態度はただの気まぐれやったんか?
いい加減にしろ、俺に期待させるな。


一人理不尽に内心キレながら、八つ当たりするように「全然分からんかった。」と嘘をついて返事をした。

光星の気持ちを考えることに比べたらそんな授業で習う問題なんか簡単や。答えが用意されてるんやからちょっと考えたらわかるやろ。…って、誰かに聞かれたらそういうところが腹黒なんやって言われそうなことを口には出さずに心の中だけで思う。

べつにいいやろ、心の中でくらい好きに思わせろ。人への悪意を表に出して、悪口言うてる奴よりマシや。


以前佐久間に腹黒とか言われたけど、実はあながち間違いでもなかったりする。ちょっと自分に都合が良くないことが起こると、腹の中は真っ黒だ。

でもその代わり、都合が良くなるとすぐ真っ白に戻るから光星もっと俺に好きっていう態度を見せて。俺は光星が自分と同じように俺のことが好きやったら嬉しい。

お互い男で、友達で、こんな恋はおかしいかもしれんけど、光星とおんなじ気持ちなだけで俺は十分嬉しいから。


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