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「香月(かつき)くんって言うんやって、あのサッカー部の人。かっつんやなー、かっつん。」


侑里くんからラインで苗字も聞き、勝手にあだ名を考えながら昼休みに光星と食堂へ向かっていたら、丁度数メートル先に俺たちと同じく食堂へ向かっているのか侑里くんが賑やかに友達数人で歩いている姿を見つけた。


「あっ、侑里くんや。友達もスポーツクラスのサッカー部かなぁ。みんなで居はる時は話しかけにくいなぁ…。」

「あー、スポクラっぽいなぁ。その香月くん?って人以外は大体知ってる奴だわ。」

「ふぅん、そうなんや。」


友達ができたと言ってもスポーツクラスと特進じゃ、なんとなく自分の中で隔たりを感じる。一緒にいる友達みんな運動神経良さそうだ。

やっぱり光星と居るのが落ち着くなぁ…、と光星の横顔を見上げると、俺の視線に気付いた光星が「ん?」と首を傾げてきた。


「声掛けに行く?」

「ううん、ええわ。お腹減ったしはよ食堂行こ。」


そう言いながら光星の腕を掴んでグイグイ引っ張り、光星の身体に隠れて俺は侑里くんたちの横を通過した。

やっぱりスポーツクラスの人には苦手意識を持ってしまっている。俺のこと良く思ってなさそう、っていう勝手な思い込みだ。


けれど、自分からわざわざ声を掛けなくてもまた機会があれば侑里くんに話しかけよう。くらいに思っていたら、侑里くんが居るグループを抜かした直後に背後からまだ聞き慣れない声で「永遠」と名前を呼ばれた。

振り返ったら侑里くんが俺に向かってひらひらと手を振りながら歩み寄ってくる。こんなタイミングで向こうから声をかけられるとは思ってなかった。名前を呼ばれるのは嬉しい。『永遠永遠っ』って俺の名前を呼んでくれる前の学校の友達を思い出してしまった。


「侑里くん、さっきぶりやな。」

「君いらんよ、侑里でいいよ。」

「分かった、侑里な。」


侑里の後を追い、一緒に居た3人の友達も俺の方を見ながら歩み寄ってくる。1人は途中で光星に視線を移し「浅見久しぶり」って光星に声をかけていた。中等部時代の元クラスメイトとかなのかもしれない。


「食堂行くだろ?一緒に行こうぜ。」

「…え、でも友達は?」

「え?あぁ、まあいいんじゃねえの?」


良くない良くない。侑里が良くてもお友達は嫌かもしれんで?って侑里の友達の方へチラッと目を向けていたら、侑里も俺の視線の先を追うように友達の方へ目を向ける。…と思いきや、侑里が見ていたのは友達の一人と喋っていた光星だったようだ。


「あいつ光星って奴だったよな?浅見光星。」

「そやで?光星がどうしたん?」

「佐久間が教室であいつの噂してた。」

「噂?どんな?」


コソッと少し声のボリュームを下げて侑里はそんな話をしてきた。気になって話の続きを促すが、侑里は「んー。」と声を出すだけで話そうとはせずそのまま無言で前を向く。


「えぇ?なんなん、気になるやん。」

「つーか浅見って確か前は佐久間と仲良かったよな。今そうでも無さそうだけど。」

「…俺と佐久間の言い合い聞いてたんやろ?…俺が二人が仲違いした原因やで。察して?」

「あーやっぱそういう系なんだ。」


侑里は俺の発言に納得するように頷く。そういう系ってどういう系だ。もう佐久間の存在をできるだけ思い出したくないから『佐久間』と聞くだけで耳が痛い。


「うん。せやから俺も多少罪悪感あるし、そこはあんまり触れんといて。」

「あーごめん。ちょっと気になってたから。」

「あいつと同じクラスやもんな。俺のことまだ何か言われてそうやなぁ…。」

「んー…。」


うわぁ…図星やったかな。俺のぼやきに、侑里はそう声を出すだけで何も言ってはこなかった。これだからスポーツクラスに関わりたくないのだ。自分が一部の人からよく思われてないという事実を目の当たりにしそうだから。


