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学校に到着して光星と校舎を歩いていたら、肩にサッカー部と書かれた鞄をかけている生徒が俺の横を通過した。
しかし抜かされた直後にその人はチラッと振り向いてくる。瞬時に俺は、恐らくその人がスポーツクラスの人だと思い、光星の背後に隠れようとギュッと光星のブレザーを掴んだ。
「ん?」
「あ、ごめん。」
スポーツクラスの人を見ると反射的に光星の後ろに隠れてしまうクセがついてしまった。いきなり光星のブレザーを掴んでしまったことに謝っていたら、チラッと振り向いてきたその人が歩く速度を落として俺の隣に並んでくる。
「キミ片桐くんだよな。」
「え、…はい…。」
びっくりした…、光星がいるところでスポーツクラスっぽい生徒に話しかけられたのは初めてだ。頷いたら彼は俺の隣を歩きながら「すげーよな、片桐くん。佐久間に大口叩いてただけのことあるよな。」と俺は喧嘩を売られているのか、その人は突然俺に向かってそう話してきた。
「佐久間がなに?」
そんな時、光星が戸惑う俺の身体をグイッと壁側に押しやって、俺を守ってくれるように棘のある態度で口を挟んでくれる。
「え?いや、片桐くんだよな、シャトルラン100回いったっていう特進クラスの人。すげえなぁって。」
「……え、……バカにされてる?」
「えっ!?なんで!?してないしてない!」
佐久間の名前が出てきて、次に突然スポーツクラスらしき人にシャトルラン100回を凄いって言われ、何が言いたいのか分からずついボソッと口を開いたら、その人は手をブンブン振りながら否定してきた。
「そういう自分はシャトルラン何回なん?」
「俺?153回。」
「は!?えぐ!すっご!えっほんま!?」
「えっ、ほんまほんま。」
まさかの回数に驚愕していたら、彼は俺の反応に爽やかに笑ってきた。こんなにすごい回数いってる人が俺の100回をすごいだなんて、やっぱりバカにされているとしか思えない。
俺の隣を歩く光星も眉間に皺を寄せながら訝しむように無言で彼の話を聞いている。
「俺推薦でスポクラに入ってるしこれくらいいっとかねえと顧問に何か言われるから。あと勉強も。バカなりに一応頑張ってるよ。」
その人は俺の顔を見ながらにこっと笑い、「じゃ。」と軽く手を振りながらスポーツクラスの教室に入っていった。
「…あの人結局何が言いたかったんやろ?喧嘩売られてるわけでは無いんかな。」
「……さあ。あんま気にすんな。」
「うん。大丈夫。」
光星が庇ってくれるような態度取ってくれたの嬉しかったな。あの人の口から佐久間っていう名前が出たとき変にドキッとしたけど、今の人からはそこまで俺に向けての嫌悪は感じなかった。
何を言いたかったのかはよく分からなかったけど、光星が言うように気にしなくていいかな、って俺も光星の後を追って教室に入った。
「光星さっきの人知ってる?」
「ううん、中等部の頃は居なかったし高等部からの外部生だと思うから俺もよく知らねえや。」
席に着き、中等部からここの学校の光星なら名前くらい知ってるかも、と思って聞いてみたけどどうやら光星も知らないらしい。
「まあいいか。そこまで悪い人でも無さそうやったし。」ってその時はすぐにどうでもよくなった俺だったが、彼は再び俺の目の前に現れた。
休み時間、自分の席で中間テストの範囲にマーカーを入れていた俺のノートを覗き込んできた人が現れ、驚いて顔を上げるとそこに居たのは今朝のサッカー部の人だった。
「うわぁ!びっくりした!なに!?」
「あ、ごめんごめん。廊下から片桐くん見えたから。すげえな。勉強してんの?」
「…え、テスト範囲確認してただけやけど。」
『すげえな』って言われるようなことはべつにしていなかったけど、机に腕までついてサッカー部のその人は俺のノートを興味津々で見つめてきた。
「俺この前片桐くんが佐久間と言い合ってるとこたまたま通りかかって話聞いてたんだよな。スポクラは全然勉強せーへんあほなやつばっかーとか片桐くんが言ってたところ。」
