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「永遠さんおもしろい人だったね。」


いつも永遠くんと待ち合わせするコンビニまで永遠くんを送って家に帰ってくると、弟の流星がそう話しかけてきた。


「明日も遊んでもらえる〜って喜んでたわ。ゲーム一緒にできる友達できて嬉しいんだって。」

「俺が遊んであげる側なんだ。光兄ゲーム弱いから俺も永遠さんが遊んでくれて嬉しいけどね。」

「はは、…そりゃ良かった。」


淡々とした態度で弟にゲーム弱いと言われてちょっと凹むけど仕方ない。今まで弱い俺くらいしかゲームで遊ぶ相手が居なかったから弟も永遠くんと遊べて楽しかったのかもしれない。


俺は、自分の部屋に永遠くんを招いたら妙な気を起こしてしまいそうになり、リビングで流星と永遠くんが遊んでいる光景を見るくらいが丁度良い距離感だと思った。

あの顔を見るともうキスしたくてしょうがない。頭を撫でて、ぎゅっとしたくてしょうがない。部屋に招いて、二人きりになるのはかなり危険だと思ってしまった。



翌日は『コンビニまで迎えに来てくれなくてももう大丈夫』って言われたから、わかりにくい道をした住宅街に入るあたりで永遠くんが来るのを待った。

ちゃんと約束の時間に無事永遠くんが自転車に乗ってやって来た姿を見てホッとする。


「今日お土産にカール持ってきてん!流星くん食べるかなぁ?」

「カール?貴重なんじゃねえの?箱買いで買ったって言ってたお菓子だよな?」

「そうそう。もっとカールファンを増やして買う人が増えたらこっちでも売り出されるかもしれんしいいねん。」

「ほぉ〜。」


…なんかよく分かんねえから気の利いた返事できねえけど今日も永遠くんがかわいい。


「最初チーズ味ばっかり食べててんけど最近になってうすあじの美味しさに気付いてしまってな、うすあじ派になりつつあったのに美味しさに気付いた頃に引っ越し決まって、友達に関東カール売ってへんらしいぞって言われて絶望したわ。」

「…ふふ、そうなんだ。」

「あ、ごめんなめっちゃ語って。」

「いいよ、かわいいから。」

「はい?どこがや。」


かわいい永遠くんが話しているのをひたすら聞いているだけで俺は満足で、今日も『かわいい』って言ってしまったら永遠くんにツンとした態度でそっぽ向かれてしまった。でもどうやらその態度には照れが含まれている気がして、俺はこっそり横目で永遠くんの横顔を観察し続けた。


自宅に到着してリビングを覗くと、兄と弟が無表情でコントローラーを操作してゲームで戦っている。


「あ、お兄さんもいはる!」


パッと表情を明るくして兄を見る永遠くんに、俺は少々嫉妬のような気持ちを抱いてしまう。兄を相手に嫉妬というのもおかしいけど、『かっこいい』ってのは俺が永遠くんに思われたい……。


「こんにちは〜、今日もお邪魔します!」

「あ、永遠さんお待ちしてました。兄二人ともゲームが下手なのでずっとヌルゲーすぎて困ってました。」

「ふふっ、そうなん?流星くんが上手すぎるんちゃう?」


ゲームが下手と言われた兄はペシッと流星の頭を軽く叩いて欠伸をしながら部屋を出て行った。兄は下手というより、やる気が無いという方が正しい。


「あ、流星くんカール知ってる?お土産に持ってきてん。」

「カール?」

「あっもしかしてあんまりお菓子食べへん?」

「お菓子好きですよ。」

「あ、ほんま?良かった、後で一緒に食べよ?」

「はい!」


さっそく流星にカールの袋を差し出し、そんなやり取りをしている二人を尻目に、俺は飲み物を入れようとキッチンへ向かった。


お茶を入れて永遠くんの側まで戻ってくると、さっそく何のゲームをしようか二人で相談している。

俺より流星の方が話が合っている気がしてなんかちょっと悔しいけど、相手が流星なら別にそこまで嫉妬の気持ちは湧いてこない。それにこのくらいの距離感の方が良いんだった。


「あ、光星は何かしたいゲームある?」

「いや、俺は見てるだけでいい。」


永遠くんを。


気を遣って聞いてくれてるところ申し訳ないけど、俺はほんとに二人のゲーム対戦に混じるより永遠くんを見ているだけで十分だった。


「それじゃあ光星もやりたくなったら言うてな〜。」

「うん、分かった。」


こうして、ゴールデンウィーク2日目の今日も、永遠くんと弟が楽しそうにゲームをしている光景を眺めて、時間はすぐに過ぎていく。



「永遠さんもううちに泊まっていきなよ。」


打ち解けすぎと言えるくらい永遠くんに懐いた弟は、外が暗くなりだした頃に突然そんなことを言い出した。…いやいや、どこに泊まってもらうって?


「え?でも…」


流星の突然の提案に、永遠くんは返事に困ったのかチラッと俺に視線を向けてくる。


「うん、永遠くんさえ良かったら。」


え?俺の部屋に泊まってもらうのか?いやでもそれちょっとキツイかも…、手を出さない自信がない…ってなんか一人でやらしいことを考えてしまっているが、そんな心を悟られないように俺は笑顔を永遠くんに向けると、永遠くんは「どうしよかな」と悩んでいる。


「俺のパジャマ貸してあげるよ。」

「今絶対サイズ同じくらいやな〜って俺のこと見たやろ!」

「うん。」

「も〜、俺身長止まってしもたしな。流星くんにすぐ抜かれそうやわ。」

「もうすでに2センチくらい俺の方が高いよ。」

「くぅ〜ッ!」


流星との会話で悔しそうな態度を見せる永遠くんは、ペシペシと俺の太腿を叩いてきた。

いいんだよ、永遠くんはそのままで。って、かわいい永遠くんを前にしているとつい永遠くんの頭に手が伸びてしまった。

わしゃわしゃと髪を撫でたら、永遠くんはちょっと静かになり、チラリと俺を見上げてくる。


「どうする?今日泊まってく?」


俺はハッとしながら永遠くんの頭から手を退け、問いかけると、永遠くんはコクリと頷く。


「…じゃあ、泊まらせてもらおっかな。」


ちょっと遠慮気味な態度だったけど、永遠くんが頷いた瞬間、俺の心臓が途端にドクドクと暴れ出した。


いや、まじで俺、一人でやらしいこと考えすぎなんだよ。相手は友達だぞ、冷静になれ。


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