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「なあ姉ちゃん…、俺ってかわいい?」

「……はあ???」


ゴールデンウィーク3日目も流星くんとたっぷりゲームで遊んで夕方に家に帰ってきた俺は、自分の部屋でドラマ配信を一気見していた姉のベッドに寝転がりながら問いかけた。


「てか私のベッドに寝転ばんといて。」

「べつにいいやん。なんであかんの?」

「汚いやん!!」


きッ、汚いやと!?弟に向かって失礼な…!
光星は俺をベッドで寝かせてくれたぞ!?

「さっきお風呂入ったわ!」って言い返したら姉ちゃんは渋々「じゃあいいけど。」って許可してくれたからそのままゴロゴロし続けた。


「誰かにかわいいって言われたん?」

「うん。光星が俺のことかわいいって言うねん。それってどういうかわいいやと思う?」

「ん〜、小動物的なやつちゃう?私の友達も昔永遠のことかわいいって言うてる子居たで。」

「昔やろ?今やんか、今。」

「なんなん?そんなん気にして。光星くんのことほんまに好きなん?」

「好き。」


姉ちゃんの問いかけに間髪いれずに頷いたら、姉ちゃんは目を見開いて口半開きな変な顔を俺に向けてきた。


「家に連れて来といで。話はそれからや。」

「姉ちゃん光星見たいだけやろ。」

「当たり前やん。光星光星て話聞かされて見たいに決まってるやろ。」


まあそれもそうか。と姉ちゃんの話に納得しながら、俺は光星にラインで家に遊びに来ないかと声をかけてみた。

すぐに【 永遠くんがよければ 】という控えめな返事がきて、俺は『わーい!』と喜んでいる猫ちゃんのスタンプを返しておく。


「光星来てくれるってー。姉ちゃんちゃんとおもてなししてな。」

「おっ、よし。じゃあ昼ご飯作ってあげるわ!家庭的アピールするチャンスやな。」

「アピールせんでいいわ。」

「永遠がいつもお世話になってます、姉の永菜(えな)でございますぅ。」

「自己紹介の練習せんでよろし!」

「永遠がいつも光星くんのこと家でちゅきちゅき言うておりましてぇ。」

「要らんことも言わんでよろし!!!」

「ちょっとぉ、永遠が話しかけてくるからドラマの内容意味分からんようになってしもたやんか。」

「それはすみませんでしたね。」


パッと態度を切り替えるようにテレビ画面を見ながら姉ちゃんが文句を言ってきたから、俺はそこでベッドから起き上がり、姉ちゃんの部屋を出た。


勢いで光星を家に誘ったけど、やっぱりやめた方が良かったかな。って、ちょっと後から不安になった。



それから3日後が光星を家に呼んだ日で、姉は朝からせっせと服を着替えてメイクしている。

母親と父親はこれから二人で外出するため、出かける準備をしていたところに姉もおしゃれして登場したから不思議そうな目を向けられていた。


「あれ?永菜どっか行くん?」

「え?行かへんで?光星くん家来るから張り切ってるんやんか。」

「ふふっ、あーそうなん。」


自分で張り切ってるとか言ってしまう姉を笑って、それからすぐに母親と父親は出かけていった。


光星は俺の家のマンションの場所をもう分かってくれているから、家まで直接来てくれる光星を約束した時間にマンションの下まで迎えに行く。


「あ、これ。ケーキ買ってきた。」

「ケーキ!?!?」


マンションの通路でケーキの箱が入った袋を差し出され、思わず大声を出してしまった。俺のオーバーリアクションに光星はクスクスと笑い始める。


「ケーキ好きだった?家の人と食べて。」

「うん、好き。ありがとう。」


光星も好き。

なんか姉ちゃんに会わせるのが途端に嫌になってきたな。もうこれから二人でデートしようか。

…っていうのは冗談で、光星を連れて数分で家に戻ってくると、チラッと姉がリビングのドアから顔を出して玄関の様子を窺ってきた。


「あっ、」

「あっ…どうも〜。」


姉に気付きぺこりと頭を下げる光星と、自己紹介の練習をしていたくせにいざ対面すると控えめな態度の姉が照れ笑いしながら歩み寄ってくる。


「姉です〜…」


か細い声で自己紹介してきた姉は光星を前にして少し恥ずかしそうだ。姉の予想を超えるかっこよさだったのかもしれない。


「あっ…浅見です…」とこちらも控えめに姉に挨拶する光星だが、俺はふと光星を見上げ時に見た光星の様子に胸がざわついてしまった。


姉を前にして、光星は赤い顔をしておろおろし始めている。それは、よく見る光星の恥ずかしそうにしている顔だった。

なんや、俺の前だけちゃうやんか。って、胸の中がモヤモヤした。


「光星顔赤なってんで。姉ちゃん見て何照れてんねん。」

「えっ…!いやっ、ちがっ…!」


俺の発言に光星はアタフタし始めてしまったが、そんな光星に姉は「えっ?」と頬に手を当ててわざとらしい照れ方をしてきた。


姉の反応も腹立つが、それよりも光星の姉を見る態度に、自分がどんどん不機嫌になっていくのが分かった。


「光星、俺の部屋こっち。」


これ以上姉の前に光星を居させるのは嫌で、家に連れてきてすぐに光星を自分の部屋に案内する。


「あー…緊張した、…お姉さん可愛いな。」


そして俺の部屋に入った瞬間そう口にした光星に、俺は自分でも笑ってしまうくらい、分かりやすく嫉妬した。


「……光星嫌いっ!!」

「えぇっ!?」


俺のこと可愛いって言うて、でも姉ちゃんも可愛い。

それやったら俺にチューしてきたのだって、べつに俺じゃなくても良かったんちゃうん、って。


そんなモヤモヤした気持ちが顔にも出て、ムッとする俺を光星は戸惑うように見下ろしていた。


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