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俺と永遠くんが通う高校と、永遠くんのお姉さんと俺の兄が通う大学、互いに授業がすでに終わっているであろう午後4時を待ち合わせの時刻にして、俺と永遠くんは待ち合わせ場所のカフェに向かった。

俺の家と永遠くんの家の中間あたりにあるカフェで、学校帰りに寄り道するには丁度いい場所かもしれない。

店内を見渡してみてもまだ俺の兄も永遠くんのお姉さんも来ていないようだったから、俺と永遠くんは先に飲み物を頼んで4人用のテーブルに腰掛ける。


「生クリームすっごー、混ぜた方がいいかな。そのままいったほうがいい?」

「…どっちでもいいと思うけど。」


永遠くんあんまりこういう飲み物頼んだことねえのかな。ウキウキとした様子で生クリームが乗ったコーヒーの飲み方を考えている永遠くんがかわいすぎる。そして結局、生クリームを掬うスプーンがストローの先にあるのに永遠くんはそのままガブッと生クリームに食らいついた。


「ふほほ、甘い。」


そりゃそうだ。生クリームだからな。って笑いながら、唇に生クリームをつけている永遠くんがかわいくて写真に残しておきたくてスマホを永遠くんの顔の前で構えたら、永遠くんはピースをして普通に写真を撮らせてくれた。やばい、かわいい…待ち受けにしたいくらい。


「見せて。 うわ、キモ。」

「かわいいよ。」


俺が撮った写真を確認しながら、永遠くんは唇についた生クリームを舌で舐め取り、紙ナプキンで口を拭く。

そんなやり取りをしていると、「あはは、放課後デートみたいで楽しそうやなぁ。」と永遠くんのお姉さんが笑いながら現れた。


「うるさいな。姉ちゃん遅いで。」

「ごめんごめん。」

「…お姉さんこの前ぶりです、こんにちは。」

「光星くんこんにちは!今日はありがとう!」

「いえいえ、こちらこそ。」


ていうか兄はまだか?と連絡が無いかスマホを確認してみるが兄からの連絡はない。お姉さんは永遠くんの隣の席に鞄を置き、飲み物を注文しに行かれた。

そうこうしているうちに待ち合わせ時間の4時が過ぎ、お姉さんはコーヒーカップを持って永遠くんの隣の席に戻ってきた。


「兄来ませんね。お待たせしてすみません。」

「ううん、私は全然大丈夫。永遠美味しそうなやつ飲んでるやん。」

「姉ちゃんに後でお金請求しよ思て500円以上するやつにした。」

「なんでやねん!」


お姉さんはそう言いながらも、財布の中から500円玉を取り出して、パン、と音をさせながら永遠くんの手元に500円玉を置いている。


「ありがとう。」

「いいよ。そのかわり今日は大人しくしといてな。」

「それは分からん。」

「じゃあ500円返せ。」

「いや。」


ツンとした態度で500円玉を財布にしまう永遠くんに、お姉さんは「も〜!」と言って諦めたようにコーヒーを啜った。


待ち合わせ時刻からおよそ10分ほど過ぎた頃、俺のスマホに兄から電話がかかってきた。電話に出ると『今カフェの外にいるんだけど』と言ってくる兄。


「中入ってきて」と伝えると、カフェの入り口の扉からおずおずと兄が顔を見せ、周囲を見渡している。兄に向かって手を振ると、兄はホッとしたように息を吐きながらこっちに歩み寄ってきた。


「えっ!…お兄さんかっっっ…こよ!」

「ほらほらぁ!そう言うと思ったわ!せやから嫌やってん!!」


兄が近付いてくると、永遠くんとお姉さんはそんなやり取りをしている。そしてその数秒後にテーブルの前に立った兄は、お姉さんの方をチラ見しながら恥ずかしそうに小さく頭を下げた。


「あっ!はじめまして片桐です!」


お姉さんは律儀に椅子から立ち上がり、兄にお辞儀をしてくれているが、兄はボソッと小声で「はじめまして」と返すだけだった。


「兄貴も何か飲み物頼んできたら?」

「…あ、うん。」


兄が椅子に座る前にそう促すと、おろおろしながら注文カウンターの方へ向かっていく。しかしすぐに立ち止まり、何故か振り向いてきた。


「ひょっとして慣れてはらへんのかな?」


お姉さんはそう言いながら兄の方へ向かっていき、注文カウンターの頭上にあるメニュー表を指差しながら兄に話しかけている。

兄はそんなお姉さんを前にして緊張しているのか、真っ赤な顔でずっとおどおどぺこぺこしながら、飲み物を注文していた。


「な?兄貴癖強いっつっただろ?」


自分の兄の恥ずかしい姿を見て俺は永遠くんにそう話しかけるが、永遠くんはムッと唇を尖らせて首を傾げる。


「かっこいいしあんま関係ない。」

「…えー。じゃあ兄貴みたいな頼りない感じの性格にはお姉さんみたいなしっかりしてる人ぴったりだと思うけど?」

「あかん。姉が弟の友達の兄と親しくなるなんて許されへん。」

「…そんなに?仮に二人が親しくなって、でももしその後関係が悪くなったとしても俺らの関係までは変わんねえよ?」

「でも嫌ったら嫌。」

「…んー。頑なに嫌がるなぁ。」


そもそもまだ兄とお姉さんが親しくなるかどうかも分からないのに、永遠くんはお姉さんが兄に絶対惚れるとか言って二人が仲良くなることをめちゃくちゃ嫌がっている。

てかその前に永遠くん兄のことばかり『かっこいい』って言い過ぎだ。そんなに兄がかっこいいかよ。ってさすがに俺も不満が募ってくる。俺だってもっと永遠くんにかっこいいって思われたい。兄のことはいいから、俺のことを見てほしい。


兄がお姉さんを好きになったとしても、あの性格の兄をお姉さんが好きになるとはとても思えないのに、お姉さんもただ大学の知り合い増やしたいだけだろうに、ちょっと知り合うくらい良いじゃねえか。って、そろそろ俺は永遠くんに反発しそうだった。



数分後にお姉さんに付き添われて無事コーヒーを注文してきた兄は、俺の隣の席に座ってほっと一息ついている。


「兄貴頼み方分かんなかった?」

「…種類多すぎてなにがなんだか…。」

「カプチーノとかモカとかラテとかよく分かんないですよね〜!私もあんまり分かってなくていつも適当に頼むんですよ。」


明るく兄に話しかけてくださるお姉さんに、兄は顔を真っ赤にしながらコクコクと首を縦に振る。


……ん?これはもしや。

兄貴もうすでに永遠くんのお姉さんに惚れたか?……って、俺と好みが同じ疑惑がある自分の兄だからこそ、俺は兄の態度や表情を見てそう感じた。


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