33 [ 34/99 ]

「光星?…おーい、寝てる?」


二人がゲームしているところをぼんやり眺めていたらいつの間にかうとうとしてしまっていたようで、永遠くんに声をかけられてふっと目を開いた。


すると俺の目の前には永遠くんが立っており、顔を覗き込まれている。永遠くんとの顔の近さに驚いて少し慌てて顔を引き、椅子から立ち上がったら、そんな俺の反応はかなり滑稽だったのか永遠くんに笑われている。


「おもろ〜、光星寝惚けてるん?」


どうやら俺は寝惚けているらしい。眠くて、頭が働かなくて、もういっそこのまま寝惚けていることにしておいてくれという気持ちだった。


うとうとしながらぐたっと力を抜いて永遠くんの肩を抱き、そのまま永遠くんを歩かせて流星の部屋を勝手に出る。


「えっちょっと、光星?寝るん?あっ流星くんまた明日!」

「あ、はい。おやすみなさい。」


真っ暗な自分の部屋に入り、永遠くん用の布団を用意していたにも関わらず、俺は永遠くんを引き込みながらベッドに横になった。


「ちょっと、なぁ、…光星?」


俺の腕の中にすっぽりと収まっている永遠くんの抱き心地が良くて、もっと触れたい。よしよしと髪を撫で、もう片方の手は永遠くんの身体に回した。


「なぁ光星?まじで寝惚けてるん?」

「……んーん。」


寝惚けてない。でも眠気の所為で頭がまったく働かない。自分の都合良いように、“眠気を利用している”といったところだろうか。俺は最低だ、こんな形でも好きな人に触れたいらしい。


「寝惚けてへんのにこの状況なんなん?」

「…とわくんかわいいから。」

「眠いから頭おかしなってんの?チューして目ぇ覚ましたろか?」

「うん、…覚まして。」


ふわふわする。眠くて頭がまじでふわふわしている。そんな自分を利用して、永遠くんに触れている。寝惚けてたからっていう言い訳を使おうとしている。今ならそれも、自分で勝手に許されるような気になっている。


「こんなんが光星のファーストキスになってまうで?いいん?」

「……いいよ。」

「知らんで〜、起きた時パニックになっても知らんで〜」


永遠くんはそう言いながら、俺の頬を指で摘んで引っ張ってきた。…かわいいなぁ、…もう、ほんとにチューしていいかなぁ…。


だって永遠くんの口から一回も『嫌』とか『ダメ』とかいう言葉聞いたことねえもん。チュッ…て、一回触れるくらいなら……


『この前良いって言ったよね?』って、ふわふわとする頭でもそんな言い訳を用意しながら、髪を撫でていた手をそっと下ろして、俺は永遠くんの頬に手を添えた。


暗闇の中、手探りでその手で永遠くんの唇に触れる。

指にふにっとした柔らかい感触がして、俺はその場所に向かって、今度は自分の唇を重ねた。


気付けば永遠くんの身体はガチガチに固まっている。

あぁ、…やってしまったな…っていう頭で、俺はそっと唇を離し、用意していた言い訳を口にした。


「……永遠くんがこの前、…していいって言ったから。」


そんな俺の言い訳には返事が無く、その代わりに、ドキン、ドキン、と動く永遠くんの心臓の音が伝わってきた。

…いや、この心臓は、俺の音かなぁ。

うとうとする頭でそんなことを考えて、その後暫く沈黙する時間が続き、そのまま俺は眠りについた。





恐らくあれはもう、夜中の出来事だったのだろう。朝方にハッと目を覚ました俺は、隣で眠っている存在を目にして、ひどく動揺した。

永遠くんを俺のベッドに引き込んだのは紛れも無く俺自身だ。


自分の唇に触れ、働かない頭で隣にある背中を見つめながら考える。


やばい、…俺、昨夜、絶対キスしたな。

あの柔らかかった感触を思い出しながら、自分の口を手で塞ぐ。やばい。俺キスしたな。


一度目覚めたらもう頭は一気に覚醒し、今更ながらにドキドキと心臓が暴れまくってきた。

身体を起こし、どんな顔で永遠くんに挨拶しようかと軽くパニックになっていたら、ゴロンと寝返りを打った永遠くんがうっすらと目を開け、俺を見上げてきた。


「光星おはよう。どうしたん?」

「…え?」


永遠くんは俺を見上げながら、クスッと笑ってきた。

目覚めていきなり笑ってくる永遠くんに、『どうしたん』とは?とさらにパニックになった。


「光星どうしたん?」


言葉に詰まる俺に、永遠くんはさらにクスクスと笑いながらまた同じことを聞いてきた。


「…あ、いやっ…、あの、俺昨日…」

「昨日?なに?」


クスクスクスと俺を見ながら笑ってくる永遠くんの態度に俺は暫し困惑しながらも、ハッと悟る。これは多分、俺が昨夜のことを思い出し、パニックになっていることを永遠くんに気付かれているから、俺は笑われているんだ。


「案の定やなぁ。パニクりまくってるやん。でも光星くん自分からチューしてきたんやで?」

「うぁぁぁ…っ、だって…」


実際にそれを口に出されたら、より現実味が増してしまい、さらにはあの感触を思い出してしまった。


「だって、なに?」


永遠くんにどうしてもキスしてみたかった。

でもそんなことを言ってしまえば、俺が永遠くんに恋愛感情を持っているのがバレバレだ。


「永遠くんがかわいかったから…。」


ギリギリセーフなような、もうアウトなような言い訳をして反応を窺っていると、永遠くんはジッと俺を見つめてきた後に首を傾げた。


「…んー…分からんなぁ。かわいかったらチューするん?……もっと他の理由が良かった。」


永遠くんは独り言を言うように一人ぶつぶつと喋りながらベッドから降り、「トイレ借りるわ。」と言って部屋を出て行ってしまった。


……『もっと他の理由が良かった』???

え、もしかして俺ドン引きされてる?寝惚けてうっかり、とか言っといた方が良かったのか…?


永遠くんから聞こえてきたその声に、それからの俺はずっと頭を悩ませた。


[*prev] [next#]

bookmarktop

- ナノ -