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「一星さんバチクソかっこよかったなぁ。あんなかっこいい顔して飲み物注文する時めっちゃおろおろしてはって、ブレンドコーヒーって普通のコーヒーですか?って聞かれたんやけどなんか聞き方かわいくてキュンキュンしたわ。」


光星とお兄さんと別れたあと、姉は俺の予想通りお兄さんのことをべた褒めしている。しかもちょっと興奮気味にベラベラ喋りまくりだ。まあこうなることは分かっていた。


「キュンキュンする聞き方てどんな聞き方やねん。」

「ブ、…ブレンドコーヒーって、ふ、ふつうのコーヒーですか…?みたいな。」

「なんやそれちょっとバカにしてるやろ。」

「はっ?してへんわ!!かわいかったって言うてるやろ!!」


姉は光星のお兄さんの口調のマネをしているようだがただのおどおどした人の話し方だった。失礼やなぁ…という目で姉を見ていたら必死に言い返してくる。


「んで姉ちゃんはなんて返したん?」

「メニューの一番最初に書いてあるからそうですかね〜って。」

「適当やん。姉ちゃんひど。」

「だって私もよく知らんねんもん。しかもあのカフェメニュー多かったし。おしゃれな店やったなぁ。」

「うん。生クリームぶりゅぶりゅ乗ってるの美味しかった。また光星誘って行こー。」

「ええなぁー。」


俺との会話で姉は羨ましそうにそう返してくる。かっこいい光星とカフェに行けるのが羨ましいのか、……いや、“友達と一緒に”カフェに行けるのが羨ましいのかも。


「姉ちゃんもはよ友達できるといいな。」

「うん、そやな。…まぁ、昼ご飯はぼっち卒業できそうやし…次は友達やな、友達。」


チャリをゆっくり漕ぐ俺の隣で、姉はぶつぶつと呟きながら歩いており、数十分かけて二人で家に帰宅した。


家に帰ると機嫌良さそうにスマホを見ている姉。結局光星のお兄さんと姉が知り合ってしまい、俺は二人の動向が気になっていたけど、姉はそれ以降光星のお兄さんの話をすることはあまりなかった。





「昨日光星のお兄さん家帰ってから姉ちゃんのことなんか言うてた?」

「…ん?…あー、緊張したって。何せあの兄かなりの人見知りだから。」

「ふぅん。あ、そうやお兄さんのバイト先のラーメン屋また行かなあかんな。」

「ふっ…、行かなあかんの?」

「ん?うん。行かなあかん。なんで笑うん?」

「…ごめん、なんとなく。食べに行きたい、とかじゃなくて行かなあかんのかーって。」


翌日、登校中光星と昨日のことを話していたら、光星は何故か俺の発言に笑ってきた。まったく笑われている理由が分からないから言い回しがよくなかったかなとか考えていたら、光星は「永遠くんの口調移りそうになる」と言ってやっぱり俺を見て笑っている。


「俺ラーメン好きやねん。姉ちゃんもラーメン結構好きやしお兄さんと同じバイト先行くとか言い出しそうで嫌やな。」

「……嫌なん?」

「うん、嫌。姉ちゃんが光星のお兄さん好きになってしまう。」

「なんでそんなに嫌なん?」

「なんでって、……てかなんなん光星さっきから!!」


俺の口調のマネをしているのか関西弁で返事をしてきた光星に、ちょっと怒ったようにチャリで走行中にも関わらず光星の肩をベシンと叩いたら、光星は「危ない危ない」と言いながらそれでもクスクス笑ってくる。


「あーかわいいなぁ。俺は永遠くんと仲良くできてたら別に兄とお姉さんが仲良くても悪くてもどっちでもいいけどな。」

「…それは、俺もそやけど…。」


でも姉ちゃんがもし光星のお兄さんと付き合ったりしたら羨ましいからやっぱり嫌。俺ももし女やったら今頃光星と付き合ってたんちゃう?とか考えてしまう。

だって俺もうすでに光星と1回チューしてるんやで?これがもし男女やったら、絶対今の俺と光星みたいに普通の友達関係ではなくなってそう、とか。


…いや、でも俺が同じ男やったから、光星がこんなすぐに手を出せただけかもしれん。……とか、考えても仕方のない“もしも”のことまで頭の中であれこれ考える。


光星は男の俺でもかわいいと思ってくれていて、キスできるくらいに好意も持ってくれているけど、それはきっと、多分、今だけだ。

光星の身近に他の女の子が現れたらそっちに目がいくだろうし、俺のことかわいいなんて言っておきながらすぐに目移りするんだろうな。って、そんなことも考えてしまうから、俺が光星のことを好きになっている今は、俺の身近で羨ましくなってしまう恋愛をしてほしくない。


自分の都合だけで姉と光星のお兄さんが仲良くならないことを願っている俺は、これ以上俺がそんな態度を出しても光星に不快な思いをさせてしまいそうで、もうこの話は極力しないようにしようと口を閉じた。


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