せっかく仲良くなったばかりの友人と会話をして、楽しい気分になるはずがズーンと気分は落ち込んできて、下を向きながら歩いていたら俺の背中に突然ふっと暖かいものが包み込んだ。

顔を上げれば光星が背後から俺の肩を抱いて横から顔を覗き込んでくる。目が合ったらすぐに光星の腕は俺から離れていき、何も言わずに俺の隣に並んだ。

短い時間だったからちょっと残念。もっとぎゅっとされていたい。横に人がいる中でそんなこと言っていられないけど。

光星テンション下がってた俺のこともしかして心配してくれた?大丈夫やで、話の内容にテンション下がっただけで侑里くん自体は良い人そうやから。

心の中でそう呟いていたら、横で俺と光星の様子を見ていた侑里が「なるほどなぁ…。」と小声を漏らす。

ん?何がなるほどや。
侑里くんちょっと意味深な発言しすぎやで。


「あ、浅見くん俺も一緒に飯食って良い?」


すぐに思い出したように光星にそう確認する侑里に光星は「俺は良いけど」とチラリと俺を見てくる。

だから俺は、いつのまにか俺たちの真後ろに来ていた侑里の友達3人に目を向けた。


「…俺も良い?」

「えっ、あっうん。俺はいいよ。」

「うん、俺も。全然。」

「うん、俺も。」

「良かったぁ、ありがとう。」


心の中でどう思っているかまでは勿論俺には分かるはず無いけど、侑里の友達たちから好意的な返事をもらえて、俺はとりあえずホッと一安心した。


「永遠可愛いなぁ。スポクラ来ねえ?癒しだわ。」


侑里の友達にお礼を言いながら歩いていたら、突然俺の肩にだらんと腕を回して凭れかかってきた侑里にそんな言葉を向けられる。

同時にわしゃわしゃと犬を撫でるように髪をかき混ぜられ、多分動物のような扱いをされている。今の発言も冗談だろうから特に俺の返事は求めている様子もなく、「てかスポクラってなんか泥くせーよな。スポクラの教室ってなんであんなくせーの?」といきなり友達の方を向いてぼやき始めた。この人気分屋なのかな。


「窓閉め切った教室って悲惨じゃね?あれどっから湧いてくる臭い?臭すぎんだけど。気付いたら教室が部室みたいな臭いしてくる時あるよな?くせーのは部室だけで勘弁してほしいんだけど。」

「うわぁ、なんかこの人いきなりぶちぶち言いはじめはったで。」


侑里が友人たちにスポーツクラスの不満を話し始めた隙に俺は侑里の腕から抜け出し、ススッと光星の方へ寄ると、光星は話を聞きながら静かに笑っている。


「特に野球部足くせーんだよ!あいつらクセーくせに集団で靴下脱いで干してただろ。さすがにこの前の雨の日キレそうになったわ。」

「あーあれガチ臭かったな。」

「先生に靴下干すなって怒られてたぞ?」

「まじ?先生もっと怒れって。」


だんだんヒートアップしている侑里の口から溢れる愚痴に、思わず「こわ。」と漏らしてしまった。野球部の人が聞いたら普通に怒らせてしまいそうなことをこんな廊下で堂々と…。


「次教室にクセー靴下干しやがったらゴミ箱に捨ててやるからな。」

「…侑里くん怖い。」

「ん?怖い〜?永遠には優しいから安心してな〜」


侑里はボソッと口にした俺の声を拾い、にっこりと笑いながら再び俺の肩に腕を回して、わしゃわしゃと髪を撫でてきた。

安心してと言われても、この人の本性はまだまだ全然分からないなぁと、俺は逆に侑里のことが怖くなった。


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