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光星が部屋を出て行った隙に、俺はジロジロと光星の部屋を見渡した。シンプルで、清潔感あって、光星らしい綺麗な部屋だ。
勉強机にベッド、本棚、物はそこまで多くなくて、クローゼットらしき扉がある。ちょっと開けてみたい気持ちを抑えつつ、本棚に並んでいる本を見ていたりすると、コップを二つ持った光星が部屋に戻ってきた。
「もうちょっとしたら昼飯食いに行く?」
「うん、そうしよか。」
「弟に永遠くんがゲームしたがってるって話したら昼から一緒にしよって。」
「おぉ〜やった〜。流星くん可愛いかったな〜。俺も弟ほしなってきた。」
俺自身が弟だから、弟か妹がほしい。でも光星みたいな優しいお兄ちゃんが居てもいいかもしれない。俺の姉ちゃんも優しいけど褒めたら調子に乗るから褒めない。
お兄さんの時はちょっと不機嫌そうだったけど流星くんを褒めても別に普通で、光星は俺の話にクスリと笑っていた。
「永遠くんが好きって言ってた食べ物の店適当に調べといた。今日は何の気分?」
「ん〜そやなぁ…今日は餃子の気分やな!」
「じゃあ中華料理屋行く?」
「うん!今日は光星と遊ぶって言うたらお母さんがご飯代くれたし値段気にせんと食べる。」
「お〜、じゃあ今日はお腹いっぱい食おうな。」
「うん!」
………ん?…あれっ、なに今の。
俺の頭に光星の手が伸びてきたから、また頭を撫でられるのかと思ったら、その手は俺の頭に触れずに空中で一瞬止まってから離れていった。
そんな光星の変な行動に敏感に反応してしまい、ジッと目を見たらふっと視線を逸らされてしまった。
…この前も、『ちゅーしていい?』とか聞いてくるくせに聞くだけ聞いてしてこなかったし。
なんなん?したいん?したないん?
したいけど俺が男やから躊躇ったとか?べつにしたないけど俺の反応見て楽しんでるとか?それともただ“キス”に対する興味持っただけとか?女の子としたらどんな感じやろ、とか俺を代役にして考えてるとか?
なんで今頭撫でようとして撫でへんかったん?俺は光星に頭撫でられるの好きやねんけどもしかして焦らされてる?
…とか、この一瞬の時間だけで俺の中にはモヤモヤした気持ちが溢れまくったけど、どれだけ考えてみても結局人の本心はその人にしか分からない。
最近光星が俺のこと『好き』とか『可愛い』とか言ってくれるようになったから、俺実はちょっとだけ期待してた。『チューしていい?』とか聞かれた時、俺実はちょっとだけドキッとしてた。光星とキスしたらどんな感じなんやろ、って思った。キスして照れた顔とか見てみたいと思った。
でも俺がいつも調子乗って『付き合いたい』とか『結婚したい』とか冗談言ったりしてたから、もしかしたら光星がそんな俺に合わせてくれてるだけなのかも。光星ちょっと順応性高めてきてる気がする。
そんな、よく分からない光星の言動に、俺の心はすっかりかき回されていた。
光星の考えてることが俺は気になって、気になって、『今頭撫でようとしたやろ』とか何かしら聞いてみたい気持ちはあったけど聞かなかった。
聞いたら光星が変に意識して、もう俺の頭撫でてくれなくなるかも、とか考えて聞かなかった。俺はどうやらそれくらい、光星に頭を撫でられたいらしい。
「ゴールデンウィークやしお店混んでるかな?もう行こか。」
「そうだな。」
光星の部屋で、変な光星を前にしていたら気持ちがなんか変にそわそわしてしまい、まだお腹が減っていたわけでもないけど自分から外出を促した。
またチャリを漕いで住宅街を抜け数十分、光星が連れてきてくれた中華料理屋は人気店なのか店内にはすでにお客さんで賑わっている。
「早めに来といて良かったな。もうちょいしたらもっと混むかも。」
「うん、良かった。何食べよかなぁ。」
店に入ると店員さんにすぐにテーブルへ案内してもらえて、メニュー表を手に取った。
「餃子は確定やろぉ、エビチリもいいなぁ。あ〜カニ玉も食べたいなぁ…唐揚げもあんのかぁ…」
うんうんと何を食べるか口に出して悩んでいたら、そんな俺を見て光星がクスクスと笑ってくる。
「全部頼んで半分ずつする?」
「えっ!うん!いいん?」
「いいよ。じゃあそうしよ。」
光星はなんでも良かったのか笑顔でそう決めて、店員さんを呼んで注文してくれる。
わくわくしながら料理が運ばれてくるのを待ち、5分ほどでずらりとテーブルにはいろんな料理が並んだ。
もう俺はよだれがだらだらと出る勢いでどれから食べようか料理を眺めていたら、またそんな俺を見て光星がクスクスと笑ってくる。
「なんで笑うん!」
「いや…永遠くん、ほんとにかわいいなぁと思って。」
…ほら!ほら!この人また今日も言うたで!
俺のこと『かわいい』って。
もう俺恥ずかしいわ。そんな優しい顔で言われて、照れてしまって光星の顔見れへん。
「…あれ?…永遠くん照れてる?」
「うるさい!冷めるしはよ食べ!!!」
「ふふ、……かわい。」
俺が照れてるのを見抜いてきた光星は、可愛げのない返事をしてしまった俺にも、またクスクスと笑っていた。
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