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「さっき浅見と永遠くんが手繋いでるとこ見たんだけど。もしかしてもう付き合ってたりすんのかな。」


部活の練習試合が終わった後、同じスポクラでサッカー部の友人が興味津々でそんな話題を口にしてきた。


「浅見光星の片想いなんだろ?そのやり取りだけ見て付き合ってるっつーのは気が早いだろ。」

「あー…だよな。」


タオルで汗を拭い、水分補給しながら友人の話に淡々と返事をすると、友人は少し顔を引き攣らせながら頷く。


今スポクラの一部の奴らの間で浅見光星と永遠の事をよく噂されている。

浅見光星が転校生に一目惚れしただとか片想いだとかを佐久間が得意げに話しており、それを聞いた周りも面白がってあんなやつのどこが良いんだとか浅見くん趣味が悪いだのホモだとかも言っている会話が聞こえてきて胸糞悪い。

前まで散々浅見光星からノートを借りてお世話になっていたくせに、佐久間の凄まじい手のひら返しは正直ダサすぎて笑える。


浅見光星からノートを借りられなくなった現在、佐久間は先生に提出物の件で『最近いい加減に書いて提出してるだろ』と注意されており、俺は良い気味だと気分がスッキリした。

これは、俺の1年の頃から溜まり続けていた佐久間への鬱憤を、永遠が晴らしてくれたようなものだった。永遠には尊敬の念と好意を抱く。


スポクラは勉強しないバカクラス、授業も聞かずに寝てばかり、提出物もいい加減。『スポクラは』って、一纏めに言われることにずっと腹が立っていた。

スポクラにだって勉強できる奴はいるし、俺みたいに運動しか取り柄がないバカだけど授業はちゃんと聞いてる奴だっている。頑張りくらいは認めてほしいのに、『スポクラは』って決めつけられたら俺はそのやる気すら削がれてしまう。


毎日毎日特進の友達からノートを借りて、得意げに“やった気”になってる佐久間を見ていたら、俺の頑張りってなんなんだ?って、毎日毎日煩わしく思っていた時だった。



『いっつもいっつも友達からノート借りて、スポーツクラスは全然勉強せえへんあほなやつばっかなんやなぁっていう偏見持つけどええんか!?そこに部活と勉強両立させてて、頑張ってるやつもおるかもしれんのにお前一人の所為でそんな偏見持つけどええんか!!』


永遠が佐久間に発したその言葉は、正に俺の“誰かに言って欲しかった言葉”そのものだった。


自分よりも大きい佐久間を見上げて、強気に訴え掛ける永遠の目に惹かれ、俺は永遠をかっこいいやつだと思った。仲良くなりたいと思い、それからはずっと話しかけるタイミングを窺っていた。


いつも浅見光星と一緒にいるなぁとは思っていたけど別に浅見光星が一緒でも俺にとってはどうでも良くて、早く永遠と喋ってみたかった。



『香月って最近永遠くん狙ってんの?』



元々佐久間とは折り合いが悪く、俺が佐久間を気に食わないのと同じように佐久間も俺に何かと難癖つけてくるようなことはよくあったが、さっそく佐久間はニヤニヤと面白いネタを見つけたように俺にそんな言葉を向けてきた。


『はい?』

『お前らなんか三角関係っぽくなっててウケんだけど。』

『お前は最近そういう話ばっかしてるけど楽しい?』

『おう、めっちゃくちゃ楽しい。光星お前の登場に今頃すげー焦ってるだろうな?』


佐久間はそう言って浅見光星の気持ちを勝手に想像し、愉快そうに笑っていた。率直に浅見光星に対して思ったことは、『気の毒』だった。

友人だったからこそ、永遠への気持ちを佐久間に話していたんだろうけど、友人じゃなくなった瞬間周りに面白おかしく言いふらされ、佐久間にほいほいノートを貸していた浅見光星のことも俺はどちらかと言えば佐久間同等に気に食わない存在だったけど、ただただ今は『気の毒』だと思う。


『俺にはアレのどこが良いのかさっぱりだけど。まあ頑張れよ、応援してるわ。』


ニヤニヤと嘲笑うように笑いながら何が『応援してるわ』だ。態度も発言も腹が立つけど一番腹が立ったのは永遠をアレ呼ばわりしていることだ。


『お前自分が永遠に言い負かされて気に食わねえのかしんねえけど腹いせも大概にしろよ?』

『あ?腹いせ?言い負かされたって、別にあいつに言い負かされた覚えねーんだけど。あーウケる、さっそく熱くなってるし。永遠くんも良いご身分だなぁ。』


佐久間はそれ以上俺と話す気は無さそうで、最後まで嫌味な態度で好き勝手言い残して去って行った。


完全に永遠と浅見光星、それに俺を含めた関係を傍観して、楽しんでいる。

せっかく奴への鬱憤が晴れたと思っていたのに、次から次へと俺を不愉快にしかさせない野郎だ。不快なのは足のにおいだけで勘弁してくれ。





「野球部の奴らさぁ、侑里と浅見と永遠くんで三角関係とか言って楽しんでるけど侑里は別にそんな気ないよな?」

「俺がそんな気あったら変か?」

「えっ…、」


友人からの問いかけに俺が逆に聞き返すと、言葉を失ったように友人からは何も返ってこなかった。


「可愛いよな、永遠って。頭良くて、勉強も教えてくれて、申し分なくね?なんかおかしいか?俺が永遠のこと好きだったら変か?」

「…いや、べつに…変ではないけど…。」


友人は明らかに返事に困っていた。こいつも変ではないと言いつつも、本音はどうか分からない。

結局こいつも、永遠を好きな浅見光星のことを物珍しいものを見る目で見ていそうだ。永遠を好きなことの何がおかしい?男だからか?

かわいい、かっこいい、惹かれる理由は誰だっていろいろあるのに、世間はなんでも偏見の目で見てばかりだ。

俺はそんな偏見が煩わしくて、ついつい逆らいたくなってくる。


「三角関係?上等。俺だって永遠が好きだよ。」

「…え、まじで言ってる?」

「お望み通り、あいつらもっと楽しませてやるわ。」


佐久間を筆頭に、気に食わない奴らに向けての宣戦布告するような俺の発言に、友人は『こいつ何考えてんの?』って言いたそうに俺を見ながらも、もう何も言ってこなかった。


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