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今日一日外出していた母親が家に帰ってくると、ゲームをしてすっかり仲良くなっている永遠くんと流星を不思議そうに眺めながら俺に話しかけてきた。
「確か光星と同じクラスだったよね?」
「そうだよ。」
「なんかうっかり間違えそうになるなぁ。」
永遠くん小柄だから流星と同級生だと言われても違和感ないけど、二人の方が俺より仲良く見えているようで、母親にクスクス笑われてしまった。
…いやいや、いいんだよこの距離感で。
近過ぎるとまずいんだよ。
それに俺だって普通に会話に加わって楽しませてもらってるし。俺は自らこのポジションを望んだのだ。
その後も暫く永遠くんと流星はゲームに没頭してしまい、7時を過ぎた頃にとりあえず夕飯を食おうと二人のゲームを一旦止めさせた。
「俺が永遠さん泊まるの勧めたから」と自分から母親に説明している流星に、母親はまた不思議そうに「そうなんだ」と頷いている。
大人しい性格で友達も少ない流星にしては珍しい行動だと思われているのだろう。俺の弟まで懐いてしまう永遠くんの人懐っこさに恐れ入る。
永遠くんは遠慮していたけど、母親は永遠くんの分の夕飯も用意してくれたから、兄を差し置いて先に永遠くんと流星と3人で夕飯を食べた。
「あれ?そう言えば一星(いっせい)は?」
「さぁ?わかんない。」
母親の問いかけに流星が首を傾げる。そんな二人のやり取りに、永遠くんがコソッと俺に「一星ってお兄さん!?」と聞いてきた。
なんなんだよ、永遠くんまじで兄に興味持ち過ぎじゃねえの?
「うん。」と頷くと永遠くんは、「おぉ…」と何故かそんな感嘆の声を漏らす。
「なに?」
「俺の予想が当たってた。」
「予想?」
「お兄さんの名前。星付いてるやろなぁって予想しててん。」
…あぁ、そういうことか。
だから名前が気になってたんだ。
理由が分かると少しホッとしてしまった。
大学生の兄は家に居るのか居ないのか分からないことも多いが、大抵部屋でゴロゴロしており、忘れた頃に部屋から出てくる。
そんな兄は俺たちが夕飯を食べ終えた頃に登場し、またゲームを再開させた永遠くんと流星のゲーム画面を眺めながら、もそもそ夕飯を食べていた。
ゴールデンウィークだと言うのに父親は仕事で、各々で夕飯を食べ、ただでさえフリーダムな家庭が永遠くんが増えたことでさらにフリーダム感が増している。
「あ、永遠くん泊まるなら布団いるよね。」
「あ…、うん。」
…そうだ、俺にはこのあと試練が待っている。果たして永遠くんが居る空間で俺は普通にして居られるのだろうか。
平常心を保とうと、俺は自分から食器洗いを買って出た。
5分程度で食器洗いを終わらせて、振り返ったらまだ兄がもそもそとゆっくりご飯を食べている。しかも、ゲーム画面を見ているのかと思ったら、兄の視線は永遠くんの方へ一直線なことに気付いた。
『おい、どこ見てんだよ。』と言いたい気持ちをなんとか抑えていたら、ポトッと兄の箸から滑り落ちたおかずを目にする。
「あ。」
「よそ見して食ってるからだろ。」
ちょっと棘のある言い方をしてしまったが、別に兄は俺に言われたことなんか気にする様子も無く、その次の瞬間、兄は突拍子もないことを言い出した。
「あの子かわいい顔してるな。」
…はい?いやいやいや。
好み同じとかやめろよ。しかも兄の“あの子”って言い方、なんかすげえ嫌。可愛くても男子だから!!
まさかすぎて「いやいやいやいや」ってまじで口に出してしまった。さすがにただ一感想を口にしただけだと思いたい。
しかしその次の兄の発言で、俺の焦りはすぐに違う種類の焦りに変わる。
「光星顔に惹かれて仲良くなっただろ。」
「えッ……」
「お前好きそう。」
…うわ、まじかよすっげー見抜かれてる…。
さすがに俺が兄を敵視しすぎてしまっていたかもしれない。俺がそういう態度を出し過ぎたのかもしれない。それが原因かは分からないが、兄は俺の永遠くんを見る目を察しているようだった。
「お前が可愛いって言う芸能人、大体ああいう目がくるっとしてる子なんだよな。」
「……。」
「あとちょっとこう、あどけない感じ。すげー好きそう。」
「……。」
「なんてーのかな、…たぬき顔?もろお前のタイプだよな。あの子は男の子だけど。」
「ごめん兄貴、ちょっともう黙ってて…。」
兄の発言に俺はだんだん恥ずかしさが積もっていき、テーブルに手をついてガクッと項垂れてしまった。
「図星か。やっぱりな。」
「…そうだよ、かわいいだろ。」
「うん。」
コクリと頷いた兄は、また永遠くんの方を見ながらもそもそとご飯を食べ出したのだった。もうそっちを見てないで飯を見ろ。
夜9時を過ぎると、永遠くんは流星にパジャマを差し出されながらシャワーを勧められ、10分程度でシャワーを済ませて濡れた髪をわしゃわしゃと拭きながらパジャマ姿でリビングに戻ってきた。
…もうダメだろこれ、かわいいとか言ってる場合ではない。永遠くんを見ていたら悶々としてしまい、永遠くんに触れたくなってきてしまうやらしい自分に耐えかねて、永遠くんと入れ違いに俺も逃げるように風呂に入った。
シャワーを済ませて風呂場から出てくると、リビングのテレビ画面はゲームではなく普通にバラエティー番組が映っており、そこでは母親がテレビを見ている姿のみで永遠くんと流星は居なくなっている。
「あれ?永遠くんと流星は?」
「ゲーム持って2階上がってったよ。」
母親からそう聞き、2階の流星の部屋を覗くと、二人は狭いベッドで二人寝転がって互いに小型ゲーム機を持って対戦でもしているのか器用に指を動かしていた。
「あ〜ッ!うわっ!あっ!いや〜!!あっまたやられた!!もぉ〜!!!」
バタバタバタ、と足をバタつかせ、喚きながらゲームしている永遠くんの隣で、流星は無言でニヤニヤしながらゲーム機を操作している。
弟よ…、さすがにちょっとその距離感は羨ましいぞ。下心ないからそんな近くても平気なんだろうなぁ…と、この瞬間だけ俺は流星になりたくなった。
俺が流星の部屋に入っていくと、永遠くんはチラッと振り向き、「あっ光星ごめん、部屋移動しました〜!」と声をかけてくれる。
「うん、いいよ。白熱してるな。」
「流星くん強すぎて全然勝てへんねん!」
「じゃあ俺このキャラ苦手だから次はこのキャラ使ってあげるよ。」
「もうそれ3回くらい聞いてるけど全然ハンデになってへんからな!?」
「じゃあ俺だけアイテム禁止縛りしようか?」
「うん!じゃあ一回そうしてもらおか!!」
「負けたら罰ゲームね。」
「えっ罰ゲーム!?」
「日付け変わるまで関西弁禁止。」
「おぉ、優しい罰ゲームやな。良いザマスよ?」
「ククククッ、じゃあ始めるよ。」
……弟よ、お前めちゃくちゃ楽しそうだな…。
俺は二人のゲームしている光景を流星の部屋にある勉強机の椅子に腰掛けながら眺めてみたが、さすがにもう退屈になってしまい、永遠くんを抱えて俺の部屋に連れて行きたくなった。
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