「えっ、待って!?それ誤解!全員がそうとか思ってないで!?」
俺のノートを眺めながら話してくるこの人のまさかの以前口にした自分の発言に、俺は弁解したくて慌てて口を挟んだら、焦る俺に対して「分かってる分かってる」と楽しそうに笑ってきた。
「でも実際スポクラってそういうイメージ持たれてんだよな。先生すら教師同士でスポクラの子は寝てばかりでーって嘆いてたの聞いたことあるし。」
「…そうなん?ごめん、俺転校してきたばっかであんま知らんねん。…佐久間に言うた事は、先に偏見で物言われてムカッときたから…」
「あれだろ?京都人腹黒ーってやつ。」
「うわ…、話ほとんど聞かれてるやん。」
「うん、全部聞いてた。京都に限らずどこにでも性格悪い人は居るし、優しい人だっているよな。」
その人はそう言って俺と目を合わせると、にこっと優しい笑みを浮かべた。…あ、この人は優しそうだな。…って、俺は直感でこの人にそんな良いイメージを抱く。
「…うん、そう。俺もそれが言いたかった…。スポクラにだって勉強頑張ってる人居るかもしれんのに、印象悪い人が目立ってると全員がそういう風に見られそうやなって…。」
今更自分の発言の言い訳をするようにボソボソと下を向いて話したら、目の前の彼は俺の机に身を乗り出して、俺の顔を覗き込みながら頷いてくる。
「それよ、それ。片桐くんの話聞いてて俺まじ救われたわー。一応授業もちゃんと聞いてるし、予習とかだってできる範囲でやってんだけどさー、どんだけ頑張ってても頭がわりぃから結局授業中寝てたり人のノート写して提出物出せてる奴とかと一緒くたにされてしまうわけよ。まじやってらんねえよ。」
この人はこの人でスポーツクラスに不満を持っていたようで、ポロポロと愚痴をこぼした。
名前も知らないこの人とすっかり話し込んでしまっているが、変に気を使うこともなく話しやすい。学校で光星以外の人とこんなに話したのは初めてだ。なんかちょっと嬉しい。
「そうなんや。部活やってたら時間も限られてるもんな。俺で良かったら勉強教えられるしまた声かけて?」
「え〜まじで?すげーありがたいんだけど。ライン聞いていい?」
「うん、いいよ。」
気付けばスーパーマンのような体勢になりながら俺の机に上半身を預けてポケットに入れていたスマホを取り出す。
「自分やんちゃやなぁ。俺のノートの上普通に乗っかってんで。」
「あ、ごめん。」
別に怒ってはいないけど指摘したら、スマホをいじりながらすぐに机の上から退き、立ち上がった。
「とわ?」
「うん、とわ。」
「オッケー、とわな。」
ラインを交換し、お互いの名前を確認し合う。
俺のラインの友達一覧にも新しく【 侑里 】というアカウントが追加された。
「ゆうりで合ってる?」
「合ってる合ってる。」
「侑里くんかぁ、よろしくな。」
思わぬタイミングで友達ゲット。嬉しさで笑みが込み上げる。そんな俺にニッと笑みを返して、「おう、よろしくな!」と返してくれる侑里くん。
せっかく仲良くなったばかりだけど休み時間終了のチャイムがなってしまい、侑里くんは俺の頭に手を置き、髪をぐしゃぐしゃと撫でながら「また遊びに来るわ」と言って足早に去って行った。
嬉しい。新しい学校で二人目の友達できた。
この喜びの気持ちを光星に聞いて欲しくて、光星の席の方へ振り向いたら、むすっとした顔で頬杖をついていた光星と目が合う。…ん?なんか機嫌悪そう。
「なんかいきなり友達できた。」
しかし俺が光星にそう話しかけると、光星はふっと笑みを浮かべ、「良かったな。」って言ってくれた。
「うん。嬉しい。二人目や。」
やっぱり友達は、一人でも多く居た方が良い。友達を作ることを諦めかけていたけど、できることならもっとクラスの人たちとも仲良くしてみたいなって、たった一人友達が増えただけで俺はそんな欲が出てきてしまったのだった。
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