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永遠くんの家には夕方までお邪魔して、自宅に帰ってきて夕飯を食べた後にスマホを確認すると、永遠くんのお姉さんからラインが届いていることに気付いた。内容はケーキのお礼と、兄におすすめのサークルとか授業とかがあれば話を聞いてみたいというものだった。
『出会い目的って言うよりは人脈を広げたい』と言っていたから、永遠くんのお姉さんも慣れない土地に引っ越してきて、知らない人ばかりの環境で不安があるのかもしれない。
永遠くんに内緒でこんなやり取りをするのは少し気が引けるものの、俺は兄がバイトから帰ってきてご飯を食べている時を狙って、お姉さんの話をするために声をかけてみた。
「兄貴に紹介したい人が居るんだけど。」
「……紹介?」
「この前家に来てた永遠くんのお姉さん。同じ大学だって。」
兄の正面に座り、お姉さんとのラインのやり取りを見せながら話しかけたが、兄はチラリとスマホ画面を見下ろしただけでもぐもぐと無言で口を動かして夕飯のおかずを食べ続けている。
「サークルとか大学の事聞きたいみたい。多分引っ越してきたばっかだから知り合い少なくてそういう情報聞ける人欲しいんだと思うけど。兄貴のライン教えていい?」
無言の兄にさらにそう聞いてみたが、やっぱり返事はなくもぐもぐ口を動かしている。辛抱強く兄から何かしら反応が無いか待っていると、兄はようやくボソッと口を開いた。
「ライン苦手なんだけど…。」
…すっげー嫌そう。知ってたけど。家族内でも兄とのラインのやり取りで返ってくるのは【 うん 】とか【 分かった 】とか短文のみだ。
「あー…じゃあ大学で直接会って話すとかは?」
「人と会って話す方が嫌……。」
「うわぁ……。」
こっちの方がめちゃくちゃ嫌そう。とても人に紹介なんて無理な性格だ。兄とお姉さんが会ったとしても上手くいかず、俺と永遠くんの関係にまで影響してきたら…、とか考えたら確かに兄を紹介なんてしない方が良いかもしれない。だから永遠くんも嫌がってくれてたのかも…
なんて、今更ながらにそんな自分にとって都合の良い考えが浮かんできた。
「じゃあいいや。」って兄との話を終わらせて、お姉さんになんて言おうか考えていたら、兄はそんな俺の手に持つスマホをジッと見下ろしてくる。
そして兄はその後、徐に口を開いたのだった。
「………お姉さん可愛い?」
まさかの兄からの問いかけに、俺はピシッと固まり、すぐに返事はできなかった。さては兄、実はちょっと気にはなってるな。あの“永遠くんの”お姉さんだから、気になってるんだろ。
永遠くんのことを『あの子かわいい顔してる』と言ってたくらいだから、絶対そのお姉さんのことを気になってる。
俺にたぬき顔好きだろ、とか言ってきたけど、実は兄貴も好きなんだろ、たぬき顔。永遠くんのこと実は兄もちょっと気になってたりしたら嫌すぎるんだけど。
そう思ったら、俺の口からはするっと「可愛い」という言葉が出た。
「お姉さんめっちゃくちゃ可愛いかった。」
「……ふぅん。」
「会ってみたくなっただろ。」
「……ちょっとだけ。」
「ラインだけ交換しとく?」
「じゃあ光星とのトークに俺を混ぜといて。」
「は?なんだよそれ。コミュ障すぎんだろ。」
「一対一はちょっと…。」
薄々気付いてはいたけど、人付き合いが苦手そうな兄の性格が俺の中で浮き彫りになった瞬間だった。
せっかく兄がこう言っているのだから、兄の気が変わらないうちにさっさと済ませようとお姉さんに説明してからグループトークのルームを作った。二人で会話するようになったら俺はしれっと抜けようと思いながら、二人をルームに招待する。
「トークルーム作ったから。」
「ん。」
兄は俺の言葉に頷いてから、食べ終わった食器を片してさっさと部屋に行ってしまった。
【 初めまして、永遠の姉の片桐永菜と申します! 】
トークルームが出来て数分で永遠くんのお姉さんは丁寧に自己紹介のラインを送ってくれているのに、暫く経っても兄からの返信は無い。
兄に返信しろよって言いに行くために部屋を覗いたら、兄はなんと早くもベッドで爆睡していた。
【 お姉さんすみません、兄はもう寝てました。】
無理矢理叩き起こして返信させようかとも思ったけどそれも面倒でそう送ったら、お姉さんからは【 オッケーオッケー! 】と文字が書かれた可愛い犬のスタンプが送られてきた。
弟は猫で、お姉さんは犬ですか…。
不覚にもお姉さんが使ってきたスタンプに癒されてしまい、また反省。永遠くんにお姉さんとラインでやり取りをしてることがバレたらなんて言われるだろうか…と想像しながら、俺はそっとトーク画面を閉じた。
翌日、兄と顔を合わせてすぐに「一言くらい返信しろよ」って声をかけたら、兄は渋々【 はじめまして 】とだけ返している。
この兄貴、こんな調子で人生やっていけてるのだろうか。余計なお世話だろうけど、俺は少し、兄の将来を心配した。